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寿命を伸ばす薬


寿命を伸ばす薬なんて、そんなウマい話しはないと思うだろう。けれどもロングジビティ(長寿)の一人者であり、ハーバード大学教授のデビッド・シンクレア博士によると、ラパマイシンやメトホルミンは、細胞内のDNAのメカニズムに直接関与する薬で、長寿科学に携わる研究者の間で話題になっているものだ。

特にメトホルミンは「ビグアナイド剤」と呼ばれる種類の薬で、糖尿病の治療薬として投薬される。これはジェネリック医薬品であり、1961年から発売されている「メトグルコ」のジェネリックだ。

メトホルミンは長い歴史を持つ古い薬であるが、現在でも多くの糖尿病患者に使われている。有名な研究では、このメトホルミンを服用している糖尿病患者は、メトホルミンを服用していない健常者に比べても、癌や心臓病にかかる確率が少なく、寿命も長いことが報告されている

糖尿病患者は通常、癌や心臓病にかかる率が高く、健常者に比べて平均寿命も短い。それがメトホルミンを服用することによって、さかさまの結果がでたということだ。

メトホルミンはインスリンに頼ることなく、様々な機序によって血糖を下げる薬。中性のヨーロッパでは、フレンチライラックが糖尿病の症状(口渇や多尿など)に効くという事が経験的に知られていた。

そこでフレンチライラックの成分を調べたところ、「グアニジン」という物質が血糖を下げるはたらきがあることが発見され、グアジニンに似た物質である「ビグアナイド剤」が糖尿病の治療薬として使われるようになった。その一つがメトホルミンだ。

メトホルミンは古い薬であり注意すべき副作用はあるものの、血糖を下げる作用に優れていること、その他の付加的な効果がいくつも報告されていることから、現在でも広く用いられている糖尿病治療薬である。

糖尿病の薬の一つとしてにはいくつか種類がある。メトホルミンは、血糖を末梢の筋肉や脂肪組織に取り込まれやすくしたり、肝臓にある貯蔵されている糖が放出されるのを抑制したり、腸管の糖の吸収を抑えたりすることで血糖を下げる。

またそれ以外に意外な作用として、抗がん作用やアンチエイジング作用も報告されている。そのメカニズムは、メトホルミンの作用は、mTORを制御して、AMPK(Adenosine5′ Monophosphate activated Protein Kinase)という酵素を活性化させることだと考えられている。AMPKを活性化させることは、断食効果とよく似た効果を身体にもたらすことになる。


これらについては今までの記事にも書いたけど、今後ももっと最近の医療文献を元に考察していこうと思う。

副作用には一定の注意が必要で、特に注意すべきは「乳酸アシドーシス」という副作用だ。同じビグアナイド剤の「フェンホルミン」による乳酸アシドーシスによって死亡者が出たこともあり、一時期ビグアナイドはあまり使用されなかった時代がある。

けれどもメトホルミンは適切に使用すれば十分安全に使える薬だ。
以上からメトホルミンの特徴として次のようなことが挙げらる。

【メトホルミン錠の特徴】
・ビグアナイド剤に属する薬である
・血液中から末梢組織(筋肉や脂肪など)へ糖を移動させる
・肝臓にある貯蔵されている糖の分解を抑える
・小腸からの糖の吸収を抑制する
・意外な作用として抗がん作用、アンチエイジング作用がある
・古い薬であり、注意すべき副作用は多い(ただし、しっかりと適応を守って使用すれば十分安全)
・ジェネリック医薬品であり、安い


具体的な作用は以下のようなもの

インスリン抵抗性改善

メトホルミンは、末梢臓器において、血液中の糖(血糖)が筋肉や脂肪組織に取り込まれやすくするように働く。組織に取り込まれた糖分はエネルギー源となり、身体活動をするためのエネルギーとして使わる。

血糖が臓器に取り込まれやすくなると、血糖は下がりやすくなる。
血糖を下げるホルモンであるインスリンも、「血液中の糖を臓器に吸収させる」はたらきをもっているため、メトホルミンはインスリンの効きを良くするという見方も出来る。

これは「インスリン抵抗性の改善」と呼ばれている。
メトホルミンのようなビグアナイド剤は、グルコーストランスポーターという糖を血液中から組織へ輸送するシステムに直接作用するため、インスリンがない状況でも筋肉・脂肪に糖を取り込ませることが出来る。これをインスリン非依存性と呼んでいる。

インスリンに頼ることなく血糖を下げれるため、インスリンの分泌能が弱くなってしまった方にも向いている薬であると言える。

肝臓からの糖放出抑制

肝臓には糖分が貯蔵されている。
糖は体内では「グルコース」として存在しているが、これは肝臓において「グリコーゲン」として貯蔵される。グリコーゲンはいざという時の予備のエネルギーとなる。

