記事一覧

七月松竹座《すし屋》の感想:誠実で非力な維盛卿(萬壽丈)

大阪松竹座七月大歌舞伎の16日と17日の回を3階から観ました。 萬壽丈の維盛/弥助は前にも(しっかり)観ていたのですけども、今回あまりにも清新な人物像を見せられた思い…

猿丸
3日前
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《上州土産百両首》牙次郎の感想:がじのどじを腑分けする

※ヘッダーの画像はチラシからです。    《上州土産百両首》を前に映像で見たとき(※リアルタイムではチラッと見ただけで「鑑賞した」まで及んでない)は牙次郎役が巳之…

猿丸
1か月前
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《上州土産百両首》の三次の感想:羨み続けた男の話

 六月大歌舞伎、隼人丈による「みぐるみ三次」が強烈に後をひいて落ち着かないので書きました。  以下は初日から五回くらい見た時点での感想です。お芝居が変わったらま…

猿丸
1か月前
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芝のぶ丈の八汐きっかけで思うことになった、歌舞伎世界における「女」の話

※ヘッダー画像の写真は近代美術館で撮った岸田劉生のコレクションです。内容と密接な関係はありません。  《伽羅先代萩》の八汐は(真)女方が勤めるべきお役でない、とい…

猿丸
1か月前
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《御浜御殿綱豊卿》の感想:Y字路上に立たされた宙ぶらりんの三者について

真山青果の会話劇であるからして役者さんの口から出る滔々流麗たるセリフにうっとりと聴き惚れてても満足できる芝居だけれども、それだから初見の初日からとっても愉しんだ…

猿丸
4か月前
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《籠釣瓶花街酔醒》勘九郎丈の次郎左衛門感想

二月猿若祭初日、勘九郎丈の《籠釣瓶》次郎左衛門は、何よりも顔貌コンプレックスが基盤にある、と感じられた。 (前に観た勘三郎丈版の感想はこちら → シネマ歌舞伎《籠…

猿丸
5か月前
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《狐狸狐狸ばなし》感想

壽新春大歌舞伎、昼の演目最後の《江戸みやげ 狐狸狐狸ばなし》が気色悪かったことについて。 そう感じるに至ったポイントは、整理してみた結果二つあって、一つは物語の…

猿丸
6か月前
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《妹背山婦女庭訓》お三輪と官女たち

 《妹背山…》の演目自体が歌舞伎の舞台で実見するのは初めてで、社頭の場("道行恋苧環")のとこは資料館の映像(求女が松緑丈でお三輪が先代雀右衛門丈)だったり日舞(…

猿丸
9か月前
13

《文七元結物語》初日初見感想一部

《文七元結物語》、大きく引っ掛かったことが二つある。一つは女房お兼の【女性性】で、もう一つはセリフの「神様」だ。 【女性性】  いつもの歌舞伎の《文七元結》が『…

猿丸
9か月前
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《新・水滸伝》南座感想

2023年9月15日(金)。京都南座。歌舞伎座だと西にあたる、左の桟敷席のいっちばん舞台に近い枡に座らせていただきまして、《新・水滸伝》を鑑賞させていただきました。いや…

猿丸
9か月前
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《君たちはどう生きるか》後日詳細感想書き用取り出しメモ

本日TOHOシネマ日本橋にて初鑑賞。 よかったす。宮崎監督ありがとう…… “説明しきらない” 感じもすごく好きでした……《千と千尋の神隠し》の水面電車のあたりがずっと…

猿丸
10か月前
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新作歌舞伎《刀剣乱舞 月刀剣縁桐》感想(主に義輝と三日月宗近のこと)

よかった。ゲーム未プレイ者ながら、しっかり楽しみました。 以下はネタバレにガンガン触れながらクライマックスまでばっちり言及しますので 構わないぜっ!て方か鑑賞済み…

猿丸
1年前
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シネマ歌舞伎《籠釣瓶花街酔醒》感想

思ってたより厭な話じゃなかった。 悲劇だからしんどいんだけど、すごい悪意というのが無くて、そう言われたら(この性格でこういう状況なら)こうなるよな、という自然な…

猿丸
1年前
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河田小龍《加賀美山旧錦絵》感想

なんかもう、一発で好きになっちゃったんだよ河田小龍のお初。 横幟に描かれた《加賀美山旧錦絵》。絵巻物のように抜き描きされた場面が右から左へ展開してゆく。 お初は…

猿丸
1年前
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《ラ・マンチャの男》感想② 与えられた夢とアルドンサ

※①はこちら ⇒ 《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ猿丸|note のヒロイン、アルドンサ。名前の意味を知りたくて検索したら、Aldonza〈アルドンサ…

猿丸
1年前
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《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ

松本白鸚丈主演ミュージカル《ラ・マンチャの男》ファイナル公演、21日金曜の回を横須賀にて観ました。 今回、幸運なことに御縁が有りまして座ったお席が、最前列の上手ブ…

猿丸
1年前
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七月松竹座《すし屋》の感想:誠実で非力な維盛卿(萬壽丈)

七月松竹座《すし屋》の感想:誠実で非力な維盛卿(萬壽丈)

