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この街に「さよなら」を
引っ越しにあたり「家」の何もかもの手配をようやく終えた。同棲していたから自由に過ごせる時間は限られていたし、一台だけの車は相手が使っていたから、行動圏内は限られていた。実は家から車で10分の場所に、本当はずっと行きたくても行けなかったカフェがあり今日市役所の帰り道、3年半にして初めて一人で訪ねてみた。
ヒナノ珈琲
埼玉県越谷市にあるこのカフェ、調べてみたらいくつか店舗があったみたい、それすら知らなかった。車で前を通る度に賑わう様子を横目で見てきて、そして食べてみたかったプリン。でも助手席に座る私は遠慮して「ここ寄りたい」と一度も言えなかった。
実家から自身で運転して訪れたそこはゆったりとした空気感の中、笑顔で時間を楽しむ人たちばかりだった。目の前にプリンを置かれて一口食べる。甘い。甘すぎる。でも何故かその瞬間、この埼玉県での時間がふつふつと頭に浮かぶ。うっかりすると泣きそうになるから目を閉じた。
誰も知り合いがいない土地、入社したばかりでお金がない、そして感情のぶつかり合いは辛く苦しかったけど、実家を離れ、誰かと暮らすという初めての経験をしたことに対しては後悔はない。相手にも色々なことを気がつかせてくれて感謝している。
「これで心置きなく、この街から離れられる。」
甘すぎるプリンを時間をかけ食べ終え、確かにそう思った。おそらくもう二度とこの場所に来ない、お店の前も通らない。だから、最後の最後に贅沢をして、明日からまたリスタート。信じる通りに自分が幸せになるために強く生きようと思う。
この街に「さよなら」を。
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