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「稚拙で猥雑な本能寺の変」11

○シーン11 美濃の里・山奥の沢

山の中の音。沢が流れている。
走って来るたね。沢に来てへたり込む。
そこに追ってきたしず。

しず  「たね!」
たね  「姉ちゃん・・・兄ちゃん本当にたねを嫌いになっちゃったのかな」
しず  「そんなことないよ」
たね  「でも顔も見たくないって」
しず  「私たちは家族だ、そうだろ?」
たね  「そうだけど、じゃあなんで兄ちゃんあんなこと」
しず  「うーん、また戦が起こるからだって」
たね  「なんで戦が起こるとたねのこと嫌いになるんだ?」
しず  「何でだろうな・・・」
たね  「何でだ?」
しず  「うーん」
織部声 「たねちゃーん!しずちゃーん!」
たね  「織部だ」

織部、ヒイコラ言いながら来る。

織部  「たねちゃん!しずちゃん!良かった」

へたり込むように沢の水を飲む織部。

織部  「はー生き返った」
たね  「織部」
織部  「ん?」
たね  「織部は結婚してるのか?」
織部  「結婚?・・・してましたよ」
たね  「してたってなんだ?」
織部  「してたことがあるの。いいんです僕のことは」
たね  「変なの」
織部  「たねちゃん、平太さんを許してあげてくださいね」
たね  「許す?何でたねが許すんだ」
織部  「嫌いって言われて悲しかったでしょ?」
たね  「悲しかった」
織部  「でもね、平太さんは君たちのこと嫌いなわけじゃないんですよ」
たね  「そうなのか?」
しず  「織部、兄ちゃんはまた戦が起こるからって」
織部  「うん。君たちのことが大好きなんだろうな」
しず  「でも」
織部  「もしまた戦に行かなくちゃいけなくなったとき、平太さんは君たちを犠牲にしたくないって思ったんだよ」
しず  「犠牲にしたくない?」
織部  「大好きな人には幸せになって欲しいって思うでしょ?」
しず  「うん」
たね  「でも嫌いだって言われた」
織部  「そうだね。でも大好きだから嫌いだって言うときもあるんです」
たね  「わかんない」
織部  「たねちゃんも大人になったら分かりますよ」
たね  「うーん」
織部  「ほら、元気出してください。しずちゃんも」
しず  「うん。たね!」
たね  「うん」

織部、しずの顔をじっと見てしまう。

しず  「ん?どうした?」
織部  「いえ。しずちゃんを見てると明日香を思い出しちゃうんです」
しず  「そんなに似てるのか?」
織部  「ええ・・・ああ、会いたいなあ」
しず  「・・・」
織部  「帰りたい」
たね  「帰ろう」
織部  「ああ、そうじゃなくて、僕の本当の家に帰りたいんです」
たね  「本当の家?どこにあるんだ?」
織部  「今から400年以上先の未来です」
たね  「織部、何言ってんだ?おかしいぞ」
織部  「そうだね、おかしいね。とにかくすごく遠いとこ」
しず  「いつ帰るんだ?」
織部  「わかりません。帰れるかどうかさえ・・・」
たね  「織部は家に帰れるよ。だって自分の家だろ?」
しず  「そうだよ。帰れるに決まってるだろ」
織部  「そうだね・・・しずちゃん、たねちゃん、ありがとね」

八方斎、来る。

八方斎 「(慇懃に)どうも、こんにちは」
織部  「こ、こんにちは」
八方斎 「しずという娘を探しているんですが」
しず  「?」
織部  「しずちゃんにどんな御用でしょうか?」
たね  「姉ちゃん・・・」
八方斎 「どちらがしずだ?」

しずとたね、怯えている。

織部  「し、し、しずは私です」
八方斎 「オッサンふざけるなよ」
織部  「本当なんです。僕がしずなんです。静山静子です」
八方斎 「邪魔するといいことはないぞ」
織部  「だって違うんですもん」
八方斎 「あの娘の名は?」
織部  「たねちゃんです」
八方斎 「こっちのは?」
織部  「こっちは・・・明日香ちゃんです。ね、明日香ちゃん」
しず  「・・・」
八方斎 「明日香?変な名だな」
織部  「だから僕が静山静子なんですって」
八方斎 「オッサンは黙ってろ」
織部  「でもですね」
八方斎 「まあいい。二人とも連れて行く」
織部  「ちょっと、この子たちは関係ないんです。僕も女の子じゃないので人違いじゃないですか?」
八方斎 「オッサン」
織部  「はい」
八方斎 「隠し立てするか」

八方斎、抜刀する。

織部  「ちょちょちょ、待ってください。まずはお話をしましょ、ね?」
八方斎 「そこをどけ」
織部  「わっ!あのあのあのあの、僕武器とか持ってないんです。反則ですよね、反則」

八方斎が織部に斬りかかる。
鞄で何とか防戦する織部。全然勝てそうにない。

織部  「僕、丸腰ですよ。なんでこんなこと・・・やめて、やめて」

たねが八方斎に立ち向かう。

しず  「たね」
織部  「たねちゃん!」

やられて倒れるたね。
それを助けにいくしず。

織部  「たねちゃん!もう怒りましたよ!絶対に許しませんから」

『刀』対『鞄や定規など』での殺陣。
八方斎の刀が織部の鞄を真っ二つにする。
織部敗北。しずとたね捕らえられる。

八方斎 「行くぞ」

しずとたね、連れて行かれる。

織部  「待ちなさいよ!」
しず  「織部!」
たね  「織部助けて!」
織部  「待って!待ってって言ってるでしょ!」

連れ去られる。

織部  「しずちゃん、たねちゃん・・・何でこんなことに」

時間経過。やってくる平太、光秀、秀満。

秀満  「おお、いましたぞ」
平太  「織部さん!たねとしずは?」
秀満  「二人はどうした?」
織部  「それが・・・怖い人に連れて行かれてしまって」
平太  「連れて行かれた?」
織部  「ええ。そいつ、しずちゃんを探してました」
平太  「しずを?」
織部  「でも結局二人とも連れて行っちゃいました」
秀満  「そんな」
織部  「いたたた」
秀満  「どんなヤツだった?」
織部  「刀でいきなり斬りつけるような酷い人ですよ。ホラここ」
光秀  「追うぞ!」
秀満  「はっ(追おうとする)」
織部  「無理です。ずいぶん前に馬に乗って行っちゃいました」
秀満  「くそっ」
織部  「しかし何なんですか。武士道は武器を持たない人には斬りかかったりしないんじゃないんですか?見てくださいよこの鞄・・・」
秀満  「こんなものを真っ二つにするとは、余程の腕と見えますな」
平太  「俺があんなこと言わなければ・・・」
織部  「平太さん、そんなことより二人を助けることを考えましょう」
光秀  「しかし何故しずを・・・」
織部  「犯人はしずちゃんが光秀さんの娘だって知ってる人じゃないですか」
秀満  「そんなもの数えるほどしかおらぬ」
織部  「でも他にしずちゃんが誘拐される理由はないじゃないですか。平太さんの妹だからって誘拐します?」
秀満  「それはそうだが・・・」
光秀  「一体誰が・・・」
平太  「しず・・・たね・・・」

暗転。

<12>に続く

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