しろなみ

ときどきショートショート。文章。ものかき。

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こんにちは。しろなみです。 ときどきショートショートを書いています。 気の向かう時に投稿させて頂きます。 ご連絡は以下よりお願い致します。 【メール】 nerv.sh1r0nam1@gmail.com

    • 割れた硝子瓶

      自宅の物置。 捜し物をしに来た。 入口近くには脚の一部が欠け、グラグラと不安定に揺れている、朽ちたテーブルがある。 天板にはとうの昔に中味のなくなった、特徴的な形のガラス瓶が1本。 片付けるのを忘れていたか、はたまた瓶の形に魅入られて敢えて捨てなかったのか、今では思い出せない。 不意に身体がテーブルへ接触する。 意図したものではなく、気を抜いていたというべきか。 ガタッと音を立てたテーブルはその位置を動き、また衝撃を受けてガラス瓶はその平面を滑り、天板を飛び出した。 遅か

      • 突然の(体験談)

        ぶっ倒れた。 突然の事だった。 ウイルス性胃腸炎。 数時間の間、トイレで嘔吐きと腹痛との格闘の後、倒れ込み、動きの鈍くなった手で119番を押した。 冷汗と動悸が現れ意識も曖昧の中、初めて搬送される側として乗る救急車の隊員は淡々と僕とやり取りをして脈を取り体温を計る。病院へ連絡を取り、少しの間にサイレンを吹鳴させ動き出した。 眠気かも分からない曖昧な意識の中、それ迄の記憶の中では遥か昔、僕の中では家族を看取った時にしか聴いたことのない音──心電図の電子音が、妙に脳に深く焼き付

        • 見ている

          見ていた。 とある魚は冷たく、透き通った海の中で。 ブクブクと大きく泡を立て、脚を使ってスイスイと泳ぐ人の姿を。 泳ぐ人は見ていた。 刺すような冷たさが襲う海の中で、自分の傍から離れずに漂う魚の姿を。 見ていた。 とある虫は暑く、湿ったジャングルの中で。 自分には理解のできない声を出し、木の上にいる獲物を銃で狙うハンターの姿を。 ハンターは見ていた。 暑く汗の滲むような中で、身体を立たせ、まるで猟を見物しているかのような立ち姿をした虫の姿を。 見ていた。 とある猫は寒

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          情報

          ここ最近、とはいっても百年程度の期間。 我々人類は飛躍的な技術革新を行ってきた。 例を挙げるならば、航空機。 誰もが一度は名を耳にした事があるであろう、アメリカのライト兄弟。 初飛行は1903年といわれているが、ここから現在の操縦桿を使用して機のコントロールを行う方式に変遷したのはライト兄弟の初飛行から僅か5年程度経った頃である。 そして10年ほど経つとドイツでは金属製の飛行機が作られるようになり、20年も経てば飛行機はたちまち旅客機として用いられるほどに進化する。 193

          脳の中、深いところ、もう失くしたかと思い込んでいたあの想い出。 蝉の鳴き声が重なり合い、照りつける陽射し、乾いたアスファルトと掠れた白線の織り成す道路。 ふと道の先を眺めると、揺らめく陽炎。 少し立ち止って、汗を拭う。 リュックに突っ込んであったポカリスエットを飲み、息をついてまた、歩き出す。 当時の自分でさえその時には懐かしさを感じていただろう、「ずっとそこにある」駄菓子屋。 ふっと立ち寄ると、軋む床と錆のあるラックと、色濃く、長い時間をそこで過ごしたであろう木棚に並

          浮標

          ぼんやりと漂う。 僕はただ、なにもせずにぷかぷかと漂っていた。 海に。 思考の、意識の海に。 僕の肉体は静かに空を向いて横たわり、黒く染まった空と、ばらまかれた砂糖のような星たち。 その星たちに混ざっているのは、大きく存在感を放つ丸々とした月。 なにも考えていない。 肉体は脱力し、緩みきって。 思考は放り投げ、意識はどこに。 考えないようにしている、とはまた違う。 それだと、"考えないようにする"ということを"考えている" ことになるはずなので、簡単なようで難しい。

          記憶

          記憶の片隅。 朧げに浮かぶその顔、表情。 しかし思い出せない名前。 同じ時間を過ごしたはずで、時に楽しく、時に真面目な話をして。 俯瞰的にみれば、そこそこ接点もあったはずで。"友人"という位置づけにもきっといたはずで。 なのにどうして、思い出せないのだろう。 人の脳は無意識に、五感で得た情報を取捨選択しているといわれている。 数千、数万日と過ごす人生の中で得た情報は無意識のうちに脳によって整理され、記憶されたものは適切なタイミングや場所などによって思い出される。 これを記憶