大阪松竹座七月大歌舞伎の16日と17日の回を3階から観ました。
萬壽丈の維盛/弥助は前にも(しっかり)観ていたのですけども、今回あまりにも清新な人物像を見せられた思いがして、以下に書きます。

◆弥助の誠実さ・好ましい婿候補ぶり

まず萬壽丈の弥助(維盛)のすごいのは、空の鮨桶担いでヨロヨロひぃふぅ帰ってくるのがホントにかわいくって頼りないところ…… どうして……歌舞伎役者は年齢に関係ない可愛さを

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《上州土産百両首》牙次郎の感想:がじのどじを腑分けする

《上州土産百両首》牙次郎の感想:がじのどじを腑分けする

※ヘッダーの画像はチラシからです。
 
 《上州土産百両首》を前に映像で見たとき(※リアルタイムではチラッと見ただけで「鑑賞した」まで及んでない)は牙次郎役が巳之助丈で、“一般的水準にまで機能的発達が達していない青年” という印象を受けた。他の人より発達に時間がかかるか、時間をかけても膨らむ容積のマックスが小さい、というような、個人の意思や努力がそのまま結実しにくい(/実を結ぶまですごくすごく時間

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《上州土産百両首》の三次の感想:羨み続けた男の話

《上州土産百両首》の三次の感想:羨み続けた男の話

 六月大歌舞伎、隼人丈による「みぐるみ三次」が強烈に後をひいて落ち着かないので書きました。
 以下は初日から五回くらい見た時点での感想です。お芝居が変わったらまた感想も変わるかもしれません。あと五回は観たい。

 三次という男は、悪事を飯のタネにしてることをちっとも後ろめたく思っておらず、むしろ真面目に働くカタギを馬鹿にして、抜け目無く立ち回ってチョロく稼げる奴こそ偉いんだと思ってるようなフシが

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芝のぶ丈の八汐きっかけで思うことになった、歌舞伎世界における「女」の話

芝のぶ丈の八汐きっかけで思うことになった、歌舞伎世界における「女」の話

※ヘッダー画像の写真は近代美術館で撮った岸田劉生のコレクションです。内容と密接な関係はありません。

 《伽羅先代萩》の八汐は(真)女方が勤めるべきお役でない、というようなお声を複数お見かけした。立役に比べるとどうしても、生々しくなりすぎるから、線が細くなるから、憎々しさの方向が変わるから、等がその理由だったと思う。
 どうして生々しくなっちゃいけないんだろう、というところからぼんやり考えてった結

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《御浜御殿綱豊卿》の感想:Y字路上に立たされた宙ぶらりんの三者について

《御浜御殿綱豊卿》の感想:Y字路上に立たされた宙ぶらりんの三者について

真山青果の会話劇であるからして役者さんの口から出る滔々流麗たるセリフにうっとりと聴き惚れてても満足できる芝居だけれども、それだから初見の初日からとっても愉しんだ自覚があるんだけれども、連続鑑賞の4日目終盤にして「分かった~~~!!!」と思ってから臨んだ翌5日目の観ごたえ聴きごたえがとんでもなかったです泣きましたありがとうございました真山青果御大。ありがとうございましたニザさま幸四郎丈バチバチの応酬

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《籠釣瓶花街酔醒》勘九郎丈の次郎左衛門感想

《籠釣瓶花街酔醒》勘九郎丈の次郎左衛門感想

二月猿若祭初日、勘九郎丈の《籠釣瓶》次郎左衛門は、何よりも顔貌コンプレックスが基盤にある、と感じられた。
(前に観た勘三郎丈版の感想はこちら → シネマ歌舞伎《籠釣瓶花街酔醒》感想|猿丸 (note.com))

ひどい痘痕面で、初めて自分の顔を見た者は(ストレートに表すかどうかの差異は有れど)ぎょっとするのが当たり前で、だから次郎左衛門本人も慣れっこで、それが自分の定めなのだと諦めて、受け入れて

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《狐狸狐狸ばなし》感想

《狐狸狐狸ばなし》感想

壽新春大歌舞伎、昼の演目最後の《江戸みやげ 狐狸狐狸ばなし》が気色悪かったことについて。

そう感じるに至ったポイントは、整理してみた結果二つあって、一つは物語の中の人間性の否定であり、もう一つは、これはわたしの穿ち過ぎかと我ながら思うのだけど、興行側の非人情的客観性である。

一. 物語の中の人間性の否定

わたしは幼少期から《コレクター》みたいなサイコ・サスペンスに対して恐怖が強い自覚があり、

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《妹背山婦女庭訓》お三輪と官女たち

《妹背山婦女庭訓》お三輪と官女たち

 《妹背山…》の演目自体が歌舞伎の舞台で実見するのは初めてで、社頭の場("道行恋苧環")のとこは資料館の映像(求女が松緑丈でお三輪が先代雀右衛門丈)だったり日舞(お三輪が井上八千代氏)だったりで観たことがあるのだけど、全編通したオチまで知らなかったので、最後のほうなんか、あぁここでこうなるんですかぁ!ほへぇ! と新鮮に物語を楽しめた。
 あと先月歌舞伎で観た段のさらに前の部分は、春に大阪行って文楽

