見出し画像

自己管理の力を高める四つの特性: 回復力、適応力、やり抜く力、成長思考

自己認知によって自分の感情を理解することは、自己管理の能力を高め、家庭や学校、職場での人間関係を構築する基礎になります。職場においては、より感情をコントロールできる合理的な人は、信頼や公平のある環境を作ることができ、生産性を高められます。逆に言えば、リーダーの機嫌が悪ければ、組織全体の機嫌が悪くなってしまうでしょう。

感情知能の四つの領域の中の二番目の領域である自己管理は、回復力 (Resilience)、適応力 (Adaptability)、やり抜く力 (Grit)、成長思考 (Growth mindset)、ゾーン (Flow) の五つの特性から成り立ちます。今回は最初の四つの特性に対して TED の動画などを参照しながら理解を深めたいと思います。動画を見る際には日本語の字幕を活用してください。

感情知能の四つの領域と14の特性

回復力 (Resilience)

人生において様々な苦しみに遭遇することは避けられません。それは感情を揺さぶり、時に、そこから回復する糸口を見つけることも困難なこともあります。回復力とは、そのような状態から改善できる力のことで自己認知によって鍛えることができます。

この動画では、苦しみは自分の置かれた状況に対して、憐れみや諦め、根拠のない理想などで考えてしまう自分自身の傾向から生まれると説いています。どうして私は不幸なのか?どうしてあの人は私を苛立たせるのか?どうして私の努力は実を結ばないのか?誰もが一度は考えてしまうことではないでしょうか?私自身、同じ考えが何度も繰り返し浮かんできて、気分が悪くなったことがあります。この動画では、こうした思考の引き金となる出来事や経験を、自分を苦しめるものとして受け入れるか、自分を成長させるものとして受け入れるかは、自分の選択であり、自分の未来は自分で変えられると説いています。

以前、内省力の投稿で、有害な脳内のおしゃべりの話をしましたが、回復力とは、内省によって得ることのできる自分の感情と価値観への理解を、自分の成長のための行動へと変化させることを意味します。例えば、言葉とは不思議なもので、同じ意味の言葉でも、前向き(ポジティブ)にも後ろ向きにも表現できます。皮肉な表現よりも誠実な表現を使うことで、脳内のおしゃべりはぐっと健全になります。また「失敗」と「学び」は本質的に同じ意味であることに気が付くことも大切です。学ぶ必要がなければ、失敗はしないはずです。失敗をするということは、学びが必要であるということです。一時的な勝ち負けに執着しすぎると、本当に大切な成長の機会を失うかもしれません。回復力とは、成長というより大切なことに集中する、そのための具体的な行動をとることを意味します。

この動画では、ストレスそのものが健康を害するのではなく、そのように考える脳の働きによる影響が健康を害するという研究のお話です。夢は実現するという考え方がありますが、悪い方向にも働いてしまう可能性に対する発想は意外に抜け落ちているのではないでしょうか?ある種の確証バイアスかもしれません。前向き(ポジティブ)に表現するのか、後ろ向きに表現するのかは、あなたの健康と人生そのものに影響しうる大切なことであり、それはさらにコミュニケーションを通して、あなたの周りの人に伝搬する可能性もあるのです。

適応力 (Adaptability)

昨今はその技術革新のスピードから、変革の時代とも呼ばれます。デジタルトランスフォーメーション (DX) は情報技術 (IT) を用いた単なる業務の効率化ではなく、ネットとリアルの融合によるビジネスストラテジーの変革が求められるようになりました。適応力とは、外部環境の変化に対して自らの変化を受け入れ、前向きな気持ちを保ち続けられる能力のことです。

この動画では、適応力を高めるために、実現可能な新しい未来をいくつも想像し、探求心を持って、現状維持を良しとする固定概念に疑問を持つことの重要性を説いています。また、過去の成功体験が現状維持を過大評価し、適応力を鈍らせることも指摘しています。

子供の頃は、大人が作った教育システムによって変化を強いられるため、変化に抵抗感を持つ人もいるかもしれません。また、受験のような一回のテストの点数で成功や失敗を経験することで、長い時間の流れの中の浮き沈みの先に成長があるという考え方に違和感を持つ人もいるかもしれません。そのような感覚を大切にしながらも、一方で、自己認知によって成長し続けることに楽しみを見出すことで適応力を高めることができます。