          非日常

          季節は冬。 午後の授業を終え、帰路へ着く。 高校を出て10分程歩くとある最寄り駅には、ホームが高い位置にあるせいで改札に辿り着くまでに存在する一際目立つ長いエスカレーターがある。 ブレザーを着込み、マフラーを巻いて歩く僕。 いつも通り使い古したイヤホンを着け、エスカレーターの左側へと立つ。 普段、街中を歩いていても、しっかりと意識しなければ、その時その時に存在する自分の周囲の人間がどのような風貌か、服装か、などは案外覚えていられないものだ。 僕はエスカレーターに乗る。 前を

          思考と海

          徐ろに身体を横へ倒す。 脱力し、全身に柔らかいマットレスの感触を感じる。 窮屈さなどなく、感じるものは柔らかく身体を受け止める感触だけ。 部屋の灯は消えている。 音もなく、静寂。暗闇の中、慣れない目でぼんやりと天井を見つめる事だけに頭を使う。 他は考えない。 頭を、身体を、波の揺らぐ静かな海に放り投げる。 ゆっくりと、深く沈んでいくような。 流れるがままに、漂うような。

          夜。人気もまばらな河川敷。 星が空に並ぶ闇の中、道端へ等間隔に立ち、淡く光を灯す街灯。 ところどころ電球が切れかけているのか、ポツポツと点滅しているものもみられる。 宛も無く家を出て、何気なく辿り着いた河川敷。 時折、目立つ蛍光色のスポーツウェアに身を包み、軽やかな足音を鳴らして走る人。 気づいて間もなく追い抜かれ、やがて彩やかな色のシルエットも闇に消えて見えなくなった。 遠くを眺めつつ、何を考えるわけでもなくアスファルトを歩く。 現代人には手放せなくなっているスマフォも

          シーソー

          ある曇りの日。 目的もなく、煙草を片手に公園へ赴く。 入口に立ち、公園内を見渡す。 程よい距離感に設置されているベンチ。 ところどころ塗装が剥がれ、色褪せたジャングルジム。 錆びが見え、甲高い金属音を鳴らしながら大きく揺れるブランコ。 日焼けで変色し、設置された当時の色彩などとうに失ったカラフルな滑り台。 目を凝らして隅々まで見渡す。 見つけた。 こちらもとても具合が良いとはいえない、朽ちた様子の見られるシーソー。 くすんだ色の一枚板が地面に触れる箇所へクッション代わり

          海。陸と対にある存在。 果てしなく水に満たされ、波を立てる音が響く。 穏やかに揺れる水面は時に荒れ、透き通っていたり、片や濁っていたりと様々な顔を持つ。 海と陸との境界には砂浜があり、岩があり、これもまた様々。 海は良い。 自然を感じられるし、何より眺めていて飽きが無い。 私は時々、五感を働かせて海を感じる。 潮風、匂い、波の音。 水の色、岩に当たって弾ける水飛沫。 泳ぐ魚や蟹、微かに音を立てながら歩くヤドカリ。 堤防や砂浜、波とともに揺らぐ船の上でだって。 サーフィン

          回想

          私は20代前半なのだが、人生を回想する回数がこの頃増えている。 何が故に、気になるが為にそう至っているのかは直ぐには言語化できないが、最も古い記憶から今に至るまでの記憶をよく回想する。 面白い人生ではない。 親ガチャという言葉があるが、敢えてこの言葉を使って人生を一言で表すのであれば、私は親ガチャ失敗なのだろう。 様々な状況で皆生きて日々過ごしているのだと思うが、端的に表せば赤の他人の境遇に思いを馳せ、深く思考する事はそうないことであり、あるとするならば自分に関わりの深い人物

          足りないもの

          20代も折り返し、気づけばそんな歳になっていたことを改めて思い出したケイイチは、おおよそすべてを兼ね揃えていた男だった。 しかし何かがまだ足りていないことをケイイチは常に考えていた。 思いつくようなコンプレックスはなく、実家は裕福なために大学を好成績で卒業し、一流企業へ入社。顔立ちは整い、また優しい性格でもある。 そんな自分にも足りないものが何かあると、ケイイチは大学を卒業した頃から思い始めていたのだ。 適度に女性とも付き合ってきたが、ここは順風満帆には行かないことが多かった

          足りないもの

          一度だけの

          朝。会社勤めのコウタは気だるげにベッドから起き上がり、洗面所へ行き顔を洗う。 頭を働かせようと簡単に朝食を摂る。 ベランダへ出て煙草を燻らせ、紫煙を吐き出す。 澄んだ朝の空気。見下ろす道路にはランドセルを背負う子どもが歩いているのが見える。 気持ちを切り替え、スーツに着替え、忘れ物のチェックをして家に鍵をかけ、自宅を出る。 歩いて最寄駅まで向かう。 コートを着てきたが、朝はまだ冷え込むので正解だった。日入りの時刻を過ぎるとまた気温は下がるので、帰る時も着ればいい。 定期券を翳

          一度だけの