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#映画

2024/02/08、『PERFECT DAYS』と「文学」への眼差しについて

朝一で歯医者に行き銀歯を入れた後、ちょうどタイミングが嚙み合ったので京都シネマに自転車で向かい、ヴィム・ヴェンダース『PERFECT DAYS』を観てきた。 周囲にきくところ前評判はとても良く、楽しみな気持ちで向かったのだけれど、この映画を観て、近頃の自分が見落としていたこと、もう一度心に強く刻んでおきたい大切なことを、教えられた気がした。 それは、「人が生きること」、あるいは「文学」と、それを眼差す「観点」との関係である。 生きるということを最も深いところで擁護するとき、

【ニッポンの世界史】#21 反戦と世界史の60年代:映画の映した世界とサブカルチャーとしての漫画

ベトナム戦争の衝撃  日本が高度経済成長を驀進していた1960年代。  しかしちょっと視線を国外に向けてみれば、依然として世界のあちこちでは冷戦構造が緊張をもたらしていました。  1962年にはキューバ危機が勃発し、世界が冷や汗をかかされたと思ったら、その後しばし和解ムードとなりますが、63年にはケネディ大統領が暗殺。これに代わったジョンソン大統領は65年から北ベトナムの空爆(北爆)を開始し、のべ50万人の地上軍を投入することとなるベトナム戦争の火蓋が切って落とされます。

【第6回】ニッポンの世界史:アメリカ映画とソ連映画から見る「アジア」観

 ところで、敗戦後の日本人は、アートやエンタメを通して、どのような世界観を育てていたのでしょうか?  「学問や政治の動向はさておき」としたいところですが、そうも言ってはいられません。  戦後の世界は、1946年のチャーチル英・元首相の「鉄のカーテン」演説、1947年のトルーマン米大統領による「封じ込め政策」、1948年のソ連によるベルリン封鎖を皮切りに、アメリカ陣営とソ連陣営に真っ二つに分かれて睨み合う「冷戦」の時代に突入。  戦後直後の混乱、復興にむけた動きのすすむ中、科

The Beatles 全曲解説 Vol. 214 ~Now And Then

シングル『Now And Then / Love Me Do』A面。 4人全員の共作で、リードボーカルはジョンが務めます。 21世紀初にして最後の新曲!激動の60年を生き抜いた、すべての愛と魂へ贈るレクイエム "Now And Then"最初の発表から約5ヶ月、多くのファンが首を長くして待ち焦がれていたことでしょう。 日本時間11月2日午後11時、ビートルズの21世紀最初にして最後の新曲 "Now And Then" が発表となりました。 初めて聴いた直後、私は個人のイン

地方映画史研究のための方法論(15)都市論と映画②——ヴァルター・ベンヤミン『パサージュ論』

見る場所を見る——鳥取の映画文化リサーチプロジェクト 見る場所を見る——鳥取の映画文化リサーチプロジェクト 「見る場所を見る——鳥取の映画文化リサーチプロジェクト」は2021年にスタートした。新聞記事や記録写真、当時を知る人へのインタビュー等をもとにして、鳥取市内にかつてあった映画館およびレンタル店を調査し、Claraさんによるイラストを通じた記憶の復元(イラストレーション・ドキュメンタリー)を試みている。2022年に第1弾の展覧会(鳥取市内編)、翌年に共同企画者の杵島和泉

映画「君たちはどう生きるか」を、ある業界に生きた女性たちへの賛歌として考察する。

遅ればせながら、件の話題作を昨日7/21(金)にIMAXで鑑賞。一晩明けた今、ペンをとりました。いろんな感情を喚起する作品とはいえ、私的には「アニメーション業界を支え続けた女性たちの闘いと、それを人生の一部として伴走しつづけた監督・宮崎駿による人間賛歌」と感じられる。その理由について、備忘録的に記そうと思います。 本作を「宮崎駿氏の半生のメタファーであり自伝的作品」と評する試み、その意義や根拠についてはSNS等で盛んに議論されており、情報も豊富です。この文章ではそれらを割愛

映画『都会のアリス』の魅力

配信時代とは言え、廃盤になって久しい名作が多々ある中でも、復刻の願望が特に多いとされている作品にヴィム・ヴェンダース監督が初期に手掛けた『都会のアリス』があります。こちらの廉価版に期待する映画ファンはかなりいると思われます。 私見でしかありませんが、現役で世界最高峰の映画監督を挙げよともし訊かれたら、私は迷う事なくヴィム・ヴェンダースの名前を挙げます。 ヴェンダースがある種開拓していったと言っていい‘ロードムービー’(旅物語、旅情モノ)というジャンルにおいて、商業映画監督と

最近、「実話に基づいた映画」の素材が多すぎないか?

