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冒険家マークと学ぶローマ帝国史 第4回

フル装備のマーク のコピー-side


さて、今回でボクと共に学ぶローマ帝国史は4回目となる。ローマの歴史はとても長い。だから、ローマの歴史は大きく分けて、王政期、共和政期、帝政期の3つに区分されるが、王政期以前のギリシア神話を含むとさらにボリュームを増す。

そんなわけで、第4回にしてまだ王政期であり、尚且つ初代王ロムルスのエピソードである。この後に6人の王が続き、ローマの王政期は計7人の王によって統治された。最初はローマ人、次はサビニ人、その次はローマ人、サビニ人、そして、3回連続でエトルリア人の王がローマを支配する。エトルリアは建築や土木工事技術に優れた裕福な民族で、ローマに多大な影響を与えたと共に軍事力も当時はローマを凌いでおり、ローマはエトルリアに従属する他ない状態にあった。

まあ、今回も前置きが長くなったが、そんなわけでこの「冒険家マークと学ぶローマ帝国史」は、相当長くなりそうだってこと。それもそのはず。ローマの長い歴史を文章でまとめようとすること自体、本来なら無謀な試みなのかもしれない。それでも、ボクは彼らの素晴らしき歴史をみんなに伝えたいと思うんだ。それじゃ、ロムルスがローマを建国し、サビニ人女性の集団誘拐を行ってから大戦争が勃発したわけだが、その後はどうなったのか?前回の続きから見て行こう。

ローマとサビニの部族間抗争は、一層に激しさを増し、収まりを見せることがなかった。両者の攻防は互角といったところで、互いに苦戦を強いられていた。特にサビニはローマの城壁の突破に難航していた。サビニは攻撃に徹するものの、ローマの守りが固く、一向に城都への侵攻は叶わず、サビニ王ティトゥス・タティウスは頭を抱えてた。

そんなある日、タティウス王の元に一人のローマ人が現れた。彼女の名はタルペイア。ローマで最も高貴とされるウェスタ女神の巫女を務める人物だった。タルペイアの父は軍司令官であり、それゆえに彼女は軍の機密情報の一部を知っていた。タルペイアは情報を流す代わりにタティウス王に報酬を求めた。報酬の具体的な内容は、サビニの王と兵士が左腕に身に付けているものを全てタルペイアに譲渡するというものだった。交渉は成立し、作戦は実行に移されることになった。ウェスタの巫女は、様々な優遇を受ける特別な役職であり、生活には全く困らない身分ではあるが、タルペイアは非常に強欲だったのだろう。彼女は現状では満足せず、さらなる財産を求めた。

ウェスタ-side

図柄表:ウェスタ女神
図柄裏:投票者
発行地:ローマ共和国ローマ市造幣所
発行年:前63年
発行者:ルキウス・カッシウス・ロンギヌス
銘文表:L(Lucius ルキウス)
銘文裏: LONGIN III V(Longinus III Vir ロンギヌス 貨幣発行三人委員)V(Vota 投票)
額面:デナリウス
材質:銀
直径:18.0mm
重量:3.89g
分類: RSC Cassia 10/RC 364

ウェスタ女神の肖像を描いたデナリウス銀貨。ウェスタは、宗教祭儀時の際に着用されるフード付きの衣服を着た姿で表されることが多い。また、アトリビュートとして手にパテラ(酒器)を持った姿でも表される。ウェスタは家庭とかまどの女神で、固有の神話を持たないが、絶大な信仰を持った。神話に登場しない理由は、謙虚で目立ちたがらない彼女の性格によるものと説明されている。ローマの十二神の一柱だったが、酒神バッコスにその地位を譲ったことからも、彼女の謙虚さが窺える。一方、各家庭のかまど、すなわち家屋の中央に鎮座するという栄誉と特権を与えられた。派手好きで、目立ちたがり屋な者が多いローマの神々の中では珍しい部類に入る。

ウェスタ女神の信仰は古く、ローマの王政期にまで遡る。前述した通り、様々な特権が与えられる役職だったが、課せられた規制も多く、交際や結婚は許されない。この掟を破った巫女は、生き埋めの刑に処された。タルペイアのストーリーは神話であるが、ウェスタの巫女に課せられた役割や責務は現実であり、ウェスタの巫女の不貞を巡る裁判が実際に行われた記録が史実に残されている。


