マガジンのカバー画像

本の感想記録✍️

36
運営しているクリエイター

記事一覧

こどものとも

こどものとも

 実家に帰ったついでに、実家の本棚を探っていたら、懐かしい漫画や本が出てきた。もう一度読みたいなと思ったものは、とりあえず自宅へ持って帰ることにした。ついでに、娘用の絵本も物色。私が子供の頃に読んで(もらって)いた絵本が、今もまだ本棚にずらりと並んでいる。

 福音館書店が出している、「こどものとも」という月刊誌は、私が幼稚園に通っていたころに購読してもらっていたもの。薄い冊子のような絵本の裏に

もっとみる
「いつまでも白い羽根」 藤岡陽子

「いつまでも白い羽根」 藤岡陽子

 小説家でありながら看護師としても仕事をしている藤岡陽子さんのデビュー作を読んだ。

 高校を卒業し、看護学校へ進学した女の子たちの日々を描いた作品で、社会人になってから看護学校で学んだ作者の経験が詰め込まれた作品なんだろうと思う。

 看護学校と聞くと、若くして将来の目標が明確に決まっている人たちが夢を叶えるために行く学校、というイメージがある。もちろん、そういう学生がいる一方で、主人公の瑠美の

もっとみる

「正欲」朝井リョウ

“読む前の自分には戻れない”—-帯に書かれたこの言葉どおり、なかなかぎょっとする小説だった。

水に性的興奮を覚える、といった特殊な性癖を持つ主人公たちの底知れぬ孤独を描いた物語。

昨今、あらゆるシーンで目にする、耳にする、”多様性”という言葉は、さまざまな価値観を受け入れる、温かく、懐の深い言葉として認識されているが、この本に描かれているのは、その”多様性”という傘の中から当然のごとく排除され

もっとみる
「自転しながら公転する」山本文緒

「自転しながら公転する」山本文緒

 ひっさしぶりに、長い恋愛小説を読んだ。

 主人公の都は33歳。東京のアパレルで働いていた彼女が、深刻な更年期障害を抱える母親の看病を手伝うため、茨城の実家に戻ってくる。茨城のアウトレットモールに入っている、特に好きでもないブランドで契約社員として店員をしながら、モールに入っている回転寿司屋でバイトしている貫一となんとなく付き合い始める。

 家族との距離、恋人との将来、上司や後輩との人間関係、

もっとみる
ハッピーな気持ちになれる本

ハッピーな気持ちになれる本

 三度目の緊急事態宣言の再延長が決まった。そもそも4月中旬に蔓延防止措置が出てから再び在宅勤務となり、あまり外出することもなく家で仕事をするだけの毎日だった。そんなぱっとしない日々に、とてもハッピーになれる本を読んだ。作者は青山美智子さん。3冊読んだけど、どれもほっこりと優しく、じわっと感動して、温かな気持ちになれる。

「猫のお告げは樹の下で」 とある神社に大きな樹がある。この樹はタラヨウといっ

もっとみる
「エデュケーション―大学は私の人生を変えた」 タラ・ウエストオーバー

「エデュケーション―大学は私の人生を変えた」 タラ・ウエストオーバー

 すごい本だとは聞いていたけど、想像以上に打ちのめされた。これは、タラ・ウェストオーバーという女性が、自身の凄まじい半生をつづったノンフィクションの回想録である。

 彼女は、アイダホの山で7人きょうだいの末っ子として生まれる。彼女の両親は敬虔なモルモン教徒であり、サバイバリストだった。サバイバリストとは、いつか世界が終わる、文明が崩壊すると信じている人々である。彼らは食料や武器をため込んだり、シ

もっとみる

「看守の流儀」城山真一

 このミステリーがすごい!大賞受賞作家による、刑務所を舞台とした人間ドラマを読んだ。金沢の刑務所で起こる5つの事件を、敏腕刑務官 火石司が解決していくというオムニバス。

 刑務所の中ってどんな感じだろう? 外からは決して知ることができない高い塀の内側を、怖いもの見たさにのぞき込みたくなる。そういえば私は昔、たまにテレビで再放送されていた泉ピン子の「女子刑務所東三号棟」を、怖い怖いと思いながら見て

