2022/3/7週｜🏋️‍♀️キャリアのバーベル戦略🏋️‍♀️ 新社会人をやり直すとしたら意識すること。

中川祥一｜タイミー執行役員CMO

2022年3月12日 21:12

気候的にはそろそろ春ですね。

この季節になると新卒の頃を思い出します。

社会に出て10年以上、30代半ばになって、今まで1社でやってきた学生時代の同期から、初めての転職に関する相談や実際に転職した話を聞くことも増えてきました。

自分が新卒の頃といえばまだ終身雇用が「普通」という感覚で、同期の話を聞くと時代の移り変わりを感じます。

自分はと言えば、すでに4社目。広告代理店に始まり、事業会社サイドでのマーケター職、現在はスタートアップで執行役員CMO（Chief Marketing Officer）職を務めさせてもらっています。

同じ大学の同期と集まると、その選択や経験社数、業界から、どちらかといえばまだアウトサイダーというか珍しい方に分類されます。（メーカー・商社・金融機関などに就職する友人がメイン。半分以上はまだ1社なのではないかなと。）

今日は、自分も旅の途中といいますか、今後2度も3度も、、まぁおそらく5度くらい？は脱皮していかなければならない若輩者ではあるのですが、社会に出てから10年以上経った実体験を振り返ることで、これから社会に出る方に今後の選択の材料を提供できればと思い、キャリアについて書いてみたいと思います。

後半はもう一度新社会人をやり直すとしたら何を意識するか、という観点で、「2022年の自分から、2009年の自分へのアドバイス」という形で書いてみたいと思います。
自分のストーリーを書きたいというよりは、バーベル戦略（by タレブ）も念頭におきながら実体験の学びを書いてみるので、ご自身の人生を創っていく材料としていただければと思います。
（あくまで一つの例なので、その辺り各自割り引いて読んでいただければ幸いです。）

社会人以前〜 1社目のストーリー

2009年へのアドバイスへとつなげるために、最初に少し個人的なストーリーにお付き合いください。

就職先を選ぶ

まず、就活を通じて自分のような特に何もない人に内定をくれた会社・縁に感謝しつつ・・・。

振り返って一番悩んだのは社会に出て最初にどこに身を置くか、でした。

具体的な悩みは「オプションが少なくなる、人生が決まっていく怖さ」です。
高校時代にも文系か理系か、否応なく選択を迫られる中で、半分くらいの選択肢が削られることに対する拒否感があったものですが、それの続きで会社を一つ選ぶことで道が狭まっていく、自分の人生が決まっていくことへのアレルギーのようなものがありました。

どちらにせよどこかに身を置いて社会人人生をスタートすることは避けられないのですが、大学生の自由さとのギャップから、中々決定しきれない自分がいました。

10年以上経った2022年から見ると、その後、オプションってやつは思っていた以上に狭まることはなく、むしろちょっと広がっていく感覚もあります。
ただ、その広がりをつくるのは社会に出てからの自分でもあると実感するので、その辺りも後で触れたいと思います。

===

当時の自分は売り手市場であったこともあり、ありがたいことに幾つかの中から選択させていただく機会をもらっていました。

広告代理店・経営コンサル・ニッチな領域だけども非常に技術力のあるメーカー・金融系...などなど。

当時の自分は、それぞれが以下のように見えており、最終的に広告代理店を選びました。（個人の感想で悪気はないのであしからず、、）

広告代理店

「若いうちから経営の意思決定の近くで仕事がしたい（経営学を専攻していたので）」に少し近い。一つの商品をどう売るかというプロモーション観点から意思決定に携われるのではないか。
大学3年生の時にインターンに参加させてもらったが、クリエイティブな議論にあまりついていけず、正直向いていないなと思っていた

経営コンサル

「経営の意思決定に携わる」には一番近かったし、どの人に相談してもお薦めされた。
相対的に待遇もよかった
ただ、手触り感がなさそう。。
懇親会とかで話す中でたまたま当たった中の人があまりリスペクトできない・・・（悩

金融系

大きい組織で、Day1から何をするか見えない。変動（今で言うガチャ）要素が大きそうだなぁ。
先輩が毎日スーツで大変そうだ（すみません、なめていますね、、）

メーカー

（終身雇用前提で）自分はこの製品やサービスに人生をコミットメントできるだろうか...
飽き性な自分にはあわないかもしれないな...