計画当日、タルペイアはサビニ兵たちを城壁の抜け道に誘導した。これによりサビニは長らく苦戦していた城壁の突破に成功した。戦況は、サビニが有利なものとなった。

その後、タルペイアはタティウス王の元に再び訪れ、作戦が成功したので見返りを求めた。タティウスは承諾し、左腕に身に付けていた腕輪を取ってタルペイアの足元に投げ付けた。だが、次の瞬間、左手に持っていた円盾までもタルペイアに目掛けて投げ付けた。ある意味約束通り、左腕に身に付けているものを報酬として渡したのである。タティウス王は、最初からそうするつもりで、タルペイアを欺いていたのである。タルペイアは勢い良く飛んで来た円盾によって床に崩れ伏した。そして、王の行動を見ていた兵士たちも次々に自分たちの円盾をタルペイアに投げ付け始めた。タルペイアは円盾による打撲と重さで圧死するに至った。タルペイアはサビニに味方し、協力したと言えど、ローマ側からすれば非道な裏切り者であり、そうした人物を許すことはできないという信条からタティウス王は彼女を葬る選択をした。

212-1ティウス・タティウス-side

図柄表:サビニ王ティトゥス・タティウス
図柄裏:サビニ兵に処刑されるタルペイア
発行地:ローマ共和国ローマ市造幣所
発行年:前89年
発行者:ルキウス・ティトゥリウス
銘文表:SABIN(Sabinus サビニ)
銘文裏: L TITVRI(Lucius Titurius ルキウス・ティトゥリウス)
額面:デナリウス
材質:銀
直径:17.0mm
重量:4.12g
分類: RCV I 251/RSC 5

共和政期に発行されたデナリウス銀貨。裏切りのタルペイアがサビニ兵に盾で殺害される様子が描かれている。歴史家の記述では盾は円盾だったと記されているが、当時の貨幣の上でも忠実に楕円型の円盾が描かれている。共和政期のローマでは楕円形の円盾が用いられ、帝政期に入ると長方形の盾スクトゥムが使用されるようになる。


その後、彼女の遺骸はどこかの丘に埋められたという。この丘は「タルペイアの丘」と呼ばれるようになり、不吉な場所として嫌悪されるようになった。現在ではこの丘がどこの丘を指しているのかは不明だが、身投げなどが行われる呪われた場所とされた。以後、彼女は「裏切りのタルペイア」と呼ばれるようになった。裏切り者には不幸が降り掛かり、その末路は残酷で、必ず罰を受けるという教訓話の代名詞として人々に語り継がれるようになった。

43-1アウグストゥス-side

図柄表:アウグストゥス帝
図柄裏:円盾で圧死するタルペイア
発行地:ローマ帝国ローマ市造幣所
発行年:前19年
発行者:プブリウス・ペトロニウス・トゥルピリアヌス
銘文表:CAESAR AVGVSTVS(Caesar Augustus カエサル・アウグストゥス)
銘文裏:TVRPILIANVS III VIR(Publius Petronius Turpilianus Triumvir Monetalis プブリウス・ペトロニウス・トゥルピリアヌス 貨幣発行三人委員)
額面:デナリウス
材質:銀
直径:18.8mm
重量:3.64g
分類:RC 1639/RSC 494/RIC 299

帝政期のアウグストゥスの治世に発行されたデナリウス銀貨。10枚の円盾の重みで圧死するタルペイアの姿が描かれている。おぞましいコインだが、アウグストゥスの政治方針が何となく窺える。裏切り者は必ず罰せられるという意味合いだろうか。実際、アウグストゥスは厳しい風紀政策で、人々を苦しめたことで知られている。


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さて、いかがだったかな?今回は裏切りの巫女タルペイアのエピソードを当時発行された貨幣の図像と共に紹介した。次回はローマとサビニの長きに亘った戦争の終結について述べていく。一体ここまで激化した戦争が、どのように終わりを告げたのだろうか?その真相を紐解いていくよ。


To Be Continued...


Shelk 詩瑠久🦋

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