関順一

東京で風変わりな個人タクシーをしています。で、そこで起こったことを元に小説を書きました…

関順一

東京で風変わりな個人タクシーをしています。で、そこで起こったことを元に小説を書きました。ほぼ現実のものがほとんどですが、ほぼフィクションのもあります。現場のリアルをお伝えしたいのが目的なのですが、面白がってもらえるのが一番うれしいです。

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タクシー運転手の note

「どうしてこんな色なの? 珍しいよね」などと聞かれ、「コロナの最中つまんなかったもので」などと答えて、こんな会話を判子で押したように何度も繰り返しているが、まあ、こちらにとっては何度もだけど、お客さんには一度目なんだから、別にいいかな。 概ねみんなポジティブに捉えてくれているっぽいし、それきっかけで話はいろいろな方向に始まるから、こんな色にして本当によかったと思っている。 小さく、静かな、始まり 令和二年四月、所属していた個人タクシーの共同組合から脱退して、ある程度束縛を

    • 生きる自由と、インボイスとやら(タクシー編)

      去年の10月からインボイス制度という名のもとに領収書には(消費税)納税者の登録番号が記されるようになった。ぼくは消費税免税事業者を維持するので登録番号は持てず、その制度には不参加ということに。 それまで、個人タクシーのほとんどの事業者は売上額が一千万円以下なため消費税は免税となっていた。 が、タクシー料金を経費として処理する場合、この登録番号がないと適格領収書とみなされず、それがないタクシーには「乗らないように」と経理から指示が出たりすることが予想され(実際にそうなった)、

      • 感想 「龍樹」

        少し経つけど、「龍樹」という本に一応目を通した。何が書いてあるのか、さっぱりわからなかった。まあわからないのは最初からわかっていたことだけど、まあそれでも一応、目は通せた。 とにかく専門的な用語が多過ぎて、スラスラと文章が頭に入ってくるような類の本では全然なく、ぼくはその辺のところには少し明るいところがあるんだけど、わからない言葉や概念などはすっ飛ばして、ただただ目を通して、自然に頭に浮かぶものを「思い」ながら読み進めた。 まあ楽しめる読書ではなかったけど……重要なことが

        • タクシーとは何ぞや

           タクシーを始めて十年が過ぎた頃、タクシー車内での出来事を小さな本にまとめて出版したことがあった。まあ、重版される気配もなく、これといった反応もないまま、瞬く間に本屋さんから消え、ぼくの記憶の中ですらも一瞬の出来事となった。でも、しょんぼりするようなことも全然なくて、それで大金持ちになりたいってわけでも有名になろうってことでもなかったから全然なんでもなかった。本当だ。だから「売れなかったの?」なんて言われたって普通に「別にぃ~」という感じだった。無理してなんてない。  でもそ

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        タクシー運転手の note

          読む前感想「龍樹」

          ━━ 龍樹(ナーガールジュナ)、大昔のインドの僧。大乗仏教の祖とかいわれている人 ━━ 現代人は、差別に対して非常に敏感で、それと思われることには声高に非難をする。なのに、優劣をいつも気にしていて、日々、優越感を得るために生きているようにうかがえる。まあ別に、悪いことではないけど…… 人は、それぞれに世界を持っていて、同じ物、同じ出来事を見ても頭に描かれる映像は、それぞれ。でも、常識というものが共通のビジョンを心に浮かばせ、それぞれ共感し合いながらコミュニケーションをとっ

          読む前感想「龍樹」

          「法的にどうなの?」ってどうなの?

          恵比寿で まだ宵の口、男はすっかり酔っぱらっていた。恵比寿でのこと。 恵比寿という街はこの十年くらいで随分と威張り腐った顔になった印象があるんだけど、昔はもうちょっと控えめな性格だったように思う。渋谷で遊ぶのもあれだし青山や六本木でってのもの何だから「恵比寿でもいい?」ってふうな感じで、何というか、リラックスできるところだった。それが二十年くらい前に恵比寿ブランドみたいなものが発生して、それがどんどん成長し、今や「わざわざ恵比寿で」というような街になってしまった。  まあ、

          「法的にどうなの?」ってどうなの?

          タクシーとフィクション [猫がいる理由]

           人間は街を造る。そのわけは、造ったその街に人間を操らせるためだ。人々は、出来上がったその街の個性に合わせて振る舞い、ただただ身を任せ、そうしているだけで街は勝手に個性を強めていくんだけど、その特徴が魅力的であれば人は集まるし、でまた、みんながその街に似合った行動をしたりしていると自然に、街は更に勝手に育っていく。で、そうしてようやく街を造った目的が果たされて、街が人間を操り出す。  人間が街に人間を操らせて……ていうかまあ、結局のところ街は、そこに住み、そこに通い、そこに

          タクシーとフィクション [猫がいる理由]

          生命とストレス (読む前感想)

          「ストレス」という言葉を人間の体に使いだしたのは、けっこう最近のことで、まだ百年も経ってないんだとか。ちょっと意外だった。 もちろん、それまで人間にはストレスがなかった、というわけではなく、あったものを枠で囲って、それをストレスと名付けた、というだけだけど、そう名付けることによって新しい概念が生まれたと考えると、かなり重大な発見といえるのではないだろうか。 著者ハンス・セリエは、まさにそれを最初にした人(諸説ある)で、本書では、ストレスというものと向き合った科学の現場を振り

