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第一話 「経理とFP&Aの違い」について


ここ最近、FP&Aという言葉を新聞や雑誌、ネットで目にしたり耳にしたことがありませんか?

これはFinancial Planning & Analysisの略称、すなわち「財務計画と財務分析」を表します。

日本の伝統的な企業の多くはお金に関係する業務は「経理部」が行っており、決算などの会計業務が中心になります。一方で、アメリカの大企業の多くは「ファイナンス部門」という組織をもち「経理部」がそこに含まれます。加えて、アメリカ企業特有の「FP&A」部門が存在します。

最近、多くの日本企業がアメリカ企業に倣い、既存の経理部門にこの「FP&A」の機能を取り入れようとしたり、新たにFP&A部門を新設しています。

そこで今日は、自身がアメリカの大企業の財務部門長を務めた経験をもとに、「経理とFP&Aの違い」に焦点を絞り、お話しします。

経理や財務の仕事に従事されていない方々にもご理解いただけるように、なるべくシンプルに、かつ具体例を挙げて書くように努めます。

経理とFP&Aの違い

経理は「過去」にフォーカス

ざっくりと一言で「経理」を表すと「過去の実績」に関連した業務になります。例えば、大きなところでは月次の会社の売上金額や原価、利益の実績になります。より身近な個人単位になると、先月出張費用として精算した交通費や日当などの一般経費が過去の実績の一部になります。

経理部門はこれらの実績の金額を項目ごと毎月集計して月次決算をします。伝統的な日本の経理部門では、いかに敏速に、かつ正しく、「前月の実績」を経営陣に報告できるかが、重要なミッションになっています。

FP&Aは「未来」にフォーカス

同様に、アメリカの企業にも経理部門は存在します。敏速に前月実績を計算しますが、これはまだ、毎月の作業の第一ステップにすぎません。アメリカの経理部門は「前月の実績」を隣のFP&A部門に、共有します。

ここからが本番です。FP&A部門は前月の実績を精査した上で、今後の業績の行方を再計算します。言い換えると、過去の実績を見ながら、また、その他の情報をもとに、財務に関する「未来の予測」を行います。

例えば、冷凍食品の会社で「先月の売上実績」が予算に対して、大幅に落ち込んだと仮定します。FP&A部門はその理由を関係各署にコンタクトをとりながら明確化します。最近のいくつかの企業の例ですが、ウクライナとロシアによる戦争で国債輸送に影響があり、一部原材料の輸入が滞ったため、予定を大幅に下回る量の製品しか製造できず、売上機会の損失に繋がることがありました。FP&A部門はこのような最新の情報をもとに、来月以降の「将来の予測」を更新します。言い換えると、「最新の情報をもとに、最新の業績見込みを計算」することになります。

計算したばかりの「最新の今年の業績予測」と年初に経営陣が株主に約束した「年初予算」とを比較することにより、どの程度予算に対して差があるのかが明確になります。

具体的には以下が「見える化」されます。
⚫︎年初予算に対して、利益が下振れするリスクがあるのか?
⚫︎あるとしたら、具体的に幾らの金額規模か。10%の下振れリスクなのか。最悪の場合、30%まで下振れるリスクもあるのか。

FP&A部門の仕事はここからが肝になります。これら年初目標に対するリスクが具体的な数字として見えてきた段階で、営業や製造などの関係部門に連絡をとります。これらのリスクを追加の施策によって、いかに軽減できるか、案を探るためです。

例えば、来年の3月に導入予定だった新製品を今年の9月に前倒しできれば今年の利益下振れリスクがほぼ消滅すると仮定します。FP&A部門は営業部門と製造部門にコンタクトをとり、以下を確認します。

⚫︎今からでもスーパーやコンビニエンスストアに新製品の商談に間に合うのか。
⚫︎同時に製造部門にもコンタクトをとり、製造の前倒しをするだけのキャパシティがあるか

このような形で利益下振れリスクの穴を埋めるための、追加の施策を関係部署と複数作っていきます。

上の業務を通じてFP&A部門は経営陣に対して、以下の3つを報告します。

1.先月の実績と予算との差異、および差異の理由
2.今年の最新の見込みと年初予算、および差異の理由
3.年初予算に対する下振れリスクの穴埋め施策の提案

特に3つ目のリスクの穴埋めの施策案は、経営陣が多面的な視点から精査します。一つの案だけでなく、複数の選択肢を用意しておくと良いでしょう。

まとめ

以上が、簡単ではありますが、「経理とFP&A の違い」になります。ざっくりと「経理は過去に、FP&Aは未来にフォーカス」した業務と考えると良いでしょう。

次回の第2話では、日本で「FP&A導入する企業が増えてきた背景」についてお話ししたいと思います。

最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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