見出し画像

「男性脳」「女性脳」に差はあるか


最近読んだ本の中に「男性脳」「女性脳」という言葉が頻繁に出てくるものがあって、気になって調べてみた。

それは「女のトリセツ」「男のトリセツ」など数々の著書がある黒川伊保子さんの「トリセツ」シリーズで、ウィットに富んだ、アドバイスも多々あるけれど、どうもその「男性脳」「女性脳」が引っかかる。

例えば以下のようなもの。

男性脳の演算処理は、女性脳を傷つけ、不機嫌にさせ、悲しませる。しかし、その言動は男が男たるゆえん。正義感や冒険心などの男気や、客観性の高さ、フェアな精神、科学技術の高い能力を発揮するために、必要不可欠な能力なのである。

脳梁が太い女性脳は、右脳(感じる領域)と左脳(顕在意識とことばの領域)を密に連携させて、目の前の大切に思うもののわずかな変化も見逃さず、その思いを察して臨機応変に動くことができる。一方、男性脳の最大の特徴は、右脳と左脳の連携が悪いことにある。右脳と左脳をつなぐ神経線維の束、脳梁が、女性脳に比べて細いのがその原因。

「男性脳」「女性脳」ってそんなに特別に言及することだろうか。
昔は、男は火星から、女は金星から云々という本がアメリカでベストセラーになって、日本でも翻訳されているから、そんな呼び方をする人が現れてきた。

けれども、「男性脳」「女性脳」の違いがあるとすれば、先天的な生物生理学的な見地よりむしろ後天的な社会的刷り込みによるものだと考える。

さらに脳梁は、左右の大脳半球を結ぶ神経線維束の一部で、情報伝達に関与している部分。男女で脳が違うという話は、数十年も前の「男性の脳と女性の脳では脳梁の太さが違う」という報告に由来しているのだろう。

確かにそうした報告はあったものの、研究者の間でも結論が一致していなかった。さらにその後の研究で、男女の脳のMRI画像を多数調べた結果、脳梁に、男女差はないということが明らかになっている。

「脳科学の研究で……」と言われるとつい納得してしまって、根拠のない話しが信じられて広がっていく傾向にあるけれど、この脳梁の逸話がいい例だ。

プロフィールでは著者は「脳科学コメンテイター」であるらしいけれど、脳科学において事実が確認されていないことを、このように振りかぶって語るのはどうかと思う。

「男女差がない」という研究結果は、「男女差がある」という結果に比べて発表されにくく、注目もされにくいことが事実であれば、「男性脳」「女性脳」についても、煽るような発言は控えるべきだろう。

言葉の響きは人によって違うものだから、自分への戒めも含めて、使う言葉にはもっと慎重に付き合うことにしよう。

#国際女性デーによせて

【参考文献】
*Joel D, et al. “Sex beyond the genitalia: The human brain mosaic” 2015; Proceedings of the National Academy of Sciences 112(50):201509654.
*Haas R, et al. “Female hunters of the early Americas” 2020; Science Advances 6(45).
*Mehl MR, Vazire S, Ramírez-Esparza N, Slatcher R, Pennebaker JW “Are Women Really More Talkative Than Men?” 2007;Science 317(5834):82.






サポートは株式会社スクーンジャパンおよび米国スクーン社が乳がんのNPO団体(LBBC)に寄付する資金に利用させていただきます。