このような中どう決めたかというと、2022年から振り返って、最終的には2つの観点から決めていたように思います。
一つは自分の特性や性格です。飽き性だからクライアントワークの方が良いだろうなぁ、という判断です。
もう一つは、コンサルとの比較においての手触り感で、一つのプロダクトをどう消費者に届けるかに携わる広告代理店に入社させていただくこととしました。

終身雇用が主流ではあったので、転職するかどうかもわからず、広告代理店には合わないと思う面も見えていたので一抹の不安を抱えながら・・・

1社目の環境

こうして広告代理店に入社したわけですが、配属は、蓋を開けたらデジタル系の会社への出向、でありました。
ストラテジックプランナー（広告代理店の中のマーケ職）志望で、第二か第三希望には「経理」と書いていたアウトサイダーの自分としては、まさに、青天の霹靂。

人事との入社後面談での「ブログ書いているよね？」

あれがまさか伏線だったとは😇

ただ、2006, 7年くらいから自分のブログにアクセス解析ツールを突っ込んで、夢中になって分析していた経験は確かにあったので、人事からすると向いているように映ったのかもしれません。。

後のアドバイスの章でも触れますが、初めて社会に出る時には配属の妙というか運、のようなものがその後を左右することもあることはここで指摘しておきたいです。自分は振り返れば非常に運が良く、市場からもニーズがある領域に最初に配属してもらったことで、2022年の自分があると思っています。

もう一点、企業規模やカルチャーもキャリアに大きく影響を与える要素です。自分が所属していた広告代理店は、相対的にサイロ化（縦割り）の影響が小さく、幅広い業務に手を出しても怒られない、懐の深い環境でした。結果として20代のうちに様々な試行錯誤やスキルを身につけることを許してもらっていた認識があります。

===

2009年頃はまだSNS（FacebookやTwitter）がちょうどユーザーを増やし出していた頃で、デジタル広告の世界も伸び盛りで徐々に存在感を増している、そんな頃だったと思います。純広告とターゲティング広告・アドネットワークあたりがメインな時代でした。

そんな中、1年目の自分は苦戦していたと思います。

デジタルメディアをプランして販売する、という面において、まず先輩やメディアサイドの方々に知識で劣るのでわからないことが多くご迷惑をおかけすることが多い、仕事がバケツリレーになり付加価値がない、そんな状況が続きました。

少し知識がついてきても経験で勝てず、並べたとしても自分なり部分を出すのが非常に難しく感じたのがこの頃です。

転機になったのは「デジタルマーケティンググループ」と呼ばれる新設部署に異動になったことでした。ここで調査・分析・示唆出し・ビジュアライズ化（ドキュメンテーション）を大量にこなし、基礎力が身につけられたのは今に繋がっているかなと思います。

もちろん、この過程でも悔しい思いをたくさんしました。目の前で自分が作った資料を消されイチから作り直しをさせてしまったり・・・（先輩のお手を煩わせました）

そんな中でもなんとか食らいついて、1年目の終わりくらいは充実感を感じながら仕事できている状態となりました。

デジタル人間がマス広告の世界を学ぶ

2年目も終わる頃、社内の部署異動がありました。デジタル領域に加えて、TVCMを中心とするマス広告のプランニングを行う部署でした。

この辺りから、僭越ではありますが自分なりの価値、のようなものを少しずつ発揮できるようになった感覚があります。

具体的にいうと、デジタルとマス広告の掛け算は、ニーズはあるものの、他にやっている人があまりいなかったので初めて求められる感覚を得ていきました。
例えば、検索量のトレンドから出稿期間をプランニングする・エリア分析のデータにデジタルマーケティングで取得できるデータを活用するなど、2022年時点では「普通」になっていると思いますが、当時は物珍しさがあったかと思います。

加えて「データ分析」を深掘りしていくチームに入ることでよりその辺のスペシャリティを尖らせていくことができました。（統計学など）

2022年から2009年へのアドバイス

個人的なストーリーが長くなってしまい恐縮ですが、ここから少し客観的にキャリアに影響を及ぼす事象を整理し、もう一度新社会人になるとしたらどんなことを意識するかを言語化していきたいと思います。

キャリアのバーベル戦略

2010年頃に『ブラック・スワン』（ナシーム・ニコラス・タレブ著）を読んでから、キャリアにおける「バーベル戦略」を意識しています。

ブラック・スワンとは、次の3つの特徴を備えた事象のことを指します。

①異常であること。過去に照らせば、そんなことが起こるかもしれないとはっきり示すものは何もなく、普通に考えられる範囲の外側にあること。
②とても大きな衝撃があること
③異常であるにもかかわらず、私たち人間は、生まれついての性質で、それが起こってから適当な説明をでっち上げて筋道をつけたり、予測が可能だったことにしてしまったりすること。