現状維持の問題点は、外部環境の変化に気づかずに、実際には衰退しているという事実に気が付かないことです。適応力とは、自分とは違う考えや意見に関心をもって耳を傾けられるという行動力を必要とします。これは環境に適した成長を可能にし、その成長によって新たな可能性を切り開くことができます。若いころはスポーツを楽しめていたのに、現状維持していると思ったら、お腹周りがひどいことになっていた、ということが無いように気を付けたいものです。

やり抜く力 (Grit)

: 字幕で Perseverance が忍耐力と訳されていますが、この投稿では「粘り強さ」や「力強さ」と解釈しました。忍耐力と訳される Patience と区別をさせてください。この投稿の忍耐、忍耐力は Patience のことです。

やり抜く力とは、目標を達成することの意義に確信を持ち続け、実際に目標を達成する行動力のことです。長い道のりの中で、挫折や失敗があると、そこで心が折れることもあるかもしれません。しかし、失敗と学びは本質的に同じ意味であることを理解していれば、そこから得られる知見を次に生かすことができます。ビジネスにおいて実際にやり抜くためには、良い戦略が必要になります。したがって、そのような戦略を立案する支えとなる力であると考えても良いかもしれません。

一つ補足として挙げておきたいのは、やり抜く力と忍耐力の違いです。この二つは混同されがちだと思いますが、忍耐そのものは、やり抜くためには、不十分、あるいは必要ないと考えるのが適当だと思います。やり抜く力で最も大切なのは、目標を達成したいという強い気持ちを維持するために、その過程で得られる成長を前向きに理解する力のことです。目標を達成したいという強い気持ちだけでは忍耐です。

子供が好きなことに夢中になっている状態を思い浮かべると、理解がしやすいかもしれません。子供に色鉛筆を与えたら、すごい絵を描いたり、レゴブロックを与えたら、すごい作品を作り上げたり。子供はこれを長期間にわたって維持できますが、まさに、やり抜く力だと思います。

一方で、子供は忍耐力が弱いといわれますが、そもそも必要無いに越したことはないと思います。楽しいと思えないことに時間を費やしてやる意味が本当にあるのか、深く考えることが必要だと思います。大人の考えたルールが、必ずしも正しいとは限りません。忍耐力を長所だと考える人もいるようですが、忍耐の人生はとても悲しい話だと思います。

成長思考 (Growth mindset)

成長思考とは、成功も失敗も長い時間軸の中の出来事としてとらえ、その先にある成長に価値を見出す考え方です。人生は、成功か失敗かの尺度で判断されることが多く、受験、就職、人事、売上など、子供の頃から常に競争にさらされています。そして、成功や失敗というレッテル貼りは、その受け止め方によって、その後の結果に大きな影響を与えることになります。

成長思考とは、人生という長い時間軸の中で成功や失敗という出来事を認識し、継続的に成長しようとする意欲を感じることができる能力のことです。固定思考はその逆で、成功や失敗という出来事そのものを最終目標とし、常に成功は正しく、失敗は脅威であると認識する傾向のことです。この傾向は、自分の強みを優先し、自分の能力は他よりも優れていると考え、変化を避け、失敗を自分の能力とのミスマッチと見なします。逆に、成長思考を身につければ、適応力が求められる困難な課題や状況に直面したとき、より大きな回復力と粘り強さを身につけることができます。さらに、学習に対する前向きな姿勢を育むことで、モチベーションの維持や成長思考の好循環にもつながります。

成長するのか、競争に勝つのか

成長するのか、競争に勝つのか、この二つは異なる戦略が必要となります。ビジネスは、対外的には、競争であり、利益を追求し、株主に還元し、ライバルに勝つための戦略が必要です。そのために、自社の強みを最大限に生かし、弱みを理解し、外部環境の変化に注意を払います。確かに、負けや失敗は、学びと同義であるため、競争の中にも成長の機会はあります。しかし、成長したいのか、競争に勝ちたいのかは、重要な戦略の選択となります。現在のビジネスでは、この両方のいいとこ取りを狙ったハイブリッドなアプローチが主流になりつつあると感じています。感情知能としては、人間の成長に重きを置いていますが、人生においても、受験のような競争が必要になる場面は登場します。この二つの違いを理解し、適切に応用することで、人生をより豊かにすることができます。


ご愛読いただきありがとうございます。その他の記事はこちらのマガジンからどうぞ。

感情知能のトレーニングを始めたい方は、こちらのマガジンからどうぞ。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?