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夢で遊ぶポップミュージック〜2022.02.09 ずっと真夜中でいいのに。『果羅火羅武〜TOUR』@名古屋国際会議場センチュリーホール


ずっと真夜中でいいのに。通称ずとまよの初の全国ホールツアー。その千穐楽を名古屋国際会議場センチュリーホールで鑑賞した。作品は出れば聴いていたし、ライブ映像自体もフジロック2019の中継や「JAPAN ONLINE FESTIVAL」で観たことはあったが生で観るのはこれが初めて。まだまだ未解明な部分の多いユニットゆえ、ライブ自体がどんな雰囲気なのかも掴めない状態で足を運んだ。そして会場に入るとステージ上にそびえたつ、サイバーパンク香港、もしくは九龍城の遺構かのような巨大舞台セットに目を奪われる。これはさすがに観たことがないぞ。スト4のキャラクターがステージ上モニターに映り諸注意を促すというのも観たことない。早くも戸惑っているうちに暗転し開演。演奏隊がぞろぞろとステージ上に現れて音楽が始まる。

ステージ後方に設置された、巨大な小籠包の蒸し器が開き首謀者のACAねがせり上がってくるという登場もシュール極まりない。近未来の民族衣装をまとった演奏隊の正確なプレイ、そして真っ黒な服に身を包んだACAねの抜群のボーカルコントロールに驚嘆しつつ、「こんなこと騒動」から「勘冴えて悔しいわ」のメドレーの間はその楽しみ方を見定めるのに迷いまくった。座ってみたり、体を揺らしてみたり、はたまたステージを注視したり、、しかし「お勉強しといてよ」を口火にだんだんと体もほぐれ、そのどえらいファンクグルーヴに身を委ねるしかなくなってくる。いつの間にかOpen Real Ensambleが異音を溢れさせ、「居眠り遠征隊」ではスモークが空気砲のように放出される。謎の空間の中、耳は抜群のダンスミュージックを捕らえる。

津軽三味線の音色が鳴り響きはじまったドープなラップナンバー「機械油」の重たいテンション、観客がグッズであるしゃもじで大きなクラップを巻き起こしながらそのビートの中で歌った「雲丹と栗」の飄々とした感じと曲調の幅も豊か。ガッチガチに作り込まれた世界観の中で歌うサカナクションのようなライブを想像していたが綻びを楽しむムードもあるし、首謀者が素を排して表現の中に憑依しきる相対性理論のようなライブも予想していたがACAねのMCはたどたどしさの中に誠実さを感じるとても人間味があった。異界のようなステージと、射程距離の凄まじいポップソングコンサートとしての趣と、人となりを感じさせるメンバーたち。そのどこにも中心を置かない、なのにずっと美学が貫かれている。この不思議な噛み合いは何なのか。

そんな疑問に何となく合点がいったのが「ばかじゃないのに」の時間。アコースティックアレンジが施され、1番サビまで全ての照明演出を切って真っ暗闇の中で披露された。そしてステージ上に少し幕が下ろされた状態で簡素なライティングの中で歌われたこの曲はとても現実的な位相にある気がした。歌の内容含めリアルな温度のある時間で、夜眠る前の少し物思いに耽るシーンが目に浮かんだ。そして言うなればこの曲以外の時間はまるで夢の中にいるような心地だった。常識的な色味や理解可能な状況が希薄な、夢見心地の時間だったのだ。そもそも「ずっと真夜中でいいのに。」というユニット名だ。これはつまりACAねの理想郷への願い、全てが自由でいられる夢の中に居続けられる幸福感を思いながらつけたユニット名なのではないだろうか。

だとしたらこのライブの良い意味で未整理で情報過多な感じも、普遍性と破綻っぷりが同居したステージングもしっくりくる。ACAねの夢の中に招待され、ともに夢で遊ぶかのようなライブなのだろう。そうでなければ、津軽三味線と扇風機ノイズギターが合奏の一部になることなんて有り得ない。感傷的なストーリーやバンドヒストリーとは縁遠い、物語性のない楽曲ばかりだからこそもたらされる純粋な快楽というのもある。本編ラスト、「マイノリティ脈絡」「正義」、そして言葉少ないMCを挟んでの「あいつら全員同窓会」の流れはドラマ性由来のエモーショナルとは全く違う、音楽が音楽として心を揺さぶり体を躍動させて昇天させていく純度の高さがあった。いつも見ているバンドやアーティストとは一線を画す"文脈が無い"という美しさ。

始まりの1曲「秒針を噛む」をアンコールでやるという正しさはザ・バンドという感じがするし、新曲「袖のキルト」をタイアップの紹介まじりで披露する様もメジャーアーティストという感じだ。アンコールでは紡がれ始めている物語の一端を知れたように思う。「サターン」のラストで見せた、総勢何名いたのかというような人数をステージ上に動員してのアジテーションはフェス的な快楽にも則っていたし、これから例えば野外フェスのトリなんかでこの大団円が行われると、かなり狂った祝祭感が溢れるはず。ラストの「脳裏上のクラッカー」で実感するACAねの歌声の求心力たるや。絶対的なポピュラリティを持つ声質でありながら、ある種クローズドで実態の見えない活動形態を選んだところにも彼女の持つ可能性の限りなさがあると確信した。

<setlist>
1.こんなこと騒動
2.低血ボルト
3.勘冴えて悔しいわ
(ここまでメドレー)
4.お勉強しといてよ
5.居眠り遠征隊
6.MILABO
7.機械油
8.雲丹と栗
9.猫リセット
10.眩しいDNAだけ
11.ばかじゃないのに(Acoustic ver.)
12.正しくなれない
13.マリンブルーの庭園
14.マイノリティ脈絡
15.正義
16.あいつら全員同窓会
-encore-
17.秒針を噛む
18.袖のキルト
19.サターン
20.脳裏上のクラッカー

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