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割れた硝子瓶

自宅の物置。
捜し物をしに来た。
入口近くには脚の一部が欠け、グラグラと不安定に揺れている、朽ちたテーブルがある。
天板にはとうの昔に中味のなくなった、特徴的な形のガラス瓶が1本。
片付けるのを忘れていたか、はたまた瓶の形に魅入られて敢えて捨てなかったのか、今では思い出せない。

不意に身体がテーブルへ接触する。
意図したものではなく、気を抜いていたというべきか。
ガタッと音を立てたテーブルはその位置を動き、また衝撃を受けてガラス瓶はその平面を滑り、天板を飛び出した。

遅かった。
嫌な音を響かせてガラス瓶はその形を崩す。
間に合わなかった。

中味がないのが幸か不幸か。が故に乾いた瓶は細かく散り、床は光を受けて反射するガラスの破片にまみれている。
身体が硬直する。
たった今、ガシャンと音を立てて瓶が砕けた光景が脳でループする。
その光景は何秒、いや何十秒か、文字通り身動きの取れなくなった私の脳内で、繰り返し、繰り返し。
トラウマに近いような、過去の忘れたい記憶が溢れるように掘り出された。

つくづく、嫌になる経験。記憶。
途端に気持ちは沈み、落ち込む。
しかし、それは乗り越えていかなければならない。
そうやって人は成長すると、誰かが言ってたっけ。

長いような短いような記憶の辿りを止めて、掃除機を持ち出す。
乗り越えていかなければならない。
スイッチを入れ、モーターの轟音を鳴らしてキラキラと輝く破片を吸い込ませる。
念入りに掃除機を動かしておこう。
そして同じ事を繰り返さないようにしなければ。

やがて元通りに床は綺麗になった。
掃除機を元ある場所へ戻す。
さて、まずは不安定なテーブルの修理からかな。

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