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脳の中、深いところ、もう失くしたかと思い込んでいたあの想い出。

蝉の鳴き声が重なり合い、照りつける陽射し、乾いたアスファルトと掠れた白線の織り成す道路。
ふと道の先を眺めると、揺らめく陽炎。

少し立ち止って、汗を拭う。
リュックに突っ込んであったポカリスエットを飲み、息をついてまた、歩き出す。

当時の自分でさえその時には懐かしさを感じていただろう、「ずっとそこにある」駄菓子屋。
ふっと立ち寄ると、軋む床と錆のあるラックと、色濃く、長い時間をそこで過ごしたであろう木棚に並べられている駄菓子。
店を取り仕切るおばあちゃんは赤の他人なはずなのに、何故か不思議な安心感をもたらす笑顔で、いつも子供たちを出迎えていた。

いくつか駄菓子を買って、その安さに感心し、チープな味わいを楽しみながら駄菓子を食べ歩く。

いつのまにか自宅の近くへ着き、ちょうど食べ終わった駄菓子の袋をポケットに入れる。
いつも通りに玄関を開け、「ただいま」と声を出す。
手を洗って嗽をして、リビングへ入る。

冷房の効いたリビングの隅では、飼っている犬がカーテンから漏れる陽射しを受けながらスヤスヤと気持ちよさそうに眠っている。

自分もソファに座り込み、風の涼しさとシャツの下で滲んだ汗がゆっくりと引いていくのを感じて、ひと心地つく。

疲れからか、心地良さからか。やがて眠気が襲ってきて、抗うつもりもなく、その眠気に思考と身体を委ねる。

僕は時々、静かな、邪魔のない独りの時間に、ふと蘇ったその想い出を懐かしんだ。

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