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2012 to 2022〜『ランドマーク』10周年、ASIAN KUNG-FU GENERATIONのアイデア力とパッケージ力を考える

「2012 to 2022」は10年前に発表された作品を起点にして、この10年間の作り手やシーンの変容についてあれこれ記していく記事のシリーズです。


アジカンについて全アルバムについて語るポッドキャストをやったり、アジカンとベボベの対バンに向けて全アルバムを聴き返したりしながら思ったのがアジカンの2010年代に入ってからの作品のパッケージ力、つまりまとめ方だったりリリースの手法が凄く面白いということ。またそれを生み出すアイデア自体がまずもってとてもユニークということにも同時に気づいた。

2000年代もタイアップシングルを見事にストーリーに絡めまとめた『ワールド ワールド ワールド』や、駅名を冠したコンセプチュアルな『サーフ ブンガク カマクラ』など見事なパッケージ力の作品はあったが、特に2012年以降は興味深いものが多い。本稿では、本日でリリース10周年を迎えた『ランドマーク』を起点にし、アジカンのアイデア力とパッケージ力を振り返る。


ランドマーク

2010年の『マジックディスク』とそのツアーに伴うメンバー間のすれ違いで一時期は解散/活動休止危機に陥るも、東日本大震災をきっかけに音楽を鳴らす喜びを噛み締めるようにしてバンドがセッションによる制作へと回帰していく、ロックバンド・アジカンの再生とも言える1作。ベストアルバム『BEST HIT AKG』が出た年に出る1枚としてのサウンドとして完璧な肉体感。

このアルバムには『NANO-MUGEN COMPILATION 2011』に収録されていた「All right part.2」がオープニングを飾っているが、同盤に収録されていた「ひかり」は未収録となった。また同コンピレーションアルバムの2012に入っていた「夜を越えて」も未収録になっている。震災における心象を描いた作品にはマッチしそうだが、あえてこの2曲は外されたのだと考えられる。

「ひかり」と「夜を越えて」は具体性の高い描写が多く、鮮明かつシリアスに心模様を映すこの2曲があることで浮かび上がるメッセージもあったはずだが『ランドマーク』は入れず、あえて震災前からある「All right〜」で始めることで音楽的にも間口を広く取り、日常にも馴染む作品に辿り着いたように思う。既にある手札から最適な選択をし、ポジティブさも纏う1枚に仕上げた。


ザ・レコーディング at NHK CR-509 Studio

サブスク未解禁作。2013年4月にNHK BSプレミアムで放送された特別番組『ザ・レコーディング』で一発録りされたスタジオライブ音源集で選曲はベストセレクト的。前年のベスト盤ではリテイクをしていなかったため、ある意味では最新アレンジ版ベストとも言えるし、ライブアルバムとしての臨場感もある。作品としてはかなり特殊な位置付けになっている。

この作品のトピックスとしてはアジカン4人での録音に加えて前年の『ランドマーク』のレコ発ツアーで迎えたサポートメンバーとともに録音した楽曲もあるという点だろう。三原重夫(Per)、上田禎(Key, G)、岩崎愛(Cho)の3名を迎えた7人体制でのツアーはファンには驚きを与えたが、アジカンにとってはメンバー間を繋ぐ存在がいることで風通しが良くなり、充実感に溢れていた。

NHKからの思いがけぬオファーだったかもしれないが、手応えのあったツアーで獲得した新たなグルーヴやアレンジの記録としての役割を果たし、タイミングとしても2013年9.13,14のメジャーデビュー10周年ライブ付近でのリリース物としても機能している。こうした、外部からの突然のオファーも自分たちの元へ引き寄せて、適切にパッケージ化する手腕がこの頃から光っていた。


フィードバックファイル2

2006年の『フィードバックファイル』はシングルのB面曲が中心だったが今回は主催フェス『NANO-MUGEN FES.』のコンピレーションアルバムに収録されてオリジナルアルバム未収録だった楽曲や当時の最新シングル「今を生きて」も収めてあり、編集盤としての役割が強まっている。公式サイトのアナウンスでは2012年の『BEST HIT AKG』と対をなす1作と形容されている。

リリースは2014年2月。メジャーデビュー10周年の年度内で、幕開けを飾るのは2013年9月のメジャー10周年ライブの新曲として作られた「ローリングストーン」と「スローダウン」であり、れっきとしたアニバーサリー盤。ナノムゲンコンピの楽曲はその時々のアジカンの次なる一手やそこまで培ったものの結集であることが多く、アジカンの挑戦の歴史も知ることができる。

