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[Real Sound寄稿記事]映画「花束みたいな恋をした」を彩る音楽たち+もう少しだけ映画について語らせてほしい

Real Soundに35回目の寄稿をしました。今回は映画「花束みたいな恋をした」の劇中音楽について、その演出効果や選曲の素晴らしさについて語ったものです。きのこ帝国、フレンズ、Awesome City Clubについて書いてます。先日noteに書いた内容からは大幅に変えました。書きごたえのある映画。

映画と音楽の相乗効果が見える作品だと、そのどちらも大好きな身からすると2倍嬉しいと思うのですが、今回はそんな想いを記事として残すことができて感慨深いです。どちらにも思い入れがないと書けないタイプの文章には仕上がっていると思います。ポップカルチャー愛に溢れた記事にできた。


感想の全ては↑にnoteに書き記したつもりでしたが、もう少しだけ語らせて欲しいポイントがあるので、この記事のスペースを利用して羅列していきたいと思います。既に映画を鑑賞した人向けの記事です、ネタバレもあります。


・アキ・カウリスマキ「希望のかなた」

魂を仕事に持っていかれてしまった麦(菅田将暉)が、絹(有村架純)と観に行ったにも関わらず、"全てを無としか感じない目"で見つめていた映画。パンフレットでこの作品を知り、Amazon Primeでも配信中だったので観てみたのだけど、すごく良かった。フィンランドの作品なんてこの機会がないと触れなかったかもしれないし、分断や差別がどんな国にもある事実をつきつけられた。遠くの国を描いた作品を観ることは、"遠く離れた"と思っていたものを自分の心の中に落とし込んで思いを巡らせる手助けをしてくれる。そんな優れた作品にも関わらず、全く何も感じ入ってなかった麦くんのくたびれっぷりを思い、かなり苦しい気持ちになってしまう。遠くの国のことよりも何よりも明日の営業と未来の昇進にしか頭がいかない彼。ポップカルチャーがもたらす心の豊かさはきっとあるし、それを失うことで変質していく性格や人となりもある。ただの趣味、ただの娯楽に留められないものなのだ。


・今村夏子「あひる」

Kindle Unlimitedにあったので読んでみた。劇中、まだ心がポップカルチャーにときめいてた頃に麦くんと絹ちゃんが久しぶりの新作として喜んでいた一作。僕はこの作家さんの作品を他に知らないので何とも評しがたいのだけど、このなんとも言えないゾワリを忍ばせた作品に歓喜していたのか、、と思うと、やはりあの頃の麦くんのカルチャー感度凄かったんだな、と。内容もなかなか興味深かった、明らかに少しばかり壊れている家族を、そういうものだと思っている主人公の視点で進むので、我々のみがその不気味さを感じ取っていて。そこにもたらされるあひるの存在が、荒涼とした世界にまやかしの高揚感を届けていく。淡々と、それでいて確かによくないものが流れ続けている文章でとても魅惑的だと思った。この映画との呼応は強く見いだせなかったけれど、何か自分たちを繋いでいたものが変容していく、という流れは少し近いような気がした。今村夏子さん、他にも読んでみようかな。


・天竺鼠

引用されるコンテンツはどれも麦と絹のカラーが見えるなぁというものなのだが、天竺鼠だけはなんというか、異物感を帯びたまま最後まで特に回収されることなく天竺鼠として存在し続けていたように思う。天竺鼠の芸風を知っている人ならば、彼らのライブのチケットが恋の始まりに繋がる、というギャップのある展開を面白い!と思うのは間違いないのだが、そういう作劇を踏まえたとて、映画鑑賞後に天竺鼠のネタを観た後で切なくなったり、川原がモッフンニョしたり瀬下がハバネロに悶えたりしても特に映画の美しさを思い出すことはない。これほどまでにポップカルチャー文脈を絡め取りながら進んでいく映画にも関わらず、天竺鼠はサンプリングされることなく圧倒的に孤高。この在り方はただただ天竺鼠すげえな、と思った。そういえば天竺鼠ってモルモットのことなんですよね。つまり「PUI PUIモルカー」にも恐らく何らかの影響をもたらしているはずなんですよ。凄いぜ、天竺鼠。


・"チケットを取ったけど行かない"くだり

この映画、自分に近い文化圏の話すぎて納得いくところもあればちょっとツッコミたい部分も多くて。例えば、さっきも書いた天竺鼠のワンマンライブのくだり。チケットを買ったにも関わらず行かないという選択肢をするってことある?いやそりゃこのご時世とか、冠婚葬祭や病気とか、であるなら分かるけども。2015年の世界の話だし、絹ちゃんは一回メシいった男に焼肉を誘われたから、麦くんはストリートビューに映った自分を自慢していてハイになったから、ってそんな理由あるかよ!本当に好きなら這ってでも行くだろ。あと芸人はワンマンライブじゃなくて単独ライブ。そこまで意地悪い指摘をしたいつもりはないのだけど、絹ちゃんはどうやら夢みがちな恋愛体質だし、麦くんは人とワイワイすることも好き、という2人の本質にも近づく。これを踏まえると、終盤の展開も何だかスムースに納得がいくし、、あの"チケット取っても行かない"くだりも実は巧妙な伏線だったのかもしれない。

・絹ちゃん
最初に麦くんと吞み始めた居酒屋で、麦くんの先輩(八木アリサ)がやってきた時のあからさまに不満気な態度とか、絶対に自分が嫌われない自信がないとできないことだし、そもそも麦くんが既に自分を好きだという確信がないとできない行動なわけで、絹ちゃんの恋愛市場における強者の佇まいみたいなものをびしびし感じ取ってしまった。そりゃ終盤の展開にも繋がってくる。

・麦くん
あのシチュエーションにおいて「ガールミーツガスタンク」などと言って写真を撮れる強心臓っぷりはやはり菅田将暉なわけだが、あれもデフォルメ、くらいには思えるくらい発想がサブカルクソ野郎のソレで良かった。あと、色々あったけどコロナ禍になった2020年、営業職も多分自粛になっているだろうし、カルチャーをまた好きになってくれてるんじゃないかと思ってる。

・人生の勝算
劇中、1番笑っちゃったシーンが例の立ち読みのところ。流石の引用!と思うばかり。ただ、単純にヒットしてる映画でもあるので、そのいわゆる"あちら側"の人たちの目に触れる可能性もあるわけで。そういう人がどう思ってるんだろう、と"花束みたいな恋をした 前田裕二"でTwitter検索したら「本が出てきて嬉しかった!」とか書いてあって、さすがにピュアすぎるだろ、と。


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