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すべての子どもは消耗品じゃない(3)

🎈リキとユキトの場合

■4.リキの母(1)

放課後、担任の安曇先生との面談があった。

成績が伸びないことを相談するつもりだったのに、
先にリキの学校での様子を聞いてめまいがした。

リキが授業中に席を立って歩きだしたり、
急に廊下へ出て行ってしまったりするなんて、
今まで誰からも聞いたことなかったから。

「発達障害の可能性があるので、医師の診断を受けるといいと思います。
 息子さんに学校生活で困ったことはないかを聞いてみて下さい。
 ただ「困っていることがあるか」と聞いても、
 うまく説明できないお子さんの方が多いので、
 答えやすいようにイエスかノーで返事できるように
 簡単な選択肢を出して聞いてみるといいと思います。
 医師の診断結果が分かったら、私に教えて頂けませんか?
 少しでも息子さんが学校で生活しやすいように改善したいので。」

ショックすぎて言葉が出てこなかった。
頷いた後、先生に何か聞いた方がいい気がしたけれど、
何を教えてもらえばいいのかも分からない。

まさか。
、、、、、、まさか、リキが?
発達障害って、リキが障害者ってこと?

感情も考えも混乱してしまって落ち着けない。
今日はもう塾はなしだ。
とりあえず家でゆっくり考えようと学校を後にした。
廊下でママ友にあった気もしたけれど会釈ですませた。
何でもない天気の話すらできる気分じゃなかった。

家に帰ってゲームをしてたリキを見た瞬間、
急に涙が出そうになった。

リキ、リキは学校で辛い思いをしているの?
困っているのに誰にも言えなかったの?
どうして教室から出て行っちゃうの?
いくらでも聞きたいことはあった。

だけど、問い詰めるばかりじゃ不安にさせるだけ。
できるだけ落ち着いた声で話しかけてみる。

「リキ、先生がお医者さんとか療育に行った方がいいって。」

「リョウイク?」

「放課後に、別の小学校に行くことだって。
 いつもと違うお勉強をするらしいよ。
 あ、今日の塾はお休みしようね。」

いつになく不安そうな表情をしているリキ。
そうだよね。
いきなりそんなこと言われても分からないよね。

「ママ、怒ってる?」

「怒ってないよ。なんで?」

「怖い顔してるから。」

リキの言葉にハッとする。
リキに表情を読まれるなんて思いもしなかった。
小5の男の子ってそんなことできるんだっけ?
今までもそんなことしてたっけ?

「怒ってないよ。大丈夫だよ。」

ヘタな作り笑顔になってしまったけど、頑張って笑ってみた。
しっかりしなきゃ。
しっかりしなきゃ。
私がお母さんなんだから。

「ならいいけど。」

またゲームに夢中になったリキを見てると、
リキが発達障害だなんて思えない。

普通の元気のいい小5の男の子で、
みんなと同じように塾に行ってて、
普通に中学も高校も大学も行く予定だし、
旦那と同じようなサラリーマンになるはずなのに。

旦那と義母は医者にしたいみたいだけど、
医者になれるほど点数が高いわけじゃないから、
無難にサラリーマンになれればいいって思ってきた。

リキはどこにでもいる普通の元気な男の子なだけ。
それなのになんで。
発達障害って普通じゃないってことだよね?

だめだ、ショックが大きすぎる。
気が滅入って晩御飯を作る気力が出ない。
洗濯物を畳む気力も、作り笑顔ももう出ない。

あぁ、リキが汚したテーブルも、
ほったらかしのプリントたちも
すべてが面倒で仕方ない。
気分のままに泣いてしまいたいけど、
リキを不安にさせてしまうから今は泣けない。


夕食後の旦那に相談すると、
「リキのことはお前に任せてある。
 仕事が忙しいからお前がどうにかしろ。
 母親なんだからお前の仕事だ。
 責任もってちゃんと育てろよ。
 医者が無理なら、せめて官僚狙いで。
 最低でも、俺と同じ大学には行かせろ。」
冷たい答えの後、すぐに自室に行ってしまった。

話し合いを拒否する背中を追い掛けてまで、
この続きを話しあう気力はもう出ない。

ひとりでどうすればいいの?
子育てって私だけの責任なの?
もうまるっと投げ出して泣きたい。

ドリップコーヒーがおちていく様子をぼーっと見つめてしまう。
一滴一滴零れ落ちるたびに心が静まっていく。

そうだ。
リキに9時に寝るように言わないと。
宿題やプリントのチェックしないと。
女の子ママさんに明日期限の提出物がないかLINEで確認しないと。
明日の朝にリキが着る服と靴下を準備しないと。
朝食用のご飯をセットしないと。
それから、それから、、、、、、。

のんびりコーヒーなんて飲んでる場合じゃない。
目の前にはやるべきことがいつも山のようにある。

習慣でいつも通り手を動かしながらも、
旦那の発言にまだショックを受けていて、
ひとりぼっちの気分になってしまう。

わたし、何かした?
育て方、間違った?
たまごクラブからひよこクラブまできっちり読みながら育てたのに?
ネット情報もまめにチェックしたし、ママ友ともうまくやってるのに?
幼稚園でも小学校でも今まで何も言われなかったのに?

なんで。
なんで。
なんで?
頭のなかでぐるぐる回る。

そんなはずはない。
リキは普通の男の子だ。
私たちの子が普通じゃない訳がない。
きっと、安曇先生が間違ってるんだ。

『学校での様子を見ている限りですが、
 多動と思われる行動が頻繁にあります。
 正確なのは医師の診断です。
 予約を取るのに数カ月かかるので早めに連絡して下さい。
 療育については、教頭経由で手続きすることになります。
 後日で構わないので、毎週通えそうな曜日を連絡して下さい。』

静かな声で告げられた言葉たちを思い出す。

リキが発達障害だとしたら、
悪いのは私の育て方だろうか、
もともとの遺伝なんだろうか。
医者に掛かれば治るものなんだろうか。

”発達障害”をスマホで調べていると時間の感覚が消えて、
気分はどんどん落ち込んでいく。

男の子だから、この程度のことは当たり前じゃない?
リキは普通でしょ?
リキがおかしいんじゃない、、、たぶん。

深夜零時のキッチン。
そう思いたいだけの馬鹿な私がいた。

きっと今夜は眠れない。
眠れる気がしない。

神様お願い、私達を助けて。



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