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すべての子どもは消耗品じゃない(5)

🎈リキとユキトの場合

■6.リキ

今朝のママ、なんか違う。
ユキト君ママみたいにふんわり笑ってる。

パパもなんだかいつもと違う。
いつもは「塾で満点とって来いよ」っていうのに、
今日は「学校行く時は車に気をつけろよ」だった。

よくわかんないけど、いつもと違う朝。
嫌な感じじゃないからいいけど、変なの。

テーブルの上のオレンジのお花の水を替えて、いつも通り学校に行く。
今日もユキトの家には遊びに行けない。
ママがダメって言ったから。
ユキトが別の教室にいくようになってから、学校行く時しか会わなくなった。
一回だけ遊びに行ったことあるユキトの教室は、いろんなものがあって面白い。
けど、先生が「いいよ」って言った時以外は入っちゃダメな教室らしい。
なんでかはわかんない。

わかんないことばかりだ。
誰も何も教えてくれない。




■7.ユキトの母

スマホ画面にうつったLINE通知。
名前を見て「うっ」となったのは、正直な気持ち。
心の中の”苦手な人リスト”のトップに入ってる名前だったから。

読む勇気がでない。
ユキトのことで直接連絡してきたのかな。
何かやらかしたのかな。
「ユキトがリキ君を傷つけることはない」と思いたいけど、自閉症のユキトは空気が読めなくて、人の気持ちも自分の気持ちも分からない。
知らないうちに、何かやらかしたのかもしれない。

気分が滅入るのをハーブティで癒してから、ゆっくりとLINEの画面を開いた。

「ごめんなさい」から始まる長文にドン引きしつつも、気になって読み進める。
残り半分のハーブティがさめていくのに気づきながらも、画面から目が離せない。


発達障害のことでユキトとリキ君が遊べなくなった日。
ユキトはいつも遊びに来てたリキ君が来れなくなって、その変化に不安になったようだった。
自閉症は「いつもと同じ」が一番安心できるから、少しでも違うと不安になる。

私はご飯を食べれないほど傷ついて落ち込んだ。
LINEの「ごめんなさい」程度じゃ簡単に許せない、そんな簡単なことじゃ許せる気がしない。

今までのユキトとリキ君との仲良し具合を思いだして悲しくて、発達障害への容赦ない偏見が悔しくて、旦那さんの前で泣いてしまった夜。
彼女の行動は私も、話を聞いた旦那さんも傷付けた。

でも、読み続けるうちに流れてきた涙は止まらなかった。
このLINEを送るまでにどれだけ勇気が要っただろう。
一度は自ら拒絶した相手にここまでぶっちゃけるほど、追い詰められているんだ。

旦那さんに寄り添って貰えず、誰にも言えないひとりぼっちの気持ちで。
心細さ全開で、私に助けてほしくて必死なんだ。

止まらない涙をティッシュでふきながら、
すっかり冷たくなったハーブティを飲みほす。

彼女はきっと数カ月前の私だ。
ひたすらショックで自分を責めていた頃の私と同じ。
私と違うのは、「ひとりでも頑張ろう」と覚悟を持てたこと。
私は旦那さんが辛い気持ちを聞いて寄り添ってくれたから救われた。
当時は旦那さんにしか不安を話せなかったし、旦那さんがいてくれたから頑張れた。

それから、「話を聞いて欲しい」とママ友に言い出せる勇気。
臆病な私にはその勇気はなかった。
怖かった。
「知られたくない」って、そればっかりで。
「ユキトも私も仲間外れにされる」って思いこんで辛かった。

震える手で言葉をゆっくりうんでいく。

「正直にいいます。あの時はとても傷つきました。
 簡単に忘れられないし、簡単に傷も癒えません。
 ですが、いつか許せる日が来ると思います。
 お願いです。
 私よりも、ユキトとリキ君に謝罪して下さい。
 何も分からないまま従うしかなかった子ども達に、心から謝って欲しいです。
 また、仲良しのふたりに戻れるようにして下さい。
 
 分からないことが多いので相談したいとの件、了解しました。
 放課後、リキ君と遊びに来てください。
 子ども達が遊んでる間、お話しましょう。
 都合のいい日を教えて下さい。」

傷ついたことを隠すつもりはなかった。
これからも付き合おうと思うのであれば、正直に話すのがベストだと思った。
ぶっちゃけてきた彼女のように。

許せない気持ちとは別に、彼女の勇気に応えたいと思った。
知ってることで役に立てるなら伝えたいし、誰にも伝えられなかった辛い気持ちを聞いてもいいと思えた。
ユキトと仲良くしてくれたリキ君の為に。

私達をとても傷つけた人だけど、彼女が私を信じて勇気を出して連絡してきたのなら、私も彼女を少しずつ信じてみようって思えた。

天気や世間話や噂話の上辺だけの付き合いのママ友じゃなくて、
辛さを分かち合える本当の友達になれるかもって思えた。


学校から帰ってきたユキトがびっくりした顔のまま教えてくれた。
校門の前で待っていたらしい彼女が、ユキトとリキ君にごめんなさいと謝ってきたらしい。
「またリキと一緒に遊んでほしいって言われたから、いいよって言ったよ。今日は予定があるから、明日の帰り遊びに来たいって。」
と、淡々と報告するユキトはちょっぴり嬉しそうだった。





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