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米津玄師 2019 TOUR/脊椎がオパールになる頃@2019.02.10 マリンメッセ福岡

2019年初めて観た1万人規模の会場。彼のライブを観るのは2014年12月、米津玄師として通算3回目(!)のライブだった福岡DRUM LOGOS公演(音楽だいすきクラブに書いたライブレポがここに)以来、3年2カ月ぶり。ロックシーンを薄っすらと経由しつつも独自の進化を遂げながら茶の間に突き刺さり、2018年の国民的ヒット曲を生んでは、紅白歌合戦に出場するに至るまでのこの期間。全くもって想像し得なかったポピュラリティの獲得を満タンの会場が物語っていた。僕の席はFブロック、ステージを左側から眺める形となった。

ジェイムス・ブレイクをSEに登場したバンドメンバーに続き、米津・降臨である。マージナルで浮世離れした佇まい。割れんばかりの歓声(隣の席の女の子はたびたび絶叫していた)を掻き消して、最新シングル「Flamingo」の珍妙なイントロに突入した。ファンク~R&Bの影響下にある粘っこい演奏と、コブシの効いた歌い回し、彼の最新型が初っ端から鳴り響く。ブチ上げたオープニングではなく、じわじわとこちらのステップを促してくるような独特な幕開け、異様な夜になることはもうこの時点で決定づけられていた。

2曲目「LOSER」では三角形のせり出した花道を歩き、センターポジションへ。背丈もあり、しなやかな動き、まさにカリスマの様相である。記憶の中にあるのが、1000人キャパでの会場のみなので、アリーナを掌握している姿は鳥肌モノだった。せり上がるステージの上、スポットライトを浴びる彼は3年の初々しさはまるでない。これが3年2ヶ月の積み重ねだ。バックにMVの世界観を投影したアニメーションを流した3曲目の「砂の惑星」まで、ビートミュージックを志向し、横ノリのリズムで引っ張るモダンな序盤だった。

軽い挨拶を経て、米津がアコギを掻き鳴らし軽快に飛び跳ねるような「飛燕」、ヒエログリフが動き回るアニメが彩った「かいじゅうのマーチ」と徐々に温かみのある楽曲へと繋がっていき、名曲「アイネクライネ」へと。ライブで観客と向き合う契機となった2ndアルバム『YANKEE』からの選曲。名前を呼び合うという密な対話を描いた小さなラブソングは、今ここにいる1万5000人に同じ距離感で届いていた。堅実で切実なコミュニケーションを求めてきた過去が、今の求心力に繋がっているのだと実感する1曲だった。

「春雷」ではカラフルなグラフィックと共に一転して軽快なポップソングを提供。このまま明るく開けていく、、、と思いきやここからかなりドープなセクションに。『BOOTLEG』でも飛びぬけて内省的な「Moonlight」が男女のダンサーによる激しい舞踏を背に披露される。楽曲のイメージからするとかなり予想外な演出。続く「fogbound」では、吊り下げられた巨大な3重のコンパスのようなセットが、船の形状に変形していく。デスクトップから現れた才能が、その想像力の濃度を薄めることなく遺憾なく発揮していた。

鐘の音が鳴り「amen」の蠢くようなシンセベース。米津のダンス師匠・辻本和彦が率いるチーム辻本の10人によるコンテンポラリーダンスを従えて、上下するセットの中で祈りと赦しを乞い歌う。続く「Paper Flower」でもダンサーたちが静謐な楽曲を支えるようにシルエットを活かして舞い踊る。そして「Undercover」ではドラムパフォーマンス 鼓和-core-の10人がマーチングドラムを担当。楽曲をさらに躍動的に変貌させていた。そして何よりこれ程の数の人々を招くことで、彼の孤高さが際立っていたのが印象的だった。

深い潜水を終え、怪しいグルーヴがスタジアムロックのように轟く「爱丽丝」が後半戦の合図。この次にこの日、最古の楽曲「ゴーゴー幽霊船」が狂騒を巻き起こす。1stアルバム『diorama』からの楽曲、あの頃とは打ち込み音も歌詞のラジカルさも全然違うのだけど、彼の肉体の一部として確かに今でも輝きを放っていた。そして続けざまの「ピースサイン」で最高潮に。猛々しい合唱、ピースを掲げたくなるサビの無敵感、ギターロックマナーをしっかりと継承して未来を思い描く、ひねりのない最高のアンセムだった。

「1万人の人がいて、1万人に楽しめるような普遍的な音楽があるんじゃないかという変な夢を見ている。そんな音楽があるならそれほど美しい事は無いと思うので。この先何十年も探していくと思うのでよろしくお願いします。」というMCの後に歌われた「Nighthawks」は絶品だった。BUMP OF CHICKENやRADWIMPSの音楽に救われた少年時代の記憶をサウンド含めて結晶化したような楽曲が、この意思表明の続きで聴けたのが感慨深い。誰しものために自分の歌が届くことを信じている、そんなミュージシャンの曲が美しくないわけがない。

ドラムチームが米津を囲うように位置につき始まるのは「orion」。このままアッパーな曲で終えるかと思いきや、流麗なメロディがきらりと輝く。後半、トーチに炎を灯して花道を飾ったシーンが目に焼き付いている。そして、どこからともなく檸檬の匂いが香りはじめ("パイナップルの匂いがし始めたらゾンビになる予兆という設定のドラマ"を今観ているので、それかな?と一瞬思ってしまった)、「Lemon」である。紅白歌合戦では演出も派手だったが、今回は光の柱が神聖に輝くのみ。歌を聴かせる最小限の施しだった。

アンコール1曲目は、この日屈指の解放感に満ちた「ごめんね」(そんな曲なのにタイトルがこれなのが面白い)。観客から歌声を募り、ドラムチームもダンサーが観客エリアにまで近づいて祝祭ムードたっぷり。この人数だからできる、サーカスのような華やかさがあった。福岡の名物話や、ギター中島による街裏ぴんくみたいな架空漫談を経て、「クランベリーとパンケーキ」。チルタイムをガイドするようなクールな歌唱。そして最後は「灰色の青」、再会を誓う屈指の名バラードだ。素晴らしく伸びやかな歌声だった。

恐竜や哺乳類の骨が変化して作られることもあるというオパール。そして、動物の躰を支える重要な根幹である脊椎。僕たち人間の骨だって、長い年月を経て宝石へと変わるかもしれない。米津にとっての脊椎とはすなわち彼の生み出す音楽のことではないか。悠久の時を超えても輝く音楽の追求、それは前述のMCにも繋がる。巻き戻ることなく突き進む世界、その滅びの象徴として砂漠の楽曲をたくさん作っていた時期もある米津だが、朽ち果てた先にも宝石を残せるかもしれないという希望が、平成の終わりに生まれたのではないか。そんなことを、この謎めきながらも、何だかワクワクするツアータイトルから妄想しながら帰路についた。

2019.02.10 米津玄師 2019 TOUR/脊椎がオパールになる頃@マリンメッセ福岡 セットリスト
1.Flamingo
2.LOSER
3.砂の惑星
4.飛燕
5.かいじゅうのマーチ
6.アイネクライネ
7.春雷
8.Moonlight 
9.fogbound 
10.amen 
11.Paper Flower 
12.Undercover 
13.爱丽丝
14.ゴーゴー幽霊船
15.ピースサイン
16.Nighthawks
17.orion 
18.Lemon
-encore-
19.ごめんね 
20.クランベリーとパンケーキ
21.灰色と青

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