          生命とストレス (読む前感想)

          タクシーと、東京と、(長編エッセイ)

          東京ワッショイ! 2020年、東京はフィーバーするはずだった。  ところが、新型コロナウイルスが流行してしまい、オリンピックどころか、通常の生活すらできなくなってしまった。やがて政府からは外出自粛要請があり、そして緊急事態宣言に発展し、その時期東京からは、あんなにうじゃうじゃいた人影がすっかりと何処かへ消えてしまった。新宿も渋谷も浅草も上野も銀座も日本橋も池袋も、今までの混雑の意味がまるでなかったかのように、建物だけが取り残され、ガラガラの山手線は無表情にぐるぐると回り……ぼ

          タクシーと、東京と、(長編エッセイ)

          「群衆」  タクシーで、東京と

           車道に一歩はみ出して手をあげている、その女の人の前に ……ッカ チッカ チッカ とウインカーをあげて、ゆっくりと車を寄せ、ドアを開ける。外の雑踏が一気に車内に流れ込んで、車の外と内とが一つに繋がる。  バンっ というドアの閉まる音を合図に、一瞬繋がった雑踏は、再び遮断。挨拶をして、行き先のやり取りを終え、走り出す。少し間を空けて女の人は、静かな音を立て始める。 ……カチャッ キュッ コトッ カチャ これから出掛ける女の人の定番の仕草。隔離された車内に響くその静かな音が、淡

          「群衆」  タクシーで、東京と

          タクシーとチップ

          新しい空気ようやく、「コロナ後」と呼べるような世の中に差し掛かった気がする。 個人的見解の域は越えられないが、少なくとも、タクシー運転手がそんな入り口にいるのは確かだと思う。もう「回復しつつある」なんて言葉はもう不似合いな印象を覚える。 すべての仕事が失われて、一旦、かなりの人がタクシーから去って行った。少しずつ回復していく中、帰って来た人もたくさんいたけど、多くの人は戻らなかった。そして、回復が進むのに合わせて新しい戦力がタクシーに加わって、元々いた運転手も、進んだ世の中

          タクシーとチップ

          たいやきとコーヒーの店へ行くわけ

          少し離れたホームセンターからの帰り道、何となく、少しでも近回りしようと思い、何でもない知らない道を、ひとりスタスタと歩いていた。 住宅街に小さな町工場がぽつぽつ紛れているような、そんな街並み。車もすれ違うのが困難な狭い道で、「たいやき」と書かれたのれんを見つけて立ち止まった。半年ほど前のことである。 受け渡し用の小さな窓の向こうに若い店主らしき男の人が映り、一瞬目を合わす。「こんにちは」という声は遠慮がちで、店主はすぐに目をそらした。 脇の引き戸が少し開いていて、見ると、

          たいやきとコーヒーの店へ行くわけ

          歌舞伎町という存在

            つれづれなるままに、日くらし、硯にむかひて、 心に映りゆくよしなし事を、そこはかとなく書きつくれば、 あやしうこそものぐるほしけれ。 常夜と、街で タクシーは、街とかかわる……  街とかかわるということは、その街特有のお客さんを運ぶということで、その地形に合わせて車を走らせるということではない。だから、歌舞伎町がかかわりたくない街ナンバーワンになるのは必然で、「お前らが言うな!」と言われそうだけども、タクシー運転手のほとんどが、この街で仕事をするのは避けたい、と思ってい

          歌舞伎町という存在

          コスモポリタン

          私はタクシーを生業としておりまして、自営なのですが、営業エリア内に居住することが義務付けられています。 その条件の元に国から認可を得ている個人事業なので仕方ないのですが、私の場合、東京23区・武蔵野市・三鷹市がその事業区域で、それ以外の地域へ住民票を移すことはできません。 何かの制約があるというだけでいっぺんに窮屈になってしまうものですが、「どこか違う場所に住めたらな」なんてふうに思いが向かってしまいます。別に、どこに住みたい、なんて思ってもなかったくせに。 ……どうしてだ

          コスモポリタン

          タメ口営業。少数派、常識、方言とか

          言い訳、その1(その2はありませんが) ぼくはどうも「ものの見方」が他人と違うようで、特に「常識」というようなものとの見解が離れがちだ。 だから、伝えようと放つ言葉が勘違いされないように、あらかじめ断りを入れてから話したり、常識的見解をふまえて言葉を選ぶようにしているが、その違いに気づかないこともあって、ときたま難儀することが…… でもまあ、ちょっとした「目線の違い」というようなものだから、そのまま話しても別に支障のないこともほとんどだし、少々意味が違っていても常識的に判

          タメ口営業。少数派、常識、方言とか

          若さ信仰へのラブレター(批評小説、中編並み長さ)

          ほったらかしにされ、残された文章と、批評遊び  ぼくはあちこちで営業するから、そこここに顔見知りがいて、まあタクシー運転手なんてみんなそんなものなのだけど、ろくすっぽ連絡先も、名前すらも知らないような相手と仕事の話だの世間話やらを長々としたりするもので、でも何の前触れもなく姿が見えなくなったなと思ったら、それ以来もう二度と会っていない、なんて人も珍しくなくて、彼女も、そんなふうに突然に姿を消しちゃった。まあ、羽田空港のタクシー待機所で月に一度か二度、顔を合わせたときに話す程

          若さ信仰へのラブレター(批評小説、中編並み長さ)