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忘れられた打ち上げ花火:第13話 「あなたの二番目にしてください #5」

想いがすれ違っていたね
声を掛ける勇気がなかったのよ

心から幸せになってほしいって
思える人に簡単に
巡り逢うことはないから


「応援してる」


握っていた手をゆっくり離すと
振り返らずに改札を抜け
新幹線に乗り込んだ


***


会場の外に出ると
ひんやりと涼しい風が
火照った頬をそっと和らげてくれた

新幹線の時間まであと2時間ほど
初ライブの余韻を語り合うと思って
最終列車を予約していた


あなたはさっとスマートフォンを取り出して
何かを急ぎ打ちこみ確認する

「公園に行こう」

突然そう言うと、答えも聞かずに
わたしの手を少し強引に引っ張った


目を丸くした
てっきりカフェでも入って
コーヒーを飲み温まりながら
お喋りすると思っていたのに

夜の公園なんてわざわざ行くのは
学生の時以来じゃないかしら

途中コンビニに寄ってもらって
温かいペットボトルのミルクティーを買う


夏の夜の匂いがかすかに残る広い公園
大きな砂場に丸い遊具とブランコが見えた

「こっち」

会場を出てからずっと握られたまま
奥まで手を引いていかれると

公園全体を見渡せるベンチに腰を下ろした

遠くに犬の散歩をする人影が見えるくらいで
あとはわたしたちしか居ない


今日金時計前で出会ってから
会話は止まらなかった

ゲームの話は当然ながら
一緒に歩き見た景色の一つ一つまで
話すことに終わりはなかった


でも今は
口が開きかけようとするのをぐっと我慢する

夜の公園の肌寒さと静けさを楽しみながら
ほどよく温かくなったミルクティーを
掌の中で転がして

あなたの言葉を待った


「おいで」


両手をわたしに向けて
大きく広げた

目元のメイクが落ちかけた顔を隠すように
今度こそは躊躇なく
あなたの胸に体ごと全てを埋めた


「ずっと好きだった」


肩にあごを乗せ
耳元であなたの気持ちを
初めて聞くことができた

なんて幸せなことかしら


「やっぱり好きだったから、心の赴くままに伝えようと思った」


その言葉には
冷静沈着に返さなきゃいけない
だってわたしは ”大人” だから


「ありがとう、わたしも好きだった」


過去形でしか
想いは伝えてはいけない

わたしは抱きしめられたまま
告白中の別の男性がいることを伝えた
まもなく付き合うだろうからと


「うん、ゆりさんの好きなようにして。俺は大丈夫だから」


ぎゅっと両腕に力が入る

体格差でよろけて
ベンチから落ちそうになった
わたしを支え上げると

胸の中に顔をうずめるように
抱き替えられた

見上げるとあなたの顔が
目の前にあった


あなたは自分がつけている
白いマスクをあごにずらすと

左手で包み込むように
わたしの背中を支えながら
右手で同じように
わたしのマスクもずらす


唇が夜風にさらされる


新幹線の時間が迫る


もしも触れてしまったら

わたしは ”本当に” 
現実世界に戻れなくなってしまう


「帰ろっ」


そう、あなたの背中を軽く叩いて
立たせた



それから数週間後
あなたはわたしの二番目になった


「ゆりさんにとってデメリットなんて何にもないだろう? 」


あなたが懸命に悩み抜いて辿り着いた
自由無碍な答えに

それは正しい恋愛じゃないわと諭せるほど
わたしも大人に成りきれていないの


現実で結ばれることは決してないけれど
わたしもあなたの ”永遠の二番目” となれることの
夢を見続けさせて欲しい


それだけならば
許されることだと願いたいから


ーーわたしも


忘れられた打ち上げ花火:続編「あなたの二番目にしてください」


~END



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