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自分の感情と価値観の理解が建設的な会話の第一歩

今回は、コミュニケーションの中でもあまり心地の良いものではない意見の衝突に関して考察を重ねたいと思います。家庭や職場で、どうしても意見が衝突してしまう相手がいたり、意見が衝突している人たちを見かけることがあると思います。自分の意見を伝えることの大切さを理解していても、その会話が建設的にならないと逆に嫌な思いをするだけで、それを避けたい気持ちになってしまうこともあると思います。

会話を建設的なものにするためには、自己認知力共感力組織感覚力などを養う必要があります。今回はハーバードビジネスレビューとTEDの動画を取り上げて、どうしてそのような感情知能を構成する力が建設的な会話を生み出すために有効なのかどうかの理解を深めたいと思います。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。


会話における感情の重要性

コロナ禍で新しい働き方として注目を集めたリモートワークは、時として必要以上に意見の対立を引き起こすことがありました。この動画では、その中でもよくある原因と、それを回避するための科学的なアドバイスを紹介しています。

コロナ禍では、どうしてもメールやチャットなどのテキストベースのコミュニケーションが多くなりがちだったと思います。お互いが同じ空間で顔を合わせて行う対話では表面化しなかったコミュニケーションの問題が、テキストベースでは様々な形で表面化した経験があるのではないでしょうか?これは一言で言えば、テキストベースでは感情の伝達が難しくなることに起因しています。対話では、顔の表情や声のトーンなど、様々な手段で無意識のうちに感情のやり取りも同時に行っていましたが、テキストでは言葉しか伝わりません。しかも、言葉の意味は、送り手の意図とは無関係に、受け取り手のバイアスに起因する意味と感情を伴って解釈されてしまうという脳の性質も影響します。いわゆる誤解と呼ばれる現象です。

特にネガティブな感情を引き起こすバイアスは、脳内のおしゃべりによって受け取り手の脳内で反復、増幅され、場合によっては気分が悪くなるぐらいの影響を及ぼすこともあります。これは決してバイアス自体に問題があるわけではありません。しかし、個人の価値観を脅かすような相手の表現に誘発された感情は、必然的に自分の中の様々な憶測をもとに「自分は正しい」と思い込むことになるのです。この思い込みは、自分の価値観が脅かされたことによる自己防衛本能のようなものですが、時として過剰に反応してしまい、状況によっては難しい結果になることもあります。

例えば、夫婦共働きの奥さんに対して、「旦那さんのご飯はどうしているの?愛想をつかされちゃうよ」というメッセージが届いたとします。皆さんがその奥さんの立場ならどのように解釈するでしょうか?今時、奥さんだけが料理をしなくてはいけないという固定思考は間違っている、とか、むしろ共働きなのに料理も洗濯もしない旦那に言えよ、など様々な反論で自分自身を正当化するスイッチが入り、様々な解釈が感情と共に沸き起こってきたのではないでしょうか?どのような解釈だったにしろ、恐らく、どれも自分自身を正当化し、相手の意見と対立しているのではないかと推測します。

自分の価値観を見つめ直す

自己防衛の感情は、過剰に反応してしまうと、激しい怒りや悲しみによって、いずれ自分自身も疲弊し傷つける結果になることさえあるために、気を付ける必要があります。しかしながら、そのような感情を決して無理やり押さえつけてしまうのではなく、時間をかけて、どうしてそのような感情が湧いてくるのか、どうしてそのような解釈をしてしまうのか、自分の本当の価値観を見つめる良い機会ととらえるのが良いと思います。また、その際に浮かんできた反論が本当に正しいのか検証できる冷静さを学ぶ機会でもあります。

例えば、「奥さんだけが料理をしなくてはいけないという固定思考は間違っている」という反論は、今の時代背景にはあっており、多くの人にとって納得感のあるものかもしれません。しかしながら、奥さんだけが料理をして幸せに暮らしている家族もあるわけで、そのような多様性を考慮せず、自身の正当性のみにこだわるのは好ましいコミュニケーションとは言えません。

一つに、自身の感情をうまくコントロールできていない点で自己認知力の欠如が感じられます。次に、多様性に対する共感力の欠如が感じられます。最後に、そのような表現に至った背景を鑑みる組織感覚力の欠如も感じられます。個人の価値観は、個人の経験に根ざしており、同じ時代を生きたとしても、家族や友達などの影響を大きく受けます。また、もし、旦那さんに意見があるのであれば、他人に反論する前に、旦那さんと話をするべきでしょう。

「仲の良い夫婦」のイメージは、自身の家族の経験に大きく影響を受けます。一人親、里親など家庭の形も様々ですし、戦争、政治の影響を受けることもあります。そして皆が考えるそのような思いを言葉に表現する際には、どうしても自身の経験やバイアスの影響を受けざるをえません。しかし、その表現は必ずしも相手にストレートに届かないこともあり、受け取り手を意図せず傷つけてしまうことがあることもまた事実です。コミュニケーションとは、このようにとても複雑で奥深いものであるがゆえに、感情知能の大切さが大きく注目を集めている要因の一つです。

人生に価値をもたらす感情知能

この動画では、脳の細胞は大人になっても増え続けるという研究成果を発表しています。がんの治療薬のように、細胞の増殖を抑え込むような薬などの影響がない限り、人の脳細胞は成長し続けるという解釈は広く認知されています。特に、動画で言及されている海馬 (Hippocampus) と呼ばれる脳の領域は、学習と記憶を司ると言われており、物事の構造を理解したり、感情をコントロールする際に重要な役割を果たすという解釈が一般的です。感情知能は、この成長し続ける脳を鍛えるためのものなのです。

たとえ細胞が増えても、それをどのように活用するのかはあなた次第です。すべての人間は赤ちゃんと呼ばれる未熟な状態で生まれ、そしてそこから死ぬまで成長し続けることができます。確かに、肉体的にはある時点から老化が始まり、死に向かうというのも事実ですが、健康であれば死ぬ直前まで成長できる自身の能力を改めて見直す機会になれば幸いです。


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