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共感と慈悲とリーダーシップの共通点

感情知能の四つの領域の中の三番目の領域である社会認知 (Social awareness) は、共感力 (Empathy)、組織感覚力 (Organizational awareness) の二つの特性から成り立ちます。今回の投稿では共感力に注目し、どのようにリーダーシップに影響するのかを考えてみたいと思います。

感情知能の四つの領域と14の特性

共感力とは、相手と感情を共有する力のことです。これは、自己認知の上に成り立つ二つの能力のうちの一つです。もう一つは、自己管理です。自己管理は自制の力を育み、共感力は慈悲の力を育みます。自制の力は、意志や人格のベースとなり、慈悲の力は、社会的・道徳的に他者から認知される存在になるためのベースとなります。今回も二つの TED の動画を参照しながら理解を深めたいと思います。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。

自己認知の上に成り立つ二つの能力

相手の感情を推測する

相手の感情は、あなたの感情とは別物です。しかし、自分自身の感情をもとに推測することはできます。これが、共感の最初のステップです。一方で、相手の感情表現は、あなたが感情をどのようにオープンに表現しているのかにも影響されます。したがって、相手の感情を推測する行為は、実は双方向であり、そのために、初対面の人であれば、間違える確率が高くなることがありますし、自分になじみの薄い感情の場合は、間違えることもあります。

これはつまり、自分の感情をよりオープンに表現できる人の方が共感力を高められることを意味します。相手の感情がわからないとき、自分の感情をどう表現したらいいのか戸惑った経験のある方もいるのではないでしょうか。相手が自分に感情をオープンにしてくれなければ、コミュニケーションは困難になり、共感の出発点さえもたつことは難しいでしょう。感情の自己認知を高め、感情の自己管理を高めることができたら、自分の感情をよりオープンに表現してみてください。そうすることで共感力を高めることができます。

自分の感情を相手に伝える

相手の感情を推測しそれを受け取ったら、そのフィードバックとして自分の感情を表現して相手に伝えます。この感情のキャッチボールを通じて、お互いの感情を共有します。その時に相手が違和感をあまり感じなかったら、共感に成功したということですし、そうでなければ、そうでないということです。感情のキャッチボールは、単に言葉(意味)のキャッチボールよりも心地良いもので、人々同士を結び付ける強い力となります。リーダーシップではこの力を必要とします。

この時、自分が相手に返す感情は、相手と同じである必要はありません。相手が表現した後ろ向きな感情を、前向き(ポジティブ)な感情で返すことで共感を得ることも可能です。このようにお互いの感情をより前向き(ポジティブ)な方向へと変更できることも共感力のなせる業の一つです。

共感と似て異なるもの

例えば、相手が不運な出来事に遭遇し悲しんでいるときに、自分も同じように悲しむことは、同情であり共感とは異なります。同情と共感は時に混同されがちだと思うので、違いを意識することは大切だと思います。感情の共有は、お互いが目的を共有している場合に可能です。不運な出来事に起因する感情は、そもそも共有にはふさわしくないでしょう。同情はそのような場合に適しています。

別の例として、SNS などの文字だけのコミュニケーションのように、事前に相手を理解できない場合も共感は難しいです。特に第三者の言葉に感情的に喜んだり傷ついたりしすぎないように注意する必要があります。共感とは単に相手の感情を推測する一方通行の力ではなく、感情をお互いに共有する力なのです。

また、意見が違うからと言って共感できないわけではありません。むしろ共感できるからこそ、異なる意見を最終的にまとめることも可能になりますし、逆に、必ずしも意見をまとめることが最善ではないと判断することもできます。いずれにしても、対立する意見の背後にある目的意識が共有されることで、食い違う意見を理解することができ、共感が可能になります。最終的にお互いの意見が違ったままであっても、共感できているかどうかはとても重要で、共感力は意見の対立にもとても役に立ち、リーダーシップに必要な力です。

共感は賛同することではない

この動画は、インターネットを介した創作活動に対する様々な批判的なコメントを、共感によって乗り越えていったストーリーです。彼は実際に批判的なコメントを送ってきた人たちと話をして、相手の背景を理解しようとしたところ、多くのケースで共感できたことを語っています。そして、それをポッドキャストとして公開しています。

動画のタイトルにもある通り、共感とは相手の意見に賛同することではありません。しかし、相手の背景を理解することで、そのような批判的なコメントに至った心情に理解を示すのです。彼のような過酷な状況での共感の体現は、とても真似のできるものではありませんが、共感の真の力がどのようなものかを教えてくれています。

慈悲と共感の真の意味

この動画は、死に直面する人々から学んだ慈悲 (Compassion) のストーリーです。彼女は、慈悲とは単なる心の状態ではなく行動力であり、構成する要素として三つをあげています。

  • 苦しみの本質を認知する力(共感力)

  • 苦しみを一変させる志と行動力

  • 結果に執着しない自制力

彼女は人はみな慈悲の力を持ち合わせて生まれているが、次にあげる三つの無意識のバイアスによりその力を発揮できていないと説いていて、幼いころからの教育の重要性を語っています。

  • 相手の不運に対する同情 (Pity)

  • 利己的な正義感に由来する怒り (Moral outrage)

  • 不安による現実逃避 (Fear)

同情と共感の違いは既にふれましたが、単に相手の不運を推測するだけの同情からは行動力が必要となる慈悲が生まれることはないのでしょう。「同情するなら金をくれ!」という昔の流行語が思い出されますが、同情がバイアスとして働いてしまうことがあることは気を付けたい点です。

また、慈悲は利他的な行動力であり、利己的な正義感とは大きく異なります。特にコントロールを失った怒りは、人々の分裂を引き起こしかねません。

そして、行動を伴うということは、結果も伴います。結果が期待されると不安になるものですが、しかし、結果に執着しないことの大切さも説いています。哲学者のルソーはかつて「不幸の本質は、欲望と能力のギャップにある。」と表現しましたが、結果に執着することに起因する欲望は、自身の不幸に繋がりかねません。自己犠牲は、慈悲とは相いれないのです。自分も他人も幸せになる、その過程も慈悲であり、必ずしも短期的な結果を求める必要はないのです。

行動力を伴うという点において慈悲とリーダーシップはとても似ていると思います。そして、感情知能はどちらにも有効な科学的なアプローチであり、鍛えることで高めることができます。共感力のあるリーダーと仕事をしたいとは思いませんか?もしそう思うのであれば、ぜひあなたが始めてみませんか?


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