雑感『悪は存在しない』
本作のラストは多くの含みを持ち、多様な解釈を生んでいるようだが、本稿ではそこに至る登場人物の造形に目を向けていきたい。
巧と花—喪失感を共有する父娘
巧の妻で花の母である女性はおそらく亡くなっており、安村家のピアノとキャビネットに置かれた家族写真のなかでのみ、その姿が確認できる。
二枚の写真は家の中で撮られている。一枚目は巧の妻と花がピアノの連弾をしているとおぼしき場面、二枚目は家族三人でじゃれあっている場面だ。花が劇中と変わらない姿で写っていることから、巧の妻が比較的最