『ブラック・スワン』上巻 P.4

金融危機や現在のコロナ禍、日本だと特に震災なども該当すると思われます。本書の中で出てくるものは、インターネット、コンピュータ、レーザーなどがあります。

七面鳥がいて、毎日エサをもらっている。エサをもらうたび、七面鳥は、人類の中でも親切な人たちがエサをくれるのだ、それが一般的に成り立つ日々の法則なのだと信じ込んでいく。（中略）感謝祭の前の水曜日の午後、思いもしなかったことが七面鳥に降りかかる。七面鳥の信念は覆されるだろう。（中略）七面鳥は、昨日の出来事から、明日何が待っているか推し量れるだろうか？

『ブラック・スワン』上巻 P.88

ぜひ、本書にもあたっていただきたいのですが、ここでは本記事を理解する上で必要な点だけ列挙します。（下記）

・私たちは要約するのが好きで、単純化するのが好きだ。（中略）私たちが道を踏み誤るのは、この性質のせいでわかった気になるときだ。（講釈の誤り）
・私たちは繰り返すことで学ぶ。その一方で、それまで起こっていない事象のほうはなおざりにする。繰り返すことのない事象は起こるまで無視され、起こった後は（しばらくの間）過大評価される。2001年9月11日のような黒い白鳥が起こると、再び起こる可能性はおそらく低くなっているのに、人はまた起こると思ってしまう。
・将来を予測するとき、私たちは外れ値や不利な結果を無視してしまいがち
・私たちは自分が予測をする段になると、ものごとは予測できないということをすっかり忘れてしまう。
・（カール）ポパーの主張の確信は、歴史的な事件を予測するには技術進歩を予測する必要があり、技術進歩は本質的に予測できないという点にある。
・そんな未知でも、自分にどんな影響を与えるかを推し量ることはできる。（中略）事象が起こった場合のペイオフ（引き起こされる影響）や恩恵に焦点を絞ればいい。とても稀な事象の確率は計算できない。でも、そういう事象が起こった時に私たちに及ぶ影響なら、かなり簡単に見極められる。
・意思決定をするときは、確率（これはわからない）よりも影響（これはわかるかもしれない）のほうに焦点を当てるべきなのだ。

『ブラック・スワン』上巻 P.126, 150, 213 下巻 P.7, 14, 77

良いブラック・スワンの例として、「iPhoneが発表される前にiPhoneの登場を予測できた人がいたか？」というのを考えるとわかりやすいですね。

以上のような「いつ、どの程度のブラック・スワンが発生するかはわからない。ただ、起きた場合の影響がどの程度かわかる。」を前提に、どういう心構え・考えで臨むのが望ましいかを示したのがタレブの提唱するバーベル戦略です。

・黒い白鳥のせいで、自分が予測の誤りに左右されるのがわかっており、かつ、ほとんどの「リスク測度」には欠陥があると認めるなら、とるべき戦略は、可能な限り超保守的かつ超積極的になることであり、ちょっと積極的だったり、ちょっと保守的だったりする戦略ではない。
・お金の一部、例えば85%から90%をものすごく安全な資産に投資する。（中略）残りの10%から15%はものすごく投機的な賭けに投じる。

『ブラック・スワン』下巻 P.69

https://beomniscient.com/blog/barbell-content-strategy/

さらに、これをキャリアに応用する方法については、例えば下記などが非常に参考になるのでご覧ください。

バーベル戦略 × キャリアからの学び5選

自身の実体験と照らし合わせる形で、下記の学びは行動指針として使えるのではないかと思っていますので記載します。

❶安住の地はない、と認識する。
2009年当時、人気だった企業でもその後ずっと安泰かというとそうではないのは皆さんも肌感覚で理解できると思います。ブラック・スワンとして、例えば金融危機の影響で企業がどうなったか、今でさえコロナ禍と言われている時代でどのような影響が起きているか、、、

今人気の仕事や企業にはリスクも潜んでいることを認識するのが大事です。2009年の目線から、まさかこうなるなんて・・・という企業もいくつか思い浮かびます、、

❷影響に着目し、最悪の事態が起きた時どうなるか？と思考実験をする。
その上で、ブラック・スワンが発生したとき、どういう影響があるのかをシミュレーションしておくのはどうでしょうか？自身の勤める企業が危機的な状況に陥ったことを想定した場合、あなたにどんなオプションが残されているでしょうか？
この辺りを想像すると、例えば、英語勉強しよう・資格取っておこうかな・副業考えてみようかな、、あたりに時間を投資しておいた方が良いという判断になるかもしれません。

