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あまりに悲しくておひとりさまラーメンデビューした記念

「セクマイである自分に酔ってるだけでしょ」

生まれて初めて1人でラーメン屋に入った。案内されたカウンターでこてこての豚骨ラーメンを知らないおじさんと隣り合わせになってすすった。5分もせずに完食。それで、少しだけ悲しみが薄れた気がした。やっぱり脂肪と糖はいついかなるときも人生の味方だと思う。

10年来の友人のうちに泊まりに行った。彼女は社会問題や人権意識にも興味関心を持ちながら、プライベートでは恋愛に期待したり恋愛に傷ついたり、たまに”病み期”に入ってメソメソしながらもちゃんと立ち上がって前を向く、そうやって人生を踏みしめて歩くような私の大好きなひとだった。

その日の夕方、私はちょっとお高めなステーキとビールを手土産にお邪魔して、彼女と簡単なおうちディナーを楽しんだ。実は彼女の家に行く前に立ち飲み屋で1杯引っ掛けていた私は、たしかにほろ酔い状態だったと思う。それで、私はなんの警戒心もなくセクシャルの話をした。

●恋愛指向:アロマンティック
 他人に恋愛感情を抱かないセクシュアリティのこと
●性的指向:アセクシャル
 他人に性的欲求を抱かないセクシュアリティのこと

私は恐らくアロマであること、自認に至ってはいないがアセクの可能性もあること。これまでの恋愛事故はアロマが原因なのではないかということ。もしアセクだとしたら、私は人生プランを見直さなければと思っていること。ツラツラと、なんの疑いもなく。

結論を言えば、それらを聞いた彼女の反応は私の求めているものはなかった。

「男女が惹かれあわなければ人間は滅ぶのだから種の保全として恋愛感情があるのは当然で、あなたはそれを無視しているだけではないの?」「じゃあ今までのあなたの恋愛はどう説明するの?」(対アロマ)

「性行に興味がないの?じゃあホームレスとヤレる?顔が全く好みでない人に迫られても受け入れるの?」(対アセク)

私はアロマ(&アセク)を知ったとき、とても解放された気持ちになった。アーよかった。私はなにか人間として欠如しているわけではないのだ、そういう存在だったのだ。「アロマ」と名前がついただけで、やすらかで優しい安堵感に包まれた。

そして「私、アロマだったみたい!」と悩みから解放された嬉しさと興奮と一緒にそう話しても、親、姉弟、数少ない友人たちは受け入れる又は聞き流してくれた。つまり存在を否定する人はいなかった。

だから、まさか「恋愛感情がないはずがない」と言われるなんて思わなかったし、準備もしていなかった。これは私の落ち度だと思う。

ひとつひとつ反論をしようと思えばできる。それはあまりに暴論だと。

けれど、奇跡的に家族友人に恵まれてぬくぬくとしていた私には、まず存在を否定されたことがショッキングだった。それは、彼女のことを信頼していた故だとも思う。一方で、このショックは「なんで受けれいてくれないの!」という独りよがりで子供じみた感情だとも思う。彼女の言っていることの全てがおかしいわけではないと思うから。

これまで「カミングアウト」の意味が分からなかった。私が私であることを表明するのに、なぜ勇気が必要なの?そう思っていた。けれど初めて、存在の否定を受けて「カミングアウト」となぜ世が言うのは少しだけ分かった。否定されれば悲しい。説明することすら苦しい。ただ存在しているだけなのに、なぜこんな思いをしなければならないの?

彼女に上手く伝えられなかった自分自身が悔しくて、せっかく彼女の割いてくれた時間を良いものにできなかったことが申し訳なくて、なんだか全てがものすごく悲しくて。

スタバを買っても欲しかった本を買ってもピアスやネックレスやデパコスを見ても、全く気分が晴れなくて、なんとなくの思い付きで全く知らない土地の全く知らないラーメン屋に入った。

全身黒コーデでカラーレンズをかけた刈上げショートカットの総身長170超えの女がカウンターで無心に脂どろどろのラーメンをすすっている姿は、我ながらなかなか絵になっていたのではと思う。席に案内し、さらに替え玉の注文まで受けた若い男性の店員さんはやや戸惑っていた様子だったけれど。

おかげで、ラーメン屋を出るときには少しだけ気分が良くなった。戸惑うお兄さんの反応が少し楽しかったし、なにより脂肪と糖は幸せを運んでくれる。このふたつは、いついかなるときも人生の最大の味方だと今なら断言できる。

来週に結婚式の参列を予定しているけれど、暴力的なカロリーには目を瞑ることにした。

映画、カラオケ、ホテルランチ、旅行…etc. これまでの「おひとりさま」にラーメン屋が加わることになった今日を記念したい。この悲しさとショックと反省点を忘れないために、来年の今日もひとりでラーメンをすするよ。

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