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夜。人気もまばらな河川敷。
星が空に並ぶ闇の中、道端へ等間隔に立ち、淡く光を灯す街灯。
ところどころ電球が切れかけているのか、ポツポツと点滅しているものもみられる。

宛も無く家を出て、何気なく辿り着いた河川敷。
時折、目立つ蛍光色のスポーツウェアに身を包み、軽やかな足音を鳴らして走る人。
気づいて間もなく追い抜かれ、やがて彩やかな色のシルエットも闇に消えて見えなくなった。

遠くを眺めつつ、何を考えるわけでもなくアスファルトを歩く。
現代人には手放せなくなっているスマフォも、今この時間はポケットの中で通知を知らせるバイブだけが時折小さく音を鳴らすだけだ。

20分ほど歩いただろうか。
何気なく喉の乾きを覚え、歩きつつ自動販売機を探す。
日焼けて色の褪せた自動販売機を見つけ、コインを入れる。
迷う暇もなく水を買い、息を吐いてから喉へ流し込む。
キリッと冷えていて潤う。そして歩いたために体温の上がった身体に心地良い。

ボトルを片手に息を整え、周囲を見渡して気づく。
どうやら河川敷を歩いているうちに隣の街まで歩いてしまったらしい。
近くに寂しく灯りを点す街灯に付けられているプレートには隣の街の名前。距離にして数キロ。

家に帰ろう。目の前の景色から振り向き踵を返す。
来た道を歩き始め、暫く歩いては立ち止まり、水を飲む。
思ったより疲労があったらしい。
息が軽く上がり、身体が暖まっているのが分かる。

大分戻ってきた頃。行きがけに気がついたポツポツと点滅していた街灯はついに寿命を迎えたのか、暗く、ただ静かに佇んでいた。
タイミングがいいやら悪いやら。
河川敷とはいえ、灯りがなければしっかりと通ることはできなさそうだ。
暗く佇む街灯の下でスマフォを開き、時間を確認する。
日が落ちるのが早くなり、時間は19時を表していたが、空を見渡すとキラキラと星が輝いている。

…………

無意識に空を眺め続けていたらしい。
ふと我に返って再びスマフォを開くと3分程経っていた。ボトルの水を口に含み、歩き出す。
空気も段々と冷え、時折吹く風に身体を震わせる。

やがて河川敷を離れる。
自宅までの路も賑やかさなど無く、しんみりと静かな雰囲気。
ちらほらすれ違うリーマンは残業終わりだろうか、何度かすれ違っては軽快に革靴の音を鳴らしつつ夜の路へ消えていく。
ぺたぺたと音がしたと思えば、蛍光塗料を使っているであろう光に反射する首輪を着けた犬と老人。
半ば犬にリードを引かれつつ、自分が今歩いてきた方向へまた歩いていった。

人それぞれが帰るべき場所へ帰る道。
宛もなく散歩しただけの自分は景色に紛れているだろうか。
考えつつ歩き、自宅へ着く。
無意識にでも済ませられる手洗い、嗽。
脱衣場へ行き、衣服を脱ぎ、湯に浸かる。
身体を拭き、ラフな服を着て夕飯を食べる。
寒い冬。外でカンカンと甲高い音がしたかと思うと、赤い灯がピカピカと光っている。消防団が行う火災予防運動だったようだ。

食後のコーヒーを飲みながら一息つく。
やがて眠気がやってきて、赴くままにベッドへ入る。
時計は23時。夜も更けてきそうな頃合い。

手馴れた手付きでスマフォのアラームをセットし、カチカチとスイッチを押して部屋の灯りを消す。
ふと、新しい記憶の中にいる、点滅していて、帰り道には消えていたあの街灯を思い出す。
パッと音もせず消える灯。
自分もそうしようと、頭を真っ白にして意識とともに、深い眠りの中へ入り込むのだった。

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