特筆すべきは『ランドマーク』ツアーでもラストに披露され、アルバム世界のカーテンコールのような楽曲だった「今を生きて」が居場所をもらえた点だろう。この後「今を生きて」とは真逆に近いラウドロックモードに進むことを予見していたかは分からない。偶然か必然か、結果としてこの曲はアジカンのメジャー10周年記念盤の本編ラストという相応しい場所に収まった。


Wonder Future

中村佑介のイラストではない点でディスコグラフィーの中でも異質だが、サウンドもこれまでになくワイルドで太く“ラウドロック”をテーマに掲げただけある。フーファイターズのプライベートスタジオで録音され、初期のサウンドからオリエンタルな成分を抜き取ったような、太文字のROCKをイメージする作風。2011年以降のバンドセッション回帰の好調っぷりが伺える音だ。

本作では諸事情で中村佑介のイラストが使えなかったのだが、その上でゴッチが提案したのが先行シングル「Easter」を黒、アルバムを白とするジャケット。白黒つかない世界を皮肉るようにも、グレーを受け入れるように思える複層的なビジュアルは社会への目線を鋭くした作品の方向性と合う。特典にカラーペンをつけ聴き手にアルバムの世界を描かせるというアイデアも。

白というキーカラーはそのままツアーコンセプトに反映。白いキューブの組み合わせで構成されたセットにプロジェクションマッピングを展開する演出はもはや始めからジャケットと連動していたかのよう。あらゆる面でイレギュラーな本作だが、ここでもアジカンはツアーにまで及ぶ一貫したパッケージ力を見せた。サウンドは豪快だが、見せ方はあくまで繊細で丁寧なのだ。



ソルファ(2016)

2004年の大ヒット作であり、アジカンの代表作『ソルファ』を全曲再録した1枚。まずアルバム1枚をまるごと録り直すという前代未聞さは今なお語り継がれるべきアイデアと言えるだろう。更にこの年はアジカン結成20周年イヤー。リテイクベストを出さずとも、この1枚でアニバーサリー盤にもなれる強さ。リリース後に開催された20周年記念ツアーでは全曲再現も行われた。

本作は長年ゴッチが抱えてきた『ソルファ』の録音での不完全燃焼が結実したもの。アーティストの想いが先走った作品がファンに求められる作品になったというのはバンドの歩みの正しさの証明だ。『ランドマーク』でバンドとして再生し、『Wonder Future』でサウンド面を鍛え、広く知られた『ソルファ』で経験値を刻む豊かな手法で自身の名刺の更新を果たしたのだ。

番外的だが本作の数ヶ月後には若手アーティストを中心とした初のトリビュートアルバム『AKG TRIBUTE』もリリース。様々なジャンル(ギターロック、Hiphop、シティポップ潮流やボカロ系譜も)からの参加者の幅はアジカンの与えた影響の大きさの象徴だ。『ソルファ』の再録とともに後輩たちのリスペクトが形になり多角的にアジカンの歴史を捉えるパッケージとなった。


BEST HIT AKG 2 
BEST HIT AKG Official Bootleg “HONE”盤/“IMO”盤

アートワーク含めて『Wonder Future』の流れを引き継いだ「Right Now」。初期のアジカンサウンドを体現し4年ぶりの『NARUTO』タイアップに応えた「ブラッドサーキュレーター」。これらシングルが『ソルファ(2016)』のリリースまでに単発的に出されアルバムに帰結せず漂っていた折に発表されたのが第2弾ベストアルバム。ここに至る経緯は『ホームタウン』の項に譲る。

さてパッケージとしては2012年の『ランドマーク』以降、つまりバンドとしての再生と社会へと鋭く切り込む楽曲を次々と発表してきた時期の集大成だ。「Right Now」「ブラッドサーキュレーター」の2曲もハマり、終盤に『ソルファ(2016)』の楽曲が並び安心感も与える。ラストは新曲「生者のマーチ」が1曲目「夜を越えて」と対になるように温かな余韻を与える。

同時リリースとなったセレクトベスト『HONE』と『IMO』にも触れたい。元は2012年の『BES T HIT AKG』リリース時にゴッチがブログで発表した自選プレイリスト。ポストロック寄りな骨盤とパワーポップ寄りな芋盤の2枚でアジカンの2003-2010年までの流れも総括。3枚を通しオールタイムベストの様相。様々な切り口でアジカンの楽曲を再定義できるのも充実の歴史ゆえだ。


