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ネクライトーキー、福岡初ワンマン、事の顛末~2019.9.3@福岡CB

ネクライトーキー、初の全国ワンマンツアーその福岡公演に行った。今の勢いを象徴する全公演ソールドアウト。コンテンポラリーな生活としても活動する朝日、藤田、カズマ・タケイ、そして朝日がネットで見つけたボーカリストもっさと共に結成したのは2017年春。その奇天烈でポップな楽曲の力で瞬く間に人気に火がつき、2018年末リリースの1stアルバム『ONE!』は昨年の重要作となった。今年3月にはアレンジ面を大きく担うキーボーディスト中村郁香も正式加入し脂が乗りきっている状態で、夏フェス連戦と並行する形でのこのツアーである。7月リリースのミニアルバム『MEMORIES』のレコ発だがそこにとどまらず、その先も提示する2時間。とりあえず、ステージも客席もずっと灼熱で汗だくな空間だったことをまず真っ先に伝えたい。

『MEMORIES』は、首謀者・朝日がボカロP・石風呂としてこれまで作ってきた楽曲をバンドアレンジした作品で。このツアーも最古の楽曲「きらいな人」からスタートし、朝日のメモリーたちがオープニングを飾る展開。しかし本当にこの時代の楽曲はどうしようもなく鬱屈した歌詞が多い。1曲目から<いじめっ子の彼をいかにして 苦しめることだけ夢見るのさ>である。そんな言霊はニコニコ動画で愛された8年後にライブハウスで肉体化され、現場を沸かし倒すナンバーになっている。これほどまで痛快な復讐があるだろうか。個人的には、覇気のない竜との邂逅/その特別さへの視座と、まぁこんなもんかという心象が祭囃子に乗った「あの娘は竜に逢う」にグッときた。高揚と諦念の狭間で、こんなにも心をちょうどよく踊らせてくれるなんて。

ワンマンということもあって熱の集中度がとんでもない。対バンかフェスでしか観たことがないから、様子を伺っている相手に対してぶちかますやり方が個人的には定着していたのだけど、圧倒的ホームの中で見せる姿は大いに楽しそう。「こんだけ見てくれてる人がいれば勝ちですね」と早々に宣言するなど、乗りまくっている。「許せ!服部」の観客全員で「1,2,3,4!」のカウントを決める感じ、「めっちゃかわいいうた」のラストのテンポチェンジで狂喜乱舞する感じ、これぞワンマンの醍醐味!ガチャガチャしてるようでしっかり引き締まったステージングも様になっている。石風呂ファンも多いからか、バンド音源化されていないボカロ曲「サンデーミナミパーク」や「ロック屋さんのぐだぐだ毎日」も等しく盛り上がっていたのが素敵だった。

そんな濃い観客たちゆえ、フェスの場では小休止になりそうな曲もじっと聴き沁みるような空気があった。ネクライトーキーのしっとりした曲はどれも自分には何かあるのではという謎の自信を抱えながら、どうにも立ち行かない現実にうちのめされそうな日々を描いた曲が多い。「だけじゃないBABY」における<妄想の中じゃ負けがない それじゃどこまででも置いてかれるぞ>というフレーズは初めて聴いた時ひどく刺さった。もう一歩間違えれば気が狂ってしまいそうな日常の傍ら、小さな光をどうにか積み上げていくような生活がそこに描かれていて、いつ聴いてもその切実さに胸が痛む。そこに「がっかりされたくないな」まで歌われると、自分を映し出されてるようで涙が出た。<誰にも見えない場所で 何にもできない人へ>って、ねぇ、、。

