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水と風の音 《詩》

「水と風の音」

遠い昔 

僕等は静かな森の中で

ひっそりと約束を交わした

非現実的な永遠のお伽話


僕は水の音を聴き 

君は風の音を聴く

水面に波紋が広がる 
でも其処に水は無い

木の枝が擦れた様な音がした
でも風は吹いていない


僕等は文化的スラムな街に生まれ

幻想の中の森で出逢った

僕が瞳を閉じ 君が眠る時

水と風の音を聴く 続いている

何もかもが続いている

到着点を示すものは 

あの森で君と交わした言葉

僕等はさよなら 
最後にそう言った

そして 

其れは本当に最後のさよならだった


君の意識の視線と

息づかいを直ぐ近くに感じる

不完全な霞が断続的に森を覆う

其処には正確な物体の色や距離 

熱量や質量は欠落し

波の様に繰り返す記憶だけがある


世界が音も無く揺らぐ時

僕等の影は森を彷徨う

僕は僕自身の影の中に
存在し君の影を探し求める


君が読んでいた長い小説 

ヒロインの自殺を暗示させるシーン

其処には栞が挟まれていた



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