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すべての子どもは消耗品じゃない(7)

🎈リキとユキトの場合(最終回)

■10.リキの家族

その日の夕食が終わった後にさっとテーブルを片づけて、リキと旦那に言い渡す。

「今から第1回、家族会議を開きます。」

「なにそれ。」

「聞いてないぞ、、、。」

「いいから。大切なことです。はい、全員座って。」

不思議そうなリキと、明らかに嫌そうな旦那を前にきっぱりと言い切る。
”今の私は桜木花道。ダンコたる決意で挑むのだ!”と大好きなアニメの主人公の強気モードを真似てみる。


「最初に、パパに言いたいことがあります。
 リキは、医者も官僚も目指しません。
 パパの叶わなかった夢を代わりに叶える為にリキを産んだんじゃありません。
 リキにはリキのやりたいことや夢があります。
 たとえ今は無くても、将来できるかもしれません。
 本人が自分で選んだ道を歩むのが一番です。
 パパからご両親にもそう伝えて下さい。

 それから。
 リキの意志を聞きもしないで、自分の思い通りにしようとしないで。
 高すぎる理想をリキに押し付けないで。
 自分の言うことを聞く間だけ可愛がって、思い通りにならなくなったら叱るなんて、消耗品みたいな扱いはしないで。
 リキは何年も望んでやっと手に入れた大切な宝物でしょ。
 リキは私達の子どもだけど、私達のモノではないからね。
 親として、自分勝手な行動でリキを傷つけないようにしよう。
 リキ、パパもママも応援するから、親子3人で助け合っていこうね!」


旦那がびっくりして、次に怒った表情になった。
私からの一方的な宣告に腹が立ったんだろう。
これも想定のうちだ。

「俺はリキを消耗品扱いなんてしてない。
 ただ、リキの将来を心配して、よい点数がとれるように注意してるだけだ。」

「悪かった点数を注意することが心配なの?
 点数が悪くて落ち込んでるリキに追い打ちをかけるだけだよ。
 リキは怒られるのが怖くて、テストも塾も怖くなってたんだよ。
 塾の時間が近くなるとお腹が痛くなるまで、私達が追い詰めちゃってたんだよ。」

旦那が呆然とした顔で私をみる。
リキがまっすぐに私を見つめて不安そうに言う。

「ママ、俺のことでパパと喧嘩しないで。
 塾、ちゃんと行くから。俺が悪いから。
 安曇先生が言ってた病院にも行くから、もうパパを怒らないで。
 こういうの怖くてやだ。」

泣きそうな表情を見て、胸が痛くなって息が苦しい。
リキがパパをかばえるほど成長してたなんて。

「今日、リキに聞いたの。
 どうして最近、塾に行くのが嫌なの?って。
 テストの点数でパパをがっかりさせるからだって。
 パパが喜んでくれる点数がとれない自分が嫌いだって。」

ダメだ、涙が出てきてしまう。
冷静に話さないと聞いてくれないタイプの人なのに。

「だから、塾や学校の成績でリキを責めるのは”なし”です。
 リキが分からない所は私たちが教えてもいいじゃない。
 困ってるのに、追いうちをかけて責めるのはやめよう。
 困ってることを解決する方法を一緒に考えようよ。」

旦那を一方的に責めるのはいい気分じゃないけれど、私が伝えなければ分かって貰えない。
諦めたような表情の旦那が口を開く。

「分かった。もう、点数のことでリキを責めない。
 リキが嫌だったら、塾はもう行かなくていいよ。
 リキ、怒ってばっかりでごめんな。
 かばってくれてありがとう。
 リキのこと大事に思ってるのにパパが間違えたんだ。
 仁香もこの前はごめん。
 びっくりしてどうしていいか分からなくてパニックになった。
 今まで仁香ひとりに育児を押し付けてごめん。」

旦那の言葉にビックリした。
香さんが言ってた通りだ、、、。
ただ、戸惑ってただけなんだ。

「パパ、ほんと?じゃぁ塾やめたい。俺、家で勉強する。」
生き生きした表情のリキに頬がゆるむ。
よかった。本当によかった。

「うん、いいよ。
 俺が帰って来てから宿題みるよ。
 算数と理科はママが苦手だからね。
 それから、リキが好きな科学館の年パスを買って、週末は科学館でリキの好きな科学を一緒に勉強する日にしよう。
 リキ、好きなことを勉強するのは楽しいぞ。」

だれこのひと?って言いたくなるほどの変わりっぷり。
旦那に何があったんだろう。
リキも同じことを感じたのだろう。不思議そうな表情で尋ねる。

「パパ、どうして急に変わったの?」

「FBで繋がってる友達が小学校の先生だから、リキのことを相談してみたんだ。
 いろいろと発達障害のことを教えてくれたんだ。
 ためになるサイトも紹介して貰って登録したし、サイトのZoom相談会の申込もしようと思ってる。
 発達障害のことは何も知らないから、パパも勉強するよ。
 今までママに任せっぱなしだったから、パパができることを探したんだ。
 仁香、病院には俺も一緒に行くよ。
 リキが何で困っているかを俺もちゃんと知りたいんだ。」

嘘みたい、、、だ。
なんなのこの変わりよう。
香さんのご家族を羨ましいって思ったけど、うちだってこんなに温かい家族だったんだ。

自然と涙がこみ上げてくる。
すっかり笑顔になったリキが嬉しそうに教えてくれる。

「ねぇね、ママ知ってた?
 俺の名前とユキトの名前の漢字がお揃いで、ママとユキトのママもお揃いなんだよ。」

嬉しそうな顔でリキがプリントの裏に漢字を書いてくれた。

りき → 理希
ゆきと → 由希人

きみか → 仁香
かおり → 香

「ほら、赤ちゃんの頃から漢字の仲良しだったんだね!
 俺とユキトで気付いた時はめっちゃ盛り上がったんだよ。」

そういえば、、、。

「うんうん、ほんとだね。ビックリした。
 リキ、家でも俺って言うことにしたの?」

「うん、家ではいい子しないことにする。
 ずっとパパとお揃いの俺にしたかったんだ。」

なんのことか分からずに、きょとんとしてる旦那には後で教えてあげよう。
小5のリキが、一生懸命よい子で居ようとしてたことを。
子どもと大人の間でリキが成長していく姿を傍で見守れる幸せも。

私達は「これから」だ。




最後まで読んで下さってありがとうございました(*- -)(*_ _)ペコリ
リキとユキトの場合は、これにて終了となります。
ゴールまで見守って下さった皆さま、ありがとうございます💗


✨これまでの話はこちら


ここまで読んで下さった優しい皆さまへこっそり後日談。

仁香さんと香さんは翌年のPTAに立候補し広報を担当。
支援級のお子さんのことや発達障害やグレーゾーンのこと、学校の取り組みを取材してPTA広報誌に連載し、その年のPTA広報誌コンクールで入賞。

PTA広報誌を通して最強なふたりが広げてくれた温かい輪は、その後も代々の広報担当に引き継がれていくのでした。

後日談おしまい!

いろんなお子さんが居ます。いろんな大人も居ます。
ひとりひとり、得意なものも苦手なものも違います。
子どもも大人も、無理に全部を得意にする必要はないと思います。

得意なことやできることを伸ばして社会に貢献して、
苦手な事は得意な人に助けてもらうという相互扶助は
相手の苦手なことでマウントを取り合う社会より
ずっとずっと生きやすいと思います。

優しい世界が1ミリでも広がりますように。


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