メトホルミンは肝臓のグリコーゲンがグルコースに分解されて血液中に放出されるのをブロックする働きをもつ。そしてこの作用も、血糖の上昇を抑えてくれるため糖尿病の改善に役立つ。

消化管からの糖吸収抑制

食物中の糖分は、主に腸管から体内に吸収されるが、メトホルミンは小腸にも作用し、小腸が糖を吸収するのを抑えるはたらきがあることが動物実験において報告されている。

似たような作用機序を持つ薬に「αグルコシダーゼ阻害薬(αGI)」があるが、αGIとは異なる機序で小腸からの糖吸収を抑制するのがメトホルミンの特徴でもある。

食欲抑制作用

メトホルミンは食欲を抑える作用があることが知られている。おそらくは、
「グレリン」という食欲を上げる物質に作用するからではないかと考えられている。グレリンは胃から分泌されるホルモンで、視床下部の食欲中枢を刺激して食欲を亢進させるはたらきがあるもの。メトホルミンは食後のグレリン上昇を起こしにくくする作用があることが報告されており、これによって「食べ過ぎ」を防げるのではないかと考えらている。

また、近年糖尿病を治療する薬として「DPP-4阻害薬」が発売された。DPP-4阻害薬は安全にインスリンの分泌を促すため、血糖をしっかり下げる割に低血糖が起こりにくい。DPP-4阻害薬はGLP-1という物質のはたらきを強めるのが主な作用機序であるが、このGLP-1も食欲を抑えるはたらきがある。

メトホルミンは、DPP-4阻害薬と同じようにGLP-1のはたらきを強めるという報告もあり、これも食欲抑制に関係している可能性がある。

抗がん作用

メトホルミンの意外な作用として、抗がん作用が報告されている
なぜ癌を抑えるのかについては様々な推測がされているが、やはりAMPKの活性化によって何らかの作用をもたらしているのだと考えられている。

ただし現時点では抗がん剤として使えるほどの根拠があるわけではなく、この作用はあくまでも「こういった作用も報告されているよ」という程度にとどまる。

抗老化作用

メトホルミンは動物実験において「寿命を延ばす」ことが知られている。これもAMPKの活性化によるものと考えらる。
現在、海外で人への使用に向けて『TAME』などの臨床試験が始まっていまる。

これまでは動物実験でその寿命を延ばすことがしられているけれど、もし人においても同様の効果が認められた場合、メトホルミンは世界初の「寿命を延ばす薬」になるかもしれない。


動脈硬化を防ぐ

メトホルミンは糖尿病の治療薬であるものの、最近の研究では動脈硬化を防ぐ効果があることも示されている。
血管壁を傷付ける原因となるMDA-LDL(マロンジアルデヒドLDL)を有意に低下させることが報告されている。


メトホルミンの副作用


メトホルミンはジェネリックであるため、副作用発生率の明確な調査は行われていない。先発品のメトグルコにおいては副作用の発生率は、10~60%前後と報告されている。例えば次のような副作用があるかもしれないが、これらは服用を止めれば、なくなることが報告されている。

  • 下痢

  • 腹痛

  • 食欲不振

  • 悪心、嘔吐

メトホルミンは特に腎臓や肝臓に障害がある人(ありそうな人も含めて)は服用すべきではない。きちんと医者に相談してから服用すること。

とはいっても、医者もあまり詳しい知識をもっていないかもしれない。筆者がアメリカでインタビューした医師は、乳酸アシドーシスを理由に処方を拒んだ。

しかし日本における乳酸アシドーシスの頻度は10万人に1人程度と報告されており、極めて稀だ。ただし乳酸アシドーシスは死亡率が50%とも言われているため、絶対に起こさないよう注意して使用する必要がることを明記しておく。

またそれ以外にも

  • 低血糖

  • 肝機能障害

  • 横紋筋融解症

などが生じる可能性が稀ながらあるので、必ず医師に相談すること。

メトホルミンは、

メトホルミン錠 250mg
メトホルミン錠 500mg

の2種類ががある。アメリカでは1,000mgのものも売られている。
メトホルミンの使い方は、通常、成人には1日500mgより開始し、1日2~3回に分割して食前又は食後に経口投与する。維持量は効果を観察しながら決めるが、通常1日750mg~1,500mgとする。なお患者の状態により適宜増減するが、1日最高投与量は2,250mgまでとする。

「量を増やしたら増やしただけ血糖が下がる」のが事実だが、副作用の問題もあるため、安易に増やしてはいけない。自分にとっての最適な量を主治医とともに慎重に判断すること。子供の場合はもっと注意が大切で必ず医師に相談すること。


参考:メトフォルミンMetformin - PMC (nih.gov)





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