❸誠実な仕事をする。
この10年を振り返ると、思った以上に偶発性（自分で決めたことではないこと）により、自身のキャリアが決まっていると思います。
例えば、1社目での配属（デジタルマーケティング領域）が今日まで影響しています。
もう一つ大きいのは、人との出会いです。個人的にもリファラルなどの機会につながっていたり、「またいつでも戻ってこいよ」と言ってくださる方がいるのは、長く働いていく上で非常に重要なことと捉えています。
こうした偶発性により形作られる世界、かつ人材の流動性が高まっている現在では、誠実に仕事をすることが非常に重要です。

❹自分を市場に晒しておく。潮流を把握する。
最初の配属は自分にとってはいい意味でのプチ・プラック・スワンだったと思います。
市場で需要が高まるマーケティングのデジタル化の文脈に身を置けたことは自分の場合は運に恵まれての結果でしたが、より意識的に確認をしておくことは大事だと思います。世の中の流れそのものも移りゆくため、市場に自分のできることややっていることを晒しておき、ニーズがあるのかどうかの確認を適宜行えると良いかと思います。

❺超保守的な戦略 = 学び続ける。
タレブのバーベル戦略において90%を占める超保守的な投資、の最たる例は「学び続けること」であると考えています。
状況が変わっていくことや何らか大きな影響がいつか起こることを前提にしつつ、対策（学びにより自分が成長・変化すること）をしておけば基本的に詰むことはないと思います。
自分が学生の頃に感じていた「オプションが狭まる感覚」もこの学び続ける癖さえあれば感じないまま過ごせると思います。むしろチャンスが広がるかもしれません。

最後に、以上も意識しつつ、もう一度社会人を始めるとしたらどんなことを意識するかを2つのケースについて考えてみたいと思います。

ケース1：安定した企業から社会人を始める場合

安定の中でチャンスの大きい（= ニーズはあるけど、できる人が少ない領域）でスペシャリティ・専門性を磨きながら価値を出すことを目指します。
配属などコントロールできない要素もあるので、思い通りにいかない可能性もありますが、諦めずに、異動や社外の活動でそうした領域・実績を積む機会を探ります。

組織がサイロ化しており業務が限定されるような場合は、自分の仕事の市場価値がどの程度なのか、早いうちから外部の目線を取り込んでおきたいところです。

福利厚生で支援があったりすることも多いと思うので、英語やファイナンス、統計などどこに行っても役に立つスキルを最低限習熟できるよう学び、チャンス（良いブラックスワン）が来た時に選んでもらえるように準備します。

ケース2：スタートアップから社会人を始める場合

前提としてスタートアップに身を置くこと自体が、リスクをとる選択肢であり、タレブのバーベル戦略の10%に当たる部分であると思います。
この場合は日々の業務は超保守的な観点で業務を構成するのが良いと思います。
具体的には、20代なら一つのスペシャリティだけを追い求めるよりも複数のスペシャリティ（ジェネラリスト寄り）を追求した方がいいと思います。
なぜなら、そのスペシャリティの領域が吹き飛ぶ可能性があるので、一つをある程度理解したら別の領域を、、という考え方の方が良いのではないというのが自分の考えです。
また、その中で向き不向きや好き嫌いを把握することもできますので、その後の方針決めの材料にすることも可能です。

蛇足：マーケ職での副業について

上記にも関連するのですが、個人的には20代のうちは一つのスペシャリティ（例えばデジタル広告の運用）を活用した副業はあまりおすすめしません。その領域自体が吹っ飛ぶ可能性があるので、そのスキルに頼りすぎるのは望ましくありません。それよりも将来に向けた投資（仕事で直接関わらないことを学ぶなど）に時間を使う方が長期的に見たらよいのではないかと思います。
英語でもがんばれ、と2009年の自分には言いたいです。笑

今日はこれから社会に出る人向けに、キャリアについて書いてみました。
タレブの著書は今回触れていない『反脆弱性』含めてお勧めですのでお時間ある時に手に取ってみてください。

参考図書

ではでは。
この後また夢でお会いしましょう、アディオス👋

この記事について

株式会社タイミーで執行役員CMOを務めている中川が、マーケティング関連の仕事をしている中で感じたことを綴り、コツコツと学びを積み重ねる『CMO ESSAY』というマガジンの記事の一つです。お時間あるときにご覧いただければ幸いです。

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