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物語と現実の狭間で

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実際に起きたこと、架空の思い、真実を混ぜて物語を紡ぎます。随筆のような小説のようなものです。
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災い転じてなんになる?

災い転じてなんになる?

乗った電車は乗客がまばらだった。昨今のご時世を気にしてか、乗客はまるで定められたかのように座席の端に座っている。その等間隔がずっと続く。

まるで鴨川のようだ。

私はふと思った。そういえば母が昔、鴨川のカップル等間隔法則を見ると卵を投げたい衝動に刈られたといってたっけ。

次の駅に着いても乗客は降りないし、乗ってこない。ほんの少し前とは変わってしまった。ある意味異世界のようなものかもしれない。

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ここではないどこかへ

ここではないどこかへ

大阪を出たいと思った。

今いる場所から遠く離れて、私のことを知らない所へ。携帯と財布をおいて。着の身着のまま漂うように。

気づくと仙台にいた。

海と島と観光客と勝景地。うみねこはどこかにいってしまった。古いものと商売の香りとマイナスイオン。葉は赤や黄に色ずきはじめ、ここに居続けるのは無理だと告げられた。

船に乗る。

水平線に向かう船は地球の裏側に吸い込まれそうな勢いだ。スクリューから出さ

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夢見心地

夢見心地

夢。

夢見心地がいいと言えば嘘になる。二度寝したあとにみる夢は大抵奇妙だ。昔馴染みが出てきて、知らない人と共存する。と思えばなぜか罪悪感を感じる状況にいたり。夢の中でデジャヴを感じることもある。これ一回みたぞ。話の大筋一緒だぞって。

どうしても続きが気になる夢の途中で起きたときはもう一度寝る。するとその続きが見ることができる。ただ覚める前の夢と違って、自分の希望する展開の夢だけどね。一種の映画

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私は生まれる場所を間違えた

私は生まれる場所を間違えた

自転車に乗って坂を下る。

これ帰り登るねんなあ。

まだ目的地にもついていないのに帰りを気にする。日差しが刺さる。自転車のタイヤが溶けるんじゃないか。アイスクリームのようにゆっくり溶けて、アスファルトに染みていく様子を想像する。そうやって赤い側だけ残った自転車をどう運ぶか。

そんなことを考えていたら、高架下まで来た。

高架下には影ができて涼しい。横を見ると高架が向こうまで続いている。土台があ

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ダブルデッカー

「次は天満橋」

20:36出町柳発、淀屋橋行きの特急に乗り込む。意図的にダブルデッカーを選ぶ。今日は2階に座りたい気分だ。

あまり夜景は見えない。車内の光が反射するためだ。ただ少し下を覗き見る行為はわくわくする。優越、好奇心、冒険、焦燥。多くの思いをのせてダブルデッカーは進んでいく。

ホームに止まると、自分が少し浮いている感覚に襲われる。ホームに立っている人より目線が上のためだ。車内から人の

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アブラゼミ

アブラゼミ

サンダルをはいて、玄関の扉を開ける。日差しと喧騒が一斉に襲いかかる。

鳴き声を聞くと今年はアブラゼミが多いように思う。大声でぐわんぐわん鳴くクマゼミと違って、シャワーで浴びせるように鳴くアブラゼミ。そういや新潟の親戚が大阪に来た時、クマゼミをみて驚いていたなと思い出しながら鍵を掛ける。

日差しが背中を襲う。暑い。これは外に出てはいけない暑さだ。

家の横の小道を通って商店街へ向かう。いつもなら

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逃げ水

暑い。さっきから太陽が私のうなじを攻撃している。バイトの面談の帰り道。山一つ超えてもなおこの旅路が終わることはない。

帽子を持ってくればよかったと後悔しながら、途中道端にあった猫じゃらしを引っこ抜きタクトのように振りながら歩く。

焼け焦げたアスファルトの道がずっと向こうまで続いている。交差点に差し掛かると、うっすらと向こう側のアスファルトから1センチ上が揺れていた。

少し気分が高揚する。目で

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夏の終わり

夏の終わり

ごっ、ごっ、ごっ。
スーツケースが階段にぶつかる。取っ手を両手で持ちながら必死に階段を上っていく。通行人は横目に見ながらすいっと通り抜けていく。
お盆を過ぎたというのに夏の暑さは容赦がない。いや、さっきそこの店の前のミストシャワーで長居し過ぎましてね。なんて言い訳を考えながらごっ、ごっ、ごっと上って行く。

階段を上がると大きな標識がそびえ立っていた。左が国際線、右が国内線。はあ。でかい。でかいな

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夜の点灯夫

夜の点灯夫

キラキラと輝く街を上から眺める

この光は誰を照らしてるんだろう。
輝きながら、何を見ているんだろう。

どこにいっても明るいこの国は明るさを見せつけないと、国が終わるとでもいうように暗さを抱える。

夜の空を見上げて、なぜ向こうの方の空は白けているのか。
朝日も昇らない真夜中だというのに。

うちに秘めたどろどろの暗さを、人工の明るさで必死に隠そうとする。暗い部分はまるであってはならないとでもい

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