そんな余韻に浸っている折に披露された新曲は、もっさの絞るような歌声が響き渡るどっしりとしたバラードだった。オーガニックな演奏と真っ直ぐなメロディで、一人の夜の生活感情を祈るように歌う楽曲だった。<掛け布団からちょっと出た足を引っ込めるみたいな日々(大意)>という歌詞が深く残った。なんて、ネクライトーキーなんだろう、と。そんなしんみりした新曲もありつつ、朝日曰く「バカ騒ぎできる新曲」な楽曲も披露。サビ頭では「ボケナスどもが」というフレーズも飛び出す攻撃的で珍妙な楽曲であった。ちなみに、アンコールでは「平成たぬき合戦ぽんぽこ」に触発されて作られた「ぽんぽこ節」なる楽曲も。「波のある生活」のみならず、既に彼らは『ONE!』のその先に待つアルバムに向けて楽曲を揃え始めているのだった。

カウントダウンからのファイヤーで代表曲「オシャレ大作戦」へ。もう終盤だ。あのド派手なイントロで一気に絶頂を迎えるキラーチューンだが、僕はどうにも泣けて仕方がないのだ。そもそもタイトルは、<涙が出たって大人なら 誰にも見せないで終わらせないと そうやって嘘もつく ちょっとオシャレでしょ?反吐が出るなあ>という皮肉に満ちた歌詞から取られてるわけで。狂ってるのは世界のほうだと考え、イカれてる夢を見たまま未来へ行きたいという意地が滲み出ていて、シビれる。<時代はおばけやらUFOを信じやしないが「ほらここにいた」>という一節は、見えない(とされている)ものが見えたって良い、いやむしろそちらを現実と信じていいんだという大人たちにスポイルされてしまいがちな愛しさを抱きしめてくれているようでね。

あらゆるディスやまとわりつくネガティブな事情を、まとめて表現に変えてぶっ叩く「音楽が嫌いな女の子」は今の彼らが歌うには痛快すぎる。そして<ティーンエイジよ、泣いてくれ いつかはそれもできないで 立ち尽くす日が来るでしょう そのときまでは泣いてくれ>という歌詞が、「オシャレ大作戦」と美しく呼応する「ティーンエイジ・ネクラポップ」が本編のシメ。たっぷりとした逞しいビートがおおらかに会場を包み込んでくれていた。

この日は、もっさの顔つきが特に素晴らしかった。喋るときはへなへなだけど、歌う時はどんどんボーカリストとして鬼気迫る表情を見せ始めている。朝日が自身のルサンチマンを声として発するに相応しいと選んだのが彼女だったわけだが、段々と表現者として覚醒を始めているようだった。『MEMORIES』の楽曲は石風呂ナンバーを愛聴していた彼女にとっては青春時代のメモリーでもあるわけだから、高揚して当然でもあるのだが。アンコールラストの「遠吠えのサンセット」は最も凄まじかった。というかメンバー全員、フリ切れまくり。朝日はエナジーの放出を一切緩めることなく、絶叫していた。彼は間違いなく、その自分の音楽を謳歌しているはずなのだけど、そこに狂気とか怒りまでが滲み出ている。そこが何よりも信頼できる。

ちなみにMCがこの日も素晴らしかった。石黒正数、BECK、ゼルダの伝説、博多豚骨ラーメンズ、天空の城ラピュタなど、ポップカルチャーの話題が飛び交いまくる空間。無駄話と言われればそれまでだろうけど、これらを土壌にネクライトーキーの音楽が生まれていると思うと、深堀りも捗るものよ。

ネクライトーキー ワンマンツアー 2019”ゴーゴートーキーズ! 全国編”@福岡CB セットリスト
1.きらいな人
2.ジャックポットなら踊らにゃソンソン
3.ゆるふわ樹海ガール
4.許せ!服部
5.めっちゃかわいいうた
6.こんがらがった!
7.だけじゃないBABY
8.あの娘は竜に逢う
9.波のある生活
10.がっかりされたくないな
11.(しんみりした新曲)
12.サンデーミナミパーク
13.ロック屋さんのぐだぐだ毎日
14.夕暮れ先生
15.(バカ騒ぎする新曲)
16.オシャレ大作戦
17.音楽が嫌いな女の子
18.ティーンエイジ・ネクラポップ
-encore-
19.ぽんぽこ節(新曲)
20.遠吠えのサンセット

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