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「稚拙で猥雑な本能寺の変」10

●第5幕
○シーン10 美濃の里・平太の家

織部に字を教わっているしず、たね。
大きく50音を書いたものが作られそれを参考にして練習している。
それを見ている光秀、秀満、平太。

しず  「出来た」
織部  「お、見せてください」

しず、上手に「しず」と書かれた紙を見せる。

織部  「しずちゃん上手に書けてるじゃないですか」
たね  「出来た」
織部  「たねちゃんも出来ましたか。見せてごらん」

たね、紙に汚い字で「はげ」と書いてある。

織部  「たねちゃん、これは?」
たね  「たねの『た』」
織部  「『は』ですね」
たね  「こっちは『ね』」
織部  「『げ』ですね。わざとやってませんか?」
たね  「何がだ?」
織部  「たねちゃん、『た』はこう書くんです」
たね  「織部、字って難しいな」
織部  「難しいね。でも覚えたら絶対に役に立つから。頑張ろうね」
たね  「わかった(また書く)」
平太  「織部さん、ありがとな」
織部  「二人とも一生懸命勉強してくれるんで僕も嬉しいです。あ、しずちゃん」
しず  「はい」
織部  「光秀さんのお茶を代えてあげたら?」
しず  「わかった」

しず、光秀、秀満に出された白湯を代えようと茶碗をさげる。

秀満  「かたじけない」
しず  「かたじけあるぞ」
光秀  「しず、平太が好きか」
しず  「はい」
光秀  「そうか。平太は優しいか」
しず  「はい。兄ちゃんはいつも私たちのために一生懸命なんだ」
光秀  「そうか。それは良かった」

しずと光秀が語らっている。
織部、それを見ていて秀満に

織部  「光秀さん良かったですね」
秀満  「織部様のおかげでございます」
織部  「自分がお父さんだって言えればもっといいんですけどね」
秀満  「それは無理だと思います」
織部  「そうかなあ」
秀満  「光秀様がそうしたければそうするはずです」
織部  「まあいいんですけど」
たね  「織部出来たぞ」
織部  「お、今度はちゃんと書けましたか?」

汚い字で「ばか」とある。

たね  「どうだ?」
織部  「たねちゃん、絶対わざとやってるよね」
たね  「何がだ?・・・織部この筆くれ」
織部  「いいよ。あげる」
たね  「やった!ありがとう織部!」
光秀  「平太、良い妹を持ったな」
平太  「・・・しず、たね」
しずたね「なに?」
平太  「今日でお別れだ」
しず  「え?」
織部  「平太さん?」
秀満  「平太、何を言っている」
平太  「光秀様、しずとたねを養女として迎えていただけませんか」
秀満  「何をバカなことを」
光秀  「・・・」
平太  「俺はもうこいつらに心配させたくないんです。我慢させたくないんです」
織部  「平太さん」
秀満  「平太、戦がまた起こるとは決まってない」
平太  「でも起こるかもしれないんですよね」
秀満  「まあ、な」
平太  「次の戦で俺が生きて帰れるかどうかだって分からないじゃないですか。だったらせめて光秀様におすがりさせてください」
秀満  「おい」
平太  「こいつらをよろしくお願いします」
光秀  「・・・」
しず  「兄ちゃん・・・」
たね  「いやだ!みんな一緒じゃなきゃいやだ!」
平太  「たね」
たね  「そうだよな兄ちゃん!」
織部  「たねちゃんの言う通りですよ。家族じゃないですか。まだ戦になるって決まったわけじゃないんだし」
平太  「織部さんは黙っててくれ」
織部  「こんなこと黙ってられるはずないでしょ」
平太  「うるさい。俺はもう決めたんだ」
織部  「しずちゃんとたねちゃんが可愛くないんですか!」
平太  「・・・可愛くない」
織部  「可愛くない?」
平太  「ああ、可愛いなんて思ったこと一度もねえよ」
たね  「兄ちゃん?」
織部  「ウソですよね、ねえ平太さん」
平太  「ウソじゃねえ!」
織部  「好きなんでしょ?」
平太  「好きじゃねえよ。嫌いだ」
たね  「たねのこと嫌いなのか?」
平太  「ああ嫌いだ。お前らの顔なんて見たくもねえ」
たね  「兄ちゃんのバカ!」

平太を突き飛ばして走っていくたね。

しず  「・・・」

たねを追うしず。

織部  「しずちゃん!待って!」

二人を追う織部。
平太、起き上がって

平太  「光秀様!どうかしずとたねを明智家に迎えてやってください!お願いします」
光秀  「お前は二人の兄だろう」
秀満  「だいたい妹を捨てるだなどと」
平太  「光秀様、何でしずを捨てたんです」
秀満  「無礼だぞ」
光秀  「・・・」
平太  「しずは明智家の姫君になるはずだったんです。何で俺んとこなんかに」
秀満  「よく考えてみろ。この戦国の世で一番安全な場所はどこか」
平太  「どこだって言うんです」
秀満  「ここだ」
平太  「ここ?」
秀満  「殿は自分の側にしず様を置いたら命が危ないと思い、しず様をお前の父に託したのだ」
光秀  「すまぬ」
平太  「・・・全部戦のせいじゃないですか。しずが姫君になれないのも、俺が妹たちを捨てるのも、全部戦のせいじゃないですか」
秀満  「控えよ!」
平太  「・・・」
光秀  「平太の言う通りだ」
秀満  「光秀様」
光秀  「平太」
平太  「はい」
光秀  「妹たちを探しに行くぞ」
平太  「はっ」

三人。しずを探しに行く。

<11>に続く

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