ホームタウン

2007年にリリースされた江ノ電の駅名を冠した10曲のアルバム『サーフ ブンガク カマクラ』。全駅を網羅した完全版を作る構想は2017年頃からあったがそのストック曲はタイアップ依頼によって「荒野を歩け」になり、一旦構想はリセット。結果的に、その時点で出ていた「Right Now」「ブラッドサーキュレーター」と合わせてジャンルばらばらのシングルが出揃っていた。

このため制作当初アルバムは『プレイリスト』をコンセプトに様々な楽曲を集めた作品にする予定だったという。『ホームタウン』にWeezerのリバース・クオモからの提供曲や畳野彩加(Homecomings)とのデュエットや、付属EP『Can’t Sleep』にホリエアツシ(ストレイテナー )グラント・ニコラス(フィーダー)との共作、THE CHARM PARKからの提供曲があるのはその名残。

しかし前述の通り、『BEST HIT AKG 2』に「ブラッドサーキュレーター」「Right Now」が入り、「荒野を歩け」を軸にした”パワーポップ”という方向性が定まっていく。豊かな音作りとシンプルな楽曲で統一された『ホームタウン』に至ったのだ。バンドとしての足場を固めた数年の先、原点的なサウンドへと今のアジカンで挑む。バンドのストーリーとしても見事な流れだ。



プラネットフォークス

先行シングルに塩塚モエカ(羊文学)とのデュエット曲があるなど予兆はあったが、歴代で最も多彩なバリエーションの曲を取りそろえたアルバムとなった。タイアップに紐づいた「Dororo」、『ホームタウン』のツアー中にも演奏されていた「解放区」、イギリスレコーディングの「ダイアローグ」、コロナ禍を経て作られた「エンパシー」やそれ以降のアルバム曲群などなど。

『ホームタウン』制作当初にあった”プレイリスト”というコンセプト。それをリブートしたかのようなアジカンの新しい側面を提示する曲やフィーチャリング曲の多い作品ではあるが、これらが単に"いろんな曲集めました"というだけでなく多くのアーティストを招き共に音楽を作る喜びやコロナ禍を共闘し乗り越えていくような強いメッセージ性にも繋がっているように思う。

この時代にあって、アルバムというパッケージ自体の存在意義が揺さぶられている。そのことについてアジカンは2010年の『マジックディスク』の時点で自覚的であった。しかしそんな彼らが今なおアルバムというパッケージにこだわり、プレイリストが重要になってきたシーンでも愛あるアイデアをもって作品を生み出していくこのスタンス。ワクワクするなぁと思うのだ。




そして『サーフ ブンガク カマクラ 完全版』へ

2017年に凍結していた『サーフ ブンガク カマクラ』の完全版。これが今、来夏リリースに向けて動き始めている。シンセポップ風味からゴスペルまでを網羅したカラフルな音楽性を持つ『プラネットフォークス』の後に、アジカン印のぶっといギターが鳴るパワーポップアルバムが待ち受けるという、このリリースのバランス感覚もつくづく素晴らしいな、と思うのだ。

明後日9/14からディズニープラスで配信される「四畳半タイムマシンブルース」。このテーマソングとして書き下ろされたのが「出町柳パラレルユニバース」だ。まるで『サーフ~』のタイトルのようだが、出町柳は鴨川付近にある京都の駅名。しかし実はこれとよく似た「柳小路パラレルユニバース」という曲も、9/28リリース予定のシングル盤には収録されている。

この2曲は歌詞の違うほぼ同じ曲とのこと。京都が舞台のタイアップ作品のテーマ曲と『サーフ~』完全版の収録曲としての2役を果たしているのだ。しかも「四畳半~」はパラレルワールドがテーマ。アジカンは曲の中でアニメキャラの京都と自分たちの江ノ電付近での青春をパラレル化して描くというぶっ飛んだことをやってのけた。これぞアイデア力とパッケージ力の賜物だ。




10年分、一気に振り返ってみたがどの局面においてもやはりユニークなアイデアとそれを適切にまとめあげるパッケージ力に長けたバンドであるという確信は強まった。初期の作品凄まじいペースで生まれたものばかりでその執念のような輝きも素晴らしいが、自分たちで作品のペースをコントロールし始めてからの作品の豊かさも伝えたい。アジカンは今を生きるバンドだ。



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