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マークの大冒険 古代エジプト編 | 夜空の下の約束



エジプト、サッカラ近郊____。



二人の青年がテラスで仰向けになり、夜空を眺めながら話していた。夜空の闇は深く、漆黒という言葉が相応しい。それだけに一層、星の輝きが際立っている。月明かりが青年たちを照らし、まるで彼らを舞台役者かのように引き立てていた。

「マーク、俺はお前にずっと嫉妬していたんだ。お前は何でも持っていて、いつも俺の先を行く。だから、ずっと羨ましいと思っていた」

「そうか?ボクもキミと全く同じことを思っていたけどな。キミには何ひとつ及ばないって」

「ウケるな。そりゃ何とも不思議なこった」

「他人の芝生が青く見えるじゃないけど、人の感じ方なんてそんなもんさ。自分が思っているより、自分の立ち位置は案外悪くないものなのかもしれない」

「長年の謎が解けたな」

「そんな謎より、このエジプトの地下に眠る謎をボクらは解かないとだぜ」

「なあ、神や死後の世界の存在って信じる?」

「まさか。寝ぼけたか?」

「だよな。でも、たまにエジプトの壁画やパピルスを眺めていると思うんだ。あまりにも神話や死後の世界観が鮮明に記されているから、彼らは想像なんかじゃなく、本当にそれらを見てたんじゃないかってね」

「それくらい古代エジプト人は、想像力豊かなのさ。唯一無二の独創的天才だからこそ、これだけの類を見ない文明を築くことができた。だから多くの人がこうして魅せられている」

「卒業したら、どうする?」

「もちろん、研究者を目指すさ。そして、あわよくばテレビに出たい。なんてね。ボクは父さんのように大学の教壇に立ちたいんだ。一度だけ父さんの講義を聞いたことがある。それを見て、格好良いと思った。父さんは医学部の講師だが、その時授業で古代エジプトのミイラについて扱っていた。ミイラには人体の研究の全てが詰まっていて、医学部学生の講義にはぴったりなんだとさ。父さんが授業で使っていたミイラの本をもらって、それからボクは古代エジプトの世界に夢中になった。今でもその感動が続いていて、ボクをこうして動かしている」

「そうか。じゃあ、夢は俺と同じだな。俺も研究者になって、大学に残りたい。でも、病院長の御曹司マーク様と違って、俺は奨学金生だからな。成績次第で卒業できるかさえも危うい身分だよ」

「ボクだって、成績が悪きゃ卒業はできないぜ?」

「奨学金生は成績のハードルが高いんだよ。家族のこともあって、研究に割ける時間も限られてるしな」

「お母さんの体調はどうだい?」

「あまり良くはないな。最近は寝たきりだし、たまにうなされて、死んだ親父の名前を叫んでる。結構、辛いもんだぜ。研究には整った環境がいる。だから何でも持ってるお前が羨ましいんだよ」

「そうか?ボクが持ってるものは“情熱”だけだぜ」

「なら、お前とはやっぱり永遠にライバルになりそうだ」

「ボクがライバルだなんて、レベルがあまりにも低すぎるぜ。もっと高みを目指していこう。ボクらで日本のエジプト学界を変えるんだ。仕事は山ほどある。アレクサンドロスの墓もクレオパトラの墓もまだ見つかっちゃいない。クフの大ピラミッドの謎の空間もまだ明らかになっていない。古代エジプトは分からないことだらけだ。ボクらが一旗上げる余地は、まだまだあるってわけさ」

「明日が一旗上げる、その日になるかもな」

「ああ、全然あり得る話だ。あの未盗掘の墓に何が眠っているのか、楽しみで仕方ない。掘り当てた師匠は、やっぱり天才だよ」

「それで、何か見えるかね?マークくん?」

「ええ、素晴らしいものが」


青年たちは夢を語り、これからの期待に満ち溢れていた。
その日の夜は、星たちが彼らを祝福しているかのようだった。


ボクらは何だってできる。
そんな気がしていたんだ______。




To Be Continued…



*師匠とは、マークたちの教授。マークだけが勝手に師匠と呼んでいる。日本のエジプト学会の権威で、多数の著作を出している。

*「それで、何か見えるかね?」で始まる上記の台詞は、ツタンカーメン王墓発見の際にカーナヴォン卿とハワード・カーターが交わした言葉である。出資者のカーナヴォンは、先頭で墓の封印を破る考古学者のカーターに何が見えるのかを訊ねた。カーターは小さな孔から覗く先の財宝に驚嘆し、素晴らしいものが、と答えた。エジプト学に通じたマークたちの言葉遊びである。マークの友人は、師匠のモノマネをしながらカーナヴォンの台詞を演じている。



Shelk🦋

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