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《文七元結物語》初日初見感想一部

《文七元結物語》初日初見感想一部

《文七元結物語》、大きく引っ掛かったことが二つある。一つは女房お兼の【女性性】で、もう一つはセリフの「神様」だ。

【女性性】

 いつもの歌舞伎の《文七元結》が『ダメだけど根は善人で憎めない長兵衛さんの話』であるのに対して、今回の《文七元結物語》は『根は善人だけどダメな長兵衛さんと長兵衛さんの家族と周りの人々の話』に思われた。云い換えれば、歌舞伎版は “長兵衛に始まり長兵衛に終わる話” で、いわ

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《新・水滸伝》南座感想

《新・水滸伝》南座感想

2023年9月15日(金)。京都南座。歌舞伎座だと西にあたる、左の桟敷席のいっちばん舞台に近い枡に座らせていただきまして、《新・水滸伝》を鑑賞させていただきました。いやぁ………ありがたいことですね………。

というわけで、そこから見えた光景や体験や、さらに夜の部で座らせていただいた(!)、三階席から見えた景色や思ったことなど綴ってゆきます。

※歌舞伎座とのバージョン違いを挙げる目的ではございま

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《君たちはどう生きるか》後日詳細感想書き用取り出しメモ

《君たちはどう生きるか》後日詳細感想書き用取り出しメモ

本日TOHOシネマ日本橋にて初鑑賞。
よかったす。宮崎監督ありがとう……
“説明しきらない” 感じもすごく好きでした……《千と千尋の神隠し》の水面電車のあたりがずっと続いてる雰囲気で……。

泣いたポイント

◆主人公・眞人の造形
・行動力があり頭が回り度胸があり優しさを持ち合わす、“次期国王” にふさわしい少年の王道主人公像と、それゆえの孤独と寂しさ
・『下の世界』での行動原理が “すべて他者の

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新作歌舞伎《刀剣乱舞 月刀剣縁桐》感想(主に義輝と三日月宗近のこと)

新作歌舞伎《刀剣乱舞 月刀剣縁桐》感想(主に義輝と三日月宗近のこと)

よかった。ゲーム未プレイ者ながら、しっかり楽しみました。
以下はネタバレにガンガン触れながらクライマックスまでばっちり言及しますので 構わないぜっ!て方か鑑賞済みの方だけどうぞ。
観たのは7/7(金)、12:00~の回です。

刀鍛冶から始まるの、"刀たちの物語を、順序立てて見せる" って感じで良かったなぁぁ……

3階の下手側の脇から観てたために、双眼鏡を構えると舞台を斜めから覗き込むような角度

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シネマ歌舞伎《籠釣瓶花街酔醒》感想

シネマ歌舞伎《籠釣瓶花街酔醒》感想

思ってたより厭な話じゃなかった。
悲劇だからしんどいんだけど、すごい悪意というのが無くて、そう言われたら(この性格でこういう状況なら)こうなるよな、という自然な理解のもとで少しずつ少しずつそちらへ傾いた結果というか、「崩れ」でも「歪み」でも「捩じれ」でもなくて、従って「破滅」でもなくて、ただの「辛い事態」で、だから観終わった後どんよりするものでなかった。感覚としては《鷺娘》みたいに、そうなることが

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河田小龍《加賀美山旧錦絵》感想

河田小龍《加賀美山旧錦絵》感想

なんかもう、一発で好きになっちゃったんだよ河田小龍のお初。

横幟に描かれた《加賀美山旧錦絵》。絵巻物のように抜き描きされた場面が右から左へ展開してゆく。
お初は、健気で献身的な王道のヒロインて感じじゃなくて、利かん坊なんだろなっていう、イキの良すぎる様子の少女。今だったらベリーショートの髪でバスケ部かバレー部のキャプテン張ってる子。のびのびと長く育った手足もぶあつい体格も、勝気で直情径行な性格も

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 《ラ・マンチャの男》感想②  与えられた夢とアルドンサ

《ラ・マンチャの男》感想② 与えられた夢とアルドンサ

※①はこちら ⇒ 《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ猿丸|note

のヒロイン、アルドンサ。名前の意味を知りたくて検索したら、Aldonza〈アルドンサ〉「良い」と出た。良子ちゃん。

キハーナ/セルバンテスが「なりたいもの」を思い描け、ドン・キホーテが己の「人生」を武勇で華々しく彩ろうと欲するほど暮らしに余裕のある教養人であったのに対して、アルドンサは与えられた生にしがみつ

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《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ

《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ

松本白鸚丈主演ミュージカル《ラ・マンチャの男》ファイナル公演、21日金曜の回を横須賀にて観ました。

今回、幸運なことに御縁が有りまして座ったお席が、最前列の上手ブロック、半円形に出っ張った舞台の右側から少し斜めに見る角度で、わたしの大好きな歌舞伎座二階東席に似ている……と思った。見下ろすか見上げるかの違いだけ……という感じ。その特殊な角度のため、歌舞伎で云ったら後見さんにあたる役者さんの動きが、

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