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こんなに面白い生物進化学

この本をもし学生の時に読んでいたら人生が変わっていたんじゃないか。少なくとも大学入試に物理と化学を選択する代わりに、「生物」を選んでいただろう。本の題名は「驚きの『リアル進化論』」。

そこに登場する「ネオダーウィニズム」とは、「ある生物の遺伝子に突然変異が起こり、環境により適応的な変異個体が自然選択によって集団内に広がり、その繰り返しで生物は環境に適応するように進化する」という理論。

この本では生物学者の池田清彦氏が、進化論の歴史をたどりながら、ネオダーウィニズムの矛盾を痛快に浮き出させて、最新の知見にもとづいた「もっと本質的な進化論=リアル進化論」をわかりやすく解説している。

歴史的な生物遺伝子学だけではなく、ダーウィンやメンデルといった、中学の教科書に出てくる有名な学者たちのパーソナルな側面に光をあてて、例えばダーゥインは親ガチャでラッキーな大金持ちの子息(母方はあの資産家ウェッジウッド家)で、学者としての成功へのきっかけとなったアフリカ渡航の旅費用が現在の金額にすれば1億を超えていた(そしてその金額は親に出してもらった)などのトリヴィアが盛り込まれている。

他にも、資産家のダーウィンがなかなかの投資家でもあったこと。倫理学会で自然選択説を発表することになっていた日、幼い息子を亡くしていたこと。裕福な暮らし中で生涯病気がちだったダーゥインが、さまざまな経験をして、英国のロンドンの博物界の寵児となる過程などが読める。

ダーゥインの妻がモーツァルトについてピアノを習っていて、夕食後にいつも、妻の奏でるピアノを楽しんだというエピソードもあって、音楽好きの家庭での様子がうかがえるのもよい。

実証と反証を繰り返してきた進化論の歴史と、遺伝子工学が炙り出した「ネオダーウィニズム」の矛盾、「構造主義進化論」という、筆者が信じる進化への見方・考え方が興味深い。

ちなみに「ネオダーウィニズム」とは、「ある生物の遺伝子に突然変異が起こり、環境により適応的な変異個体が自然選択によって集団内に広がり、その繰り返しで生物は環境に適応するように進化する」という理論。19世紀の半ばにダーウィンが提唱した「進化論」に修正を加え、メンデルの「遺伝学説」やそのほかのアイデアを合わせたこの理論を、多くの人はいまだに信奉し続けているけれど、この理論にはまだ進化のすべては説明できないという位置にある。

他にも次のような項目が考察されていて、わたしのように遺伝生物学にトンチンカンな者でも楽しめる。


●ダーウィンの「進化論」に影響を与えたマルサスの「人口論」

●「用不用説」と「自然選択説」の違いとは?

●分子レベルの変異に自然選択はかからない

●「遺伝子を取り巻く環境の変化」で形質は大きく変わる

●生物の劇的な多様化は地球環境激変の時期に起きている

●大進化はアクシデントで起こる

生物の進化はどこか他の世界の出来事ではなくて、私たちが個人のレベルで、しかも目に見えないところで進化し続けているということを考えさせてくれる。

生まれ持った性質や遺伝子のスイッチも、環境や訓練、意志の力によって変えられる。そんなことを考えさせてくれる本だ。





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以下の3冊を先月出版。
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