時代劇レヴュー㉓:清須会議(2014年)

タイトル:清須会議

公開時期:2013年

製作会社・配給:フジテレビ、東宝

主演(役名):役所広司(柴田勝家)、羽柴秀吉(大泉洋)

原作・脚本:三谷幸喜 


2013年11月に公開された映画で、織田信長の後継者や領地の再分配を決めるべく重臣達が行った所謂「清洲会議」(作中では清須会議)を題材にした作品であり、三谷幸喜が得意とする舞台風の群像劇で、柴田勝家と羽柴秀吉を中心に描かれる(なので、明確な主人公と言うのはいないが、便宜的にここでは勝家と秀吉を主人公として扱う)。

作品としては純粋に面白く、目新しい解釈はほとんどないがオーソドックスな設定なために安心感がある。

俳優陣も豪華であるが、端役も含めてかなり多くの登場人物するので、紹介テロップがないのはいささか不親切な気もするが、基本的には歴史に詳しくなくても楽しめるような作りになっている。

ただ、昔ながらの時代劇に「様式美」があるとすれば、過去に三谷が手掛けた「新選組!」(2004年の大河ドラマ)などのように、良くも悪くも独特のテイストが濃厚に出ていて、古典的な時代劇の雰囲気とはまるで違うものになっており、そう言う「様式美」を重んじるような所謂「古参」の時代劇ファンには受けなさそうな場面もちらほら見られる。

かと言って、別に史実に反するような点はなく、むしろ考証的にはしっかりしている面もある(既婚女性が眉を剃ってお歯黒を塗っていたり)。

これまた三谷脚本によく見られるものであるが、随所にコミカルな描写が出てきて、本筋の合間に頻繁に挿入される入る阿南健治演じるの滝川一益の描写や、妻夫木聡演じるの織田信雄の度を超えた虚けぶりは、個人的には少しやり過ぎな気もするが(流石に一益が一人で清洲まで走ってくることはないと思うが、甲賀の忍者の出身と言う説が元ネタなのであろうか?)。

一点だけ明確な間違いと言うか、これはドラマ的にはそっちの方が面白いと思って採用したのであろうが、武田信玄の娘の信松尼(松姫)を三法師の生母と言う設定にしたのは「うーん」と言う感じがする。

信松尼を三法師の生母とする史料もあるようだが、明らかに信憑性が薄いし、仮に生母だとしても、少なくともあの時点で清洲に信松尼がいることだけは明確に誤りである(まあ、これは演出の範囲内だとは思うが)。

従来のドラマや映画ではあまり登場することのなかった織田信包とか前田玄以とか、そのあたりの人物を取り上げたのは好印象であった。

伊勢谷友介演じる信包の曲者ぶりも面白かったし、玄以をキーパーソンとして描くあたりには三谷のこだわりが感じられる。

明智光秀が妙に老人に描かれていたあたりも、実年齢を考慮したものであろうし、物語の中心人物の一人である小日向文世演じる丹羽長秀が、ぎりぎりの所で秀吉に寝返ると言う解釈は、これまでにない本作オリジナルの展開でこれも面白かったと言うか、作中では長秀の描き方が一番面白かったと思う。

純粋に織田家を思う勝家、信長の後継者となって自らが天下人にならんと欲する秀吉、損得勘定しか頭にない池田恒興、彼らはいづれもある意味では曇りがないのであるが、長秀だけは下手に知恵があるゆえに揺れ動くと言うか、自分よりも頭の良い人物(=秀吉)が出てくると、その人の理屈を免罪符にして結局利益のある方に転んでしまうと言う普遍的な人間の弱さを、長秀を通じて描いているようでこの点は面白かった。

主人公格である柴田勝家は、ある種馬鹿っぽい描かれ方なのであるが、通説では武将肌で政治向きではない人物とされているだけに、裏表のない純情な人物に描く余地があるわけで、このあたりは「新選組!」の近藤勇よろしく三谷の好みなのかも知れない(もっとも、勝家は結局敗れた側の人物で、かつ人物像や出自がわかる史料が極端に少ないので、勝家が政治が不得手だったと言うパーソナリティ自体が後づけなのであるが、まあ、そこを突っ込んだら描きようがなくなってしまうのだろう)。

後は、たいていのドラマでは秀吉は最初から三法師を擁立しようとしていたように描かれるが、本作では最初信雄を信孝の対抗馬として擁立しようとするも、あまりに暗愚なので不安を感じていた所に三法師の存在に思い当たると言う設定で、このあたりはリアリティのある描写だと思う。

もっとも、以前にこちらでも取り上げたテレビ東京で1995年に放送された「豊臣秀吉 天下を獲る」(「時代劇レヴュー⑫」参照)でもそう言う設定だったので、これ自体は三谷のオリジナルではないが。

ちなみに、上記テレ東「秀吉」でも、秀吉はお市に恋い焦がれつつも、お市は秀吉を夫と子の敵と憎んでいて、その当てつけみたいに勝家に嫁ぐと言う設定であったので、三谷はテレ東の「秀吉」に影響される所があったのかも知れない(たまたまそうなっただけで邪推かも知れないが)。

個人的には、会議が終わった後の諸々の描写はいささか間延びして、蛇足の感があると思うが、その後の賤ヶ岳の合戦までを描かないで本編が終わるために、やむを得ない措置なのかも知れないと言うか、その後で何が起こるかを匂わせるための効果なのであろう。

俳優陣で個人的にひときわ印象に残ったのが、大泉洋の秀吉で、清洲会議にとどまらず大泉主演の「太閤記」を見てみたいと思うくらいはまっていた。

秀吉の持つ剽軽な所、とぼけた所、品のない所、老獪な所、それぞれの面をうまく出していたと思い、彼の演技の巧さがうかがえる役であった。

後は、篠井英介演じる信長が、長興寺の肖像画に非常によく似ていてびっくりした(笑)。


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