ネットフリックスでよく鑑賞するジャンルの一つとして、「実話に基づいた映画」があります。「え!こんなことがあったの!」と驚き、最後の方に「現在、本人は孫と一緒にマイアミで平和に生活している」などと出てくると「う~ん、よかったねー」と安心するアレです。「現在、2400年代までの刑期で本人は服役中」というぞっとするのもあります。 こういうのをたくさん観ていると(観すぎていると?)、ニュースの見方も変わってきます。自分に即、直接関係ないと思われる事件も、映画製作のネタとして見えるこ

『イニシェリン島の精霊』アフタートークのまとめ

現在アカデミー賞にも様々な部門でノミネートされている『イニシェリン島の精霊』ですが、シネ・ギャラリーの上映もそろそろ終盤に差し掛かってきました。 皆さまもうご覧になりましたでしょうか? 個人的に見終わったあと、「……?」となっていましたが、ご覧になった方と話すと様々な見解で議論が巻き起こる、おもしろい映画だなあと思いました。(考察好きな方にはとても楽しめるのでは。) 映画の解釈は本当に人それぞれですが、ただのおじさん2人の喧嘩だと思いきや、その中にいろいろなメタファーが込め

アカデミー賞、作品賞ノミネート10作品!

今年のアカデミー賞ノミネート作品が発表されました。 日本ではまだ公開されてない作品も多いですが、もう評価されてるって分かってるから、これから観れるというのは楽しみでもあります。 そんなアカデミー賞ノミネートでやっぱり気になるのが作品賞。その作品賞ノミネート作品の10本を紹介してみたいと思います。 『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(3/3公開)こちらは今回の大本命の作品です! この監督・脚本は、あのトンデモ映画『スイス・アーミー・マン』のコンビです。だ

『tout simplement noir』 肌の色、いろいろ

最近見たフランス映画『tout simplement noir』が面白く、それ以来肌の色について考えている。本作はフランスにおける人種差別問題をコミカルかつシニカルかつギリギリのブラックユーモアでコテコテにデコレーションした作品で、笑いの中に鋭い視点や問題提起のある興味深い作品だった。 BLM運動のお陰で人種差別問題について少しは関心を持つようになっていたのだけれど、本作を観て今まで”黒人”と大きな括りでひとまとめにしてしまっていた自分の浅学さに気づくとともに、人種差別とは

内田樹著作総索引の試み

はじめに  本稿は、「私が、内田樹の著作を読むときのための総索引」として編集されている。したがって、当然ながら内田樹(あるいは内田樹に近接する人々)に偏重した内容になることが予想される。そして索引の特性上、私見が入り込む余地はほとんどなく、キーワードの取捨選択が筆者の仕事となる。  だが、内田樹の著作に精通する方からすれば、「説明が不十分である」や「内容に偏りがある」といったご指摘が予想される。その点に関しては、記事公開後にも、本文に随時加筆修正を加えてゆくので、どうかご容

なぜ日本のポスターはダサいと言われるのか。

映画好きのデザイナーつぼたです。日本のポスター、特に映画のポスターはダサいとSNSでも頻繁に話題になります。映画好きの私が見ても「うーん、これは魅力的な映画に感じられないなぁ」と感じるポスターは非常に多いです。しかし映画自体はとても面白い。なぜそうなるのかを分析・解説していきます。 1、組織形態まず初めに説明しておかなければいけないのが「日本のデザイナーのレベルは高い」ということです。「ダサいポスターが溢れてる日本はデザイナーも大したことないんじゃないの?」と感じる方もおら

リレーエッセイ「わたしの2選」 / 『長くつ下のピッピ』『ロシュフォールの恋人たち』(紹介する人:岩辺いずみ)

「懐かしい!」と声を上げた人、いますか? (いたら嬉しい!) 映像翻訳者の岩辺いずみです。映画やドラマに日本語の字幕をつける仕事をしています。英語圏とフランス語圏をメインに、ポーランドやアイスランド、トルコからシリアまで、いろんな国の作品を手がけてきました。と言っても何か国語もできるというわけではなく、英語とフランス語の作品以外は英語のスクリプトや字幕を頼りに訳しています。 今回、思い入れのある2作品を紹介するにあたり、どんな切り口で選ぶか、だいぶ悩みました。ほんやく