もっとみる

「メイド・イン・京都」藤岡陽子

 京都の人ってやんわり皮肉を言うから怖い、とよく言われる。確かに、京都人は本音をズバッと言ったりしない。人当たりいいけど、なに考えたはるか分からへん、という人が多い気がする。また、ねっとりとした京都弁のせいで、婉曲された皮肉や嫌味は余計にいやらしく響く。

 京都人である藤岡陽子さんの書くこの小説には、イヤな京都人がたくさん出てきてとても楽しい。

 主人公の美咲は32歳。婚約して仕事を辞め、東京

もっとみる
Dear...

Dear...

 高校生のころ、授業中に友達と手紙のやり取りをした。Dearで書き始め、Fromで締めくくる手紙を、リボンの形やハートの形に折りたたみ、こっそり友達に回した。手紙の間にプリクラを挟んだりして。携帯も持ってたけど、メールではなく手書きのやり取りが楽しかった。もう二度と見たくないほど痛々しく、恥ずかしいことを書いていたと思う。

桜井亜美さんの「サーフ・スプラッシュ」を読みながら、ちぎったノートに書か

もっとみる

「Aではない君と」薬丸岳

 少年犯罪をテーマにした作品を多く書いている薬丸岳。本作では、もしも自分の子供が人を殺してしまったら? という重いテーマで、少年の逮捕から少年院出院後まで揺れ動く親の心を描いている。

仕事に恋に充実した生活を送る吉永のもとに、離婚した元妻が引き取った中学二年生の息子 翼が同級生を殺した容疑で逮捕された、という知らせが届く。警察の取り調べでも、弁護士との面会でも何も話さない翼。吉永は、自らが付添人

もっとみる

「82年生まれ、キム・ジヨン」

2016年に韓国で出版されたのち、アメリカで始まったMeToo運動からも勢いを得て一気に社会現象となったフェミニスト小説。82年生まれの主人公 キム・ジヨンが30数年間の人生で経験してきた女性の生きづらさを、キム・ジヨンを診た精神科医のカルテという体裁で、客観的に描いている。

キム・ジヨンのエピソードは別に、ドラマチックなものではない。性犯罪に遭ったとか、DVを受けたとか、そういう話はない。ただ

もっとみる
「たてがみを捨てたライオンたち」白岩玄

「たてがみを捨てたライオンたち」白岩玄

こういう、アラサー男子たちが主役の小説って、読むの初めてでした。

妊娠中の妻から“主夫になってくれないか”と提案された夫 直樹。お金もあるし女性にもモテるけど、離婚して以来、人生に虚しさを感じているエリートサラリーマン 慎一。女性関係にトラウマを抱え、自分に自信が持てないアイドルオタクの公務員 幸太郎。

3人それぞれ全く違うキャラだけど、全員が共通して「男はこうあるべき」という既存の価値観に囚

もっとみる
トレバー・ノア

トレバー・ノア

米国大統領選の行方が気になる今日このごろ。大統領選関連のニュースは、ほとんどトレバー・ノアに教えてもらっている。

南アフリカ出身のコメディアン、トレバー・ノアはDaily Showという政治風刺番組でホストを務めている。番組はYouTubeで見られるんだけど、とにかく面白い。ついでに顔もかっこいいし、声もいいし、英語も聴きやすい。

コロナ禍の今は"The Daily Social Distan

もっとみる
「あの日、君は何をした」 まさきとしか

「あの日、君は何をした」 まさきとしか

まさきとしかさんの本には、子供を虐待したり、過剰に干渉したり、子供と歪んだ関係を築く母親がたくさん出てくる。前回読んだ「完璧な母親」では、一人息子を事故で亡くした母親が悲しみのあまり、次に生まれた娘に息子そっくりの名前を付け、今度こそは完璧な母親になろうと、母親としての自分をやり直そうとする、ゾワッと恐ろしい話だった。今日読んだ「あの日、君は何をした」にもクレイジーな母親たちが登場する。

第一志

もっとみる