シェア
さつき@読む温泉
2020年12月30日 00:24
津波のあとは、静寂だけが残った。何もない。街も、道も、笑いさざめく声も。がれきとなった地を、わずかに生き残った人達が歩く。着の身着のまま、あるいは小さな荷物を持ち。影のように。うつろな顔で、黙って。ふと、風に乗ってなにかが流れてきた。浜辺にピアノが。水に洗われ、砂に半ば傾いている。それを誰かが弾いている。なんの曲なのだろう。その人が泣いているかは見えないけれど。指は、楽器がこ
2020年12月28日 06:08
社内の気になる先輩が、車の免許を取った。新車か中古車のどちらを買うか、同僚と話している。「傷つけないように気をつけるから新車」「ぶつけても心配ないから中古」「迷うなー」先輩は笑いながら、私のほうに来た。「助手席に人がいると、運転が上達するんだって。こんど乗ってくれない?」
2020年12月22日 20:33
雪が降る。まわりの風景が白く変わる。ふと、自分はどこにいるのだろうかと思う。ここで窓の外を見ているのは、本当に自分なのか。ここは過去の世界ではないのか。子供時代。初めての雪にはしゃいだ自分。「ねえ、あれは何?」「雪だよ」ドアを開けながら答える父。「ゆき?」「空から降ってくるんだ」「わあ……」雪やこんこ、と歌いながら庭を回る自分。それを見守る父の姿。母は台所で食事の支度をしており