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BL古典セレクション

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契り(破約)/王谷晶著『BL古典セレクション③怪談 奇談』より

契り(破約)/王谷晶著『BL古典セレクション③怪談 奇談』より

「おいら、死ぬのは怖くねえんだ……嘘じゃねえ。ほんとだぜ」
 掠れた声に頷いてやると、白くひび割れた唇がにやりと笑った。
「切った張ったの今生よ……畳の上で死ねるなんざありがてえくれえだ。でもよ兄貴。ひとつだけ、ひとつだけ心残りがあるんだよ」
 佐吉の逞しかった腕は、今や病に蝕まれ枯れ枝のように痩せ細っていた。長治はその手を握り締める。江戸に居を構える極道、長治一家の一の子分、匕首の佐吉の命は今ま

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雪と巳之吉(雪おんな)/王谷晶著『BL古典セレクション③怪談 奇談』より

雪と巳之吉(雪おんな)/王谷晶著『BL古典セレクション③怪談 奇談』より

 その朝も、巳之吉は茂作と共に山に入った。
 齢十八の巳之吉は武蔵国に住む木樵で、晦日と正月以外は毎日休まずひたすら木を伐り運ぶ暮らしをしている。奉公先の主人の茂作は厳しく無口な男だが木樵としては申し分のない腕前で、巳之吉も叔父貴と呼んで慕っていた。しかしこの数年で茂作はめっきり老け込んだ。一方巳之吉はどんどん背が伸び、一昨年の夏にとうとう茂作を追い越した。面差しにはまだ僅かにいとけなさが残ってい

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聖夜にBL古典と合わせて読みたいコミック3選 その3

聖夜にBL古典と合わせて読みたいコミック3選 その3

ついに最後の夜が来てしまいました。
12月25日からアニメイトさんで先行発売の新刊「BL古典セレクション②古事記」と一緒に読んでもらいたいBL漫画を紹介してきましたが、今回が最後です。
前回、前々回と、装画のはらだ先生の『にいちゃん』、山岸凉子さんの『日出処の天子』……このあとに何を紹介すればいいのか途方に暮れております。

ところで「BL古事記」そろそろアニメイトで入手された方もおられると思いま

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聖夜にBL古典と合わせて読みたいコミック3選 その2

聖夜にBL古典と合わせて読みたいコミック3選 その2

今晩は。海猫沢です。
12月25日からアニメイトさんで先行発売の新刊「BL古典セレクション②古事記」と一緒に読んでもらいたいBL漫画を紹介する2夜目。

なぜ俺はクリスマスひとりでこんなことをしているんだろう……そんな疑問が湧いてきますが、だいたいいつもクリスマスらしさ皆無なので大丈夫でした。通常運転です。
昨夜は装画のはらだ先生の漫画を紹介しました。
みんな買ったかな? 買ってない人にはサンタが

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聖夜にBL古典と合わせて読みたいコミック3選 その1

聖夜にBL古典と合わせて読みたいコミック3選 その1

今晩は! 明石家サンタならぬ海猫沢サンタです。
漢字三文字なのでなんとなく似てる気がしたんですがぜんぜん似てなかったです。
ちなみに明石家サンタっていうのは明石家さんまがクリスマスに孤独な男たちと電話でつながるBL番組……じゃなくてTV番組なんですが「さんま」と「サンタ」で韻を踏んでるのでヒプマイ案件ですね。
すいません、今、脳を経由せずにこれ書いてます。

さて今夜は、12月25日からアニメイト

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海猫沢めろん訳『古事記』(BL古典セレクション②より)

海猫沢めろん訳『古事記』(BL古典セレクション②より)



一 伊邪那岐命と伊邪那美命の章国を作る

 高天原に暮らす神々は、日々世界を作る作業に勤しんでおりましたが、ある日、天の声が、まだ仕事を与えられていない伊邪那岐命(イザナギノミコト)と伊邪那美命(イザナミノミコト)のふたりに、とある命令を下しました。
 ーー伊邪那岐命、伊邪那美命よ、まずはこのなにもない世界に、そなたたちの力で最初の国を作ってはみぬか。
「最初の国を?」
 ちょうど天にも退屈し

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雪舟えま訳『竹取物語』(BL古典セレクション①竹取物語 伊勢物語 より)

雪舟えま訳『竹取物語』(BL古典セレクション①竹取物語 伊勢物語 より)



八、帝の恋 さてそれからーー。
 この世のものとも思われぬ美貌のかぐや彦と、五人の貴公子たちとの求婚騒動のてんまつが、ついに帝の耳に入るところとなった。
 帝は内侍の中臣薔薇房(なかとみのばらふさ)を呼びつけて、こういった。
「その美しさでおおくの人の身を滅ぼし、だれとも結婚せずにいるとかいうかぐや彦……いったいどれほどの美少年だというのだ。内侍よ、おまえの目で確かめてきてはくれぬか」
 薔薇

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雪舟えま訳『伊勢物語』(BL古典セレクション①竹取物語 伊勢物語 より)

雪舟えま訳『伊勢物語』(BL古典セレクション①竹取物語 伊勢物語 より)



一 やあ。私、在原業平(ありわらのなりひら)。
 私が元服したころの話から始めよう。

 奈良の都は春日の里にうちの領地があったので、鷹狩りにいった。
 その里で、ふと、ある家の生垣からチラ見したら、縁側に美形の兄弟がたたずんでいるのが見えてしまい、私は垣根に顔がくっついたように離れられなくなった。こんなひなびた場所に、こんななまめかしい男たちが?! 心をかき乱された私は、たまらず狩衣のすそを

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