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【書評】『超ソロ社会』_北京大学の人口学研究室での読書会にて

どうも!
セイタです!!
北京大学社修士課程で社会学を学んでいます。


自分は人口学系のゼミに所属しているのですが、指導教官が熱心で2~3週間に1回は定例会が開かれます。そこでは、学生の現状の進捗及び先輩のナレッジ共有や読書会が行われます。今回は自分が担当した読書会の内容について簡単に共有させていただきます!!




読書会の概略

読書会は担任制で指導教官が順番に修士及び博士の学生を指名していきます。基本的には、30~40分で本の概略を紹介する人と15分程度で本の内容についてレビューする人に分かれます。本の紹介は博士の学生が行い、自分は本の内容をレビューしました。


先生から指定されたのは『超单身社会』(邦題:超ソロ社会)という本です。


これは博報堂のマーケッターである荒川和久氏によって書かれた本です。日本の人口問題においてよく話題に上がるトピックである未婚化でも少子化でもなく「ソロ化」の原因について述べられています。


作者が学部卒の博報堂のマーケッターであるため、学問的な本というよりは独身大国である日本においてどのように生きていくか、商機を見出すかといった内容が紙幅を占めていました。
興味のある人はぜひご覧ください~

超ソロ社会 「独身大国・日本」の衝撃



読書会の発表内容

それでは、自分が読書会でどのような内容を話したかについて書いていきます。本の詳細は前述のとおり、博士の学生が行っていたので自分は感想や面白いと思った点についてメインに話しています。



導入

導入のパートでは、本当にサラッとこの本について説明しました。また、日本独特の出版形式である「新書」という形式について簡単に説明しておきました。


一般的に、新書はそこまで学術的な縛りがきつくなく、参考文献さえ書いていないものも存在します。ピアレビューなどもありません。そのため、新規性を追求できる反面、内容についてはより吟味が必要であるという説明をしました。




長所:ソロ化という視点

上述の通り、新書という形式上ある程度自由度が増します。そのため、本書でも独特な視点がいろいろあって面白く読めました。


まず、おもしろいなと思ったのが、ソロ化という現象に目を付けた点です。というのも、自分もそうなのですが、人口学者や社会学者は往々にして未婚化という現象を研究する傾向にあります。そのコインの裏側である単身世帯の増加という現象を取り扱っているのが面白いなと思いました。

なお、2035年までに男性の有配偶者率は55.7%、女性は49.3%まで減少するとの見込みがされています。




長所:数字の扱い方

次に面白いなと思ったのが数字の扱い方です。

上記のスライドは国立社会保障・人口問題研究所で実施された「第15回出生動向基本調査」の中の結婚のメリットとデメリットという指標を基に作成されています。


以下、日本語版です。

第15回出生動向基本調査

このデータは人口学者や家族社会学者の間で非常によく使われる(というより、結婚や生育に関して分析に耐えうる調査がこれしかない)調査です。そのため、自分もこの表を何でも見たことがあります。



しかし、著者は一味違った分析を行っています。それは男女の差分を取って、その差を比較するといった手法です。自分は寡聞にしてこのような分析を行っている研究者を見たことがありませんでした。

ここで述べられているのは、女性が考える結婚のメリットが「経済的に豊かになる」ことである一方で、男性が考える独身でいることのメリットが「経済的に豊かである」ことである。男女ともに金銭的なメリットを結婚において重視しており、その利害が対立していることが非婚化を生み出していると述べています。



長所:マーケッターとしての視点

最後にマーケッターとしての鋭い視点を紹介させていただきます。著者は婚活について本書で以下のような考えを示しています。

婚活はマーケティングだ。10代若者向けの商品を巣鴨の高齢者に売ろうとしてもうれないのと同じである。

『ソロ社会』第3章より

そして、そもそも一部の男性は結婚する気がなく、結婚したい女性はこういった男性と付き合ってはいけないといった私見を述べています。



また、マーケッターらしく独身者の消費活動についても分析しています。

著者によると、独身男性のエンゲルス係数は非常に高く、特に外食費だと構成員が二人以上いる世帯の2,3倍にも上るとのことです。なので、独身世帯の増加は外食産業にとっては大きなビジネスチャンスになるといった内容を主張しています。


このような視点を持つ研究者はそこまで多くなく、在野の専門家ならではだなと思いました。半面、欠点もあります。




欠点:学術性

新書一般に言われることですが、学術的な方法論がしっかりとなされていないといった印象を受けました。


まず、本書の研究手法について簡単に話させていただきます。本書は定性調査と定量調査を組み合わせた混合調査と言えるものです。まず、定性調査(本書の場合はインタビューがメイン)を行った後に、定量調査(出生動向基本調査を用いた検証)が行われています。このような研究方式の場合、定性調査はあくまで副次的なものであり、論文や本のなかで提起されないことも多々あります。



ただ、本書においてはそれが負の影響を与えているように感じます。

主に以下のような問題点があるように感じました。


本書は、博報堂のソロ研究プロジェクトというプロジェクトの中でのインタビューが定性調査のメインになっているようなのですが、そのことが本書の中で書かれている箇所がほとんどありません


また、インタビュー対象者は関東の大都市が中心で、まずまちがいなくサンプリングバイアスが発生しています。まあ、サンプリングバイアスががある程度発生するのはいいとしても、本文中で明確に述べられていないのは問題です。日本語版だとあとがきのところで、ちらっとインタビュー対象について述べられているだけです。中国語版に至ってはなんにも書かれていませんでした


日本国内といえでも、都市と田舎、東京とその他でライフスタイルは大きく異なると考えると、このようなサンプリングバイアスは結果に大きな影響を与える可能性が高いです。サンプリングバイアスが除去できない場合は、最低でもそのバイアスがどのような影響を与えるかくらいは述べていてほしいなと思ったのが正直な感想です。ましてや、そのことを書かないのはどうかなと思いました。



でまとめると、以下のようなことが本書に関して言えるかと思います。

優れた点としては、「創造性」「マーケッターの視点」「数字の扱い方」が挙げられます。一方で欠点としては、「定性調査の箇所が言及されていない」、「一部の研究が既存の研究と矛盾している」「筆者には社会科学のアカデミックなバックグラウンドがない」が挙げられます。なので、この本を読んで、当該分野への理解を深めるとともに、自身の興味関心を育むといった使い方がいいのかなと思いました。


今回の読書会の参考図書は内容が平易かつ日本を対象にしたトピックだったので、発表後に質問の手が多く挙がったので、個人的にはうれしかったです。


それでは、今回の記事は以上とさせていただきます。


以下のマガジンでは引き続き、人口学について執筆していきます。


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