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第6話 敵か、味方か。 【変愛小説 M氏の隣人】

マユと連絡先交換をした後、尿意に襲われた僕はトイレへ向かった。

個室に入りズボンを膝までおろして洋式トイレに腰をかけると、ものすごい勢いで放尿した。酒を飲んでると信じられない量の小便が、制御不能で放出される。

長い放尿が終わる頃、ドアの外から誰かが入ってくる音がした。
長い放尿ショーを終えて個室を出ると、ナベさんが小便器で用を足している。

洗面所で手を洗い、鏡を見て髪型を整えていると僕の背後にナベさんが写った。

「ナベさん、どうも。今日はありがとうございます。ユリちゃんとイイ感じですね。」

「いえいえ、僕は別に笑 いやー、サワムラさん面白い、お話も上手いし」

思いがけずナベさんに褒められた。

僕の何をどう見てそう思ったのかはわからないが、面白いと言われるのは関西人にとってこの上ない褒め言葉だと思う。

「サワムラさん、よかったらまたご一緒しません? 僕の本拠地は東京なんだけど笑」

「東京?大阪に住んでないんですか?」

「はい。出身は大阪で出張で大阪にはしょっちゅうきてますけどね笑 サワムラさん面白いしノリも合いそうだし。よかったら、また飲みましょうよ。」

「こちらこそ、是非。今度は僕に女の子紹介させてください。」

「いえいえ、そこはお気遣いなく笑 じゃ、連絡先教えてください。」

手を洗い終えたナベさんと僕は男同士の連絡先交換をした。

ナベさんは普段東京に住んでいて、頻繁に大阪や名古屋出張があるそうで各地で飲み会を開いているらしい。

社会人になると学生時代の遊び仲間は激減する。

ナベさんのような遊び仲間が増えるのは、正直ありがたい。

じゃあまた、と僕に声を掛けたナベさんは先にトイレから出た。

携帯にはいくつか業務メールが届いていた。
こんなときに緊急案件は勘弁してくれよ・・・、と思いつつ内容を確認したら緊急案件はないようだ。

ホッと胸を撫でおろし席へ戻ると、マユ以外、誰もいなかった。

「あれ?みんなは?」

「ついさっき出られました笑 私もトイレ、いいですか?」

「あ、うん。」

支払いはすでに誰かが済ませていた。
そして、僕とマユだけが店に残された。

もしかして、ナベさん・・・あなたは



上杉謙信ですか?



戦国時代、塩がなくて困っていた武田信玄に、ライバルの上杉謙信は塩を送った。これが「敵に塩を送る」という言葉の語源だが・・・

まさに今の僕は、武田信玄の気持ちだった。

合コン自体は楽しかったが中心人物はナベさんで、キクチはその友人。

ナベさんと初対面の僕は、常連客がマスターと話して盛り上がってるオーセンティックバーに入ってしまったようなアウェー感を少なからず感じていた。

だが、それは最初だけでナベさんは初対面の僕にも話をふってくれたし、僕が話すと大声で笑ってくれたりもした。

そういえば、合コンは戦場に似ている。なぜなら、男同士で時に女の取り合いになることもあるからだ。

自分以外の男を敵視する男も多い。

だが、ナベさんは違う。

ナベさんは僕を敵ではなく同志のように扱ってくれた。

なんなら、最後はスマートにマユと二人きりになりシチュエーションを作ってくれている。

もうね、これは上杉謙信ですよ。

争いや裏切りがあふれ、弱肉強食の合コンに救世主のごとく現れた最強の戦国武将、上杉謙信ですよ。

ナベさんの下の名前が謙信だったらなんて素敵なことだろう・・・

などとくだらないことを考えていたら、マユがトイレから戻ってきた。

「じゃ、僕らもそろそろ行こうか。」

「はい。」

トイレから戻ったマユは、なんだか印象が変わっていたように思った。

もっと地味で、色気など皆無かのようなファーストインプレッションだったけど、なんだか一人の女に見えたがその理由はわからない。

店を出て歩いていると、マユから手をつないできた。

これは・・確実にイケる。

男なら誰もがそう思うだろうが、当然に僕もそう思った。

なぜか?

マユが一人の女に見えた理由がわかったからだ。

僕よりも小柄なマユの胸元を見ると、紺のブラウスのボタンがひとつ外れ白いブラジャーがチラっと見える。

神様に誓ってもいい。飲み会当初はボタンは全部しまっていた。

しかし、今、まさに、今!


イチ…ジュウ…ヒャク…セン…!!!


のような鑑定団ほどの単位ではないものの、ボタンが二つも外れているのだ!!

今日は完全にもうね、イケましたよ。池のめだかですよ、と心の中は踊りまくっていたが

「サワムラさん、ごめんなさい。今日はどうしても家に帰らなきゃで。」

まだ誘いもしてないタイミングで、マユからゲームセットが告げられた。

「そうなんだ、もちろんもちろん。」

「よかったら、今度ウチで飲みませんか?」

これが、マユとの始まりだった。

いや、

終わりの始まりだった。


つづく。







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