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「映画な一日」と「今日の一冊」

 梅雨晴れの某日、商業施設が立ち並ぶ福岡・天神地区から歩いて10分ほどの場所にある「KBCシネマ1・2」へ行ってきました。

 こちらの映画館、もともとは地元放送局であるKBC九州朝日放送が運営していた「KBCシネマ北天神」が前身。1998年5月に一旦閉館したものの、地元有志による署名活動を経て、同年12月に「KBCシネマ1・2」として復活したという歴史のある映画館です。

KBCシネマは福岡、天神北にあるミニシアター

 108席の「シネマ①」と80席の「シネマ②」からなるミニシアターで、なかなか観る機会の少ないドキュメンタリー作品を始め、リバイバル作品、毎週火曜日夜の1日1回限定「one shot cinema」など、所謂シネコンではかからない作品を中心にした、映画好きにはたまらないラインナップ豊富なミニシアターです。中には一週間に満たない上映期間の作品もあるので、定期的な上映スケジュールチェックは欠かせません!

 今回観た作品は「うつろいの時をまとう」

 2005年にデザイナーである堀畑裕之氏と関口真希子氏がスタートさせたファッションブランド「matohu」のドキュメンタリーです。

matohu(「まとふ」と書いて「まとう」と読む)には2つの意味が込められている。
一つは日本語の「まとう」。
身体を包み込むように軽やかに身にまとう服。
もう一つは「待とう」。
消費して捨て去るのではなく、自分らしい美意識が成熟するのを待とうという呼びかけ。
「日本の美意識が通底する新しい服の創造」をコンセプトに、
歴史や文化、風土から生まれるデザインを、
日本人らしいオリジナルなスタイルで発信し続けている。

「matohu」ホームページ「BRAND CONCEPT」より
映画「うつろいの時をまとう」チラシ

 そのシーズンのために制作されるテキスタイル(布地)。一枚の布地を作るためにコレクションのイメージをさまざまな言葉にして伝えるデザイナーと、デザイナーの意図することを紐解きながら、時間をかけ、意見を交わし、試作を重ねていく職人・作家の方々。

 そこには伝統を守りながら新しいものを生み出そうとする姿がありました。テキスタイルが仕上がったあとに、その布地を最も生かせるデザインを模索していきます。

 気が遠くなるような時間と手間を費やして生みだされた服は、季節やその移ろい、風の薫り、一瞬の瞬き……そういった「日本の美意識」を「まとった」ものでした。

 matohuの代表的ともいえるアイコンに「長着」というデザインのものがあります。この長着、15年もの間、型紙を変えずに作り続けているものだそう。「15年間も変わらず??」とお思いの方もいらっしゃるではないでしょうか。

 アイコン的・定番商品であっても、多くのブランドはその時々で時代のエッセンスをデザインに反映させます。しかしながら、matohuの長着は型紙もすべて同じ。ただし毎シーズン違ったテキスタイルを使って作るので、違う布地、使う色、一度たりとも同じものはありません。

 「流行」という名で語られるものとは一線を画す、matohuの丁寧な「ものづくり」は、現在のファストファッションとはまったく違う時間軸で作り出されています。

 それはSNSのようなスピード感と、大量生産・大量消費が至極当たり前になっている今の時代に、とても眩しく、そして一筋の清涼のように感じられました。

 そんな映画を観たあとの「今日の一冊」。

 デザイナーの堀畑氏はもともと大学で哲学を専攻されていたそうです。カント哲学を研究し、カントの書物を読み、ドイツ語の論文を読み……。そういった毎日を送る中で「これからずっとこんな風に過ごしていくのか?」と考え続けた結果、「自らの手を動かして、ものをつくり出したい」という強い思いが溢れ、ファッションの世界に飛び込んだそう。「自らの手を動かしてものをつくる」、これはまさに「ものづくり」の原点ではないでしょうか。

 さまざまな分野で効率化が図られる中、ただ「正確」にモノを作るだけであれば、それは機械で十分事足ります。
 しかしながら、人が「ものづくり」をするということは、そこに「感性と感覚、知恵と工夫」がプラスされ、そこから新たな発想を生み出すことに繋がっていくはずなのです。
 「ものづくり」は「人づくり」、知恵と工夫から生まれた発想と、それを支える町工場の技術がどういったものか?!

 当社小学校中・高学年以上対象の新ノンフィクションシリーズ“ちしきのもり”の『町工場のものづくり─生きて、働いて、考える─』(著:小関智弘)には、さまざまな町工場で働く人の思いや工夫がたくさん詰まっています。是非本書で「ものづくり」の思いを確認してみて下さい!

~おまけ~
 映画の中で「日本の眼」シリーズ「無地の美」の制作にあたり、デザイナーのお二人が日常の中の「無地の美」を見つける姿が描かれています。地面のアスファルトに描かれた道路標示の擦れであったり、電柱の表面だったり。スマートホンを片手に撮影する様子を真似て、私も道路標示の写真を撮ってみました。なかなかアートな感じ?!


【書籍情報】
📚 ちしきのもりシリーズ(7)
町工場のものづくりー生きて、働いて、考えるー 小関智弘:著
現代の子どもたちは、受験も恋愛もすべてがマニュアル化され、実体験を通して自分自身で考えることが少なくなってきていると言われています。
日本のものづくりのすごさを紹介しながら、自らの頭で考え、工夫することの大切さと、そうすることによってこそ見えてくる働きがいについて、熱く語ります。

 全国の書店様をはじめ、Amazon楽天ブックス紀伊國屋書店hontoなどでご購入できます。








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