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《御浜御殿綱豊卿》の感想:Y字路上に立たされた宙ぶらりんの三者について

真山青果の会話劇であるからして役者さんの口から出る滔々流麗たるセリフにうっとりと聴き惚れてても満足できる芝居だけれども、それだから初見の初日からとっても愉しんだ自覚があるんだけれども、連続鑑賞の4日目終盤にして「分かった~~~!!!」と思ってから臨んだ翌5日目の観ごたえ聴きごたえがとんでもなかったです泣きましたありがとうございました真山青果御大。ありがとうございましたニザさま幸四郎丈バチバチの応酬を。 人物の心の内は "ぜんぶセリフで言われてる" のだけど、シーンにおける話

    • 《籠釣瓶花街酔醒》勘九郎丈の次郎左衛門感想

      二月猿若祭初日、勘九郎丈の《籠釣瓶》次郎左衛門は、何よりも顔貌コンプレックスが基盤にある、と感じられた。 (前に観た勘三郎丈版の感想はこちら → シネマ歌舞伎《籠釣瓶花街酔醒》感想|猿丸 (note.com)) ひどい痘痕面で、初めて自分の顔を見た者は(ストレートに表すかどうかの差異は有れど)ぎょっとするのが当たり前で、だから次郎左衛門本人も慣れっこで、それが自分の定めなのだと諦めて、受け入れて、────でも確かにその都度傷つき寂しさを覚えていた人らしく思われた。 しっかり

      • 《狐狸狐狸ばなし》感想

        壽新春大歌舞伎、昼の演目最後の《江戸みやげ 狐狸狐狸ばなし》が気色悪かったことについて。 そう感じるに至ったポイントは、整理してみた結果二つあって、一つは物語の中の人間性の否定であり、もう一つは、これはわたしの穿ち過ぎかと我ながら思うのだけど、興行側の非人情的客観性である。 一. 物語の中の人間性の否定 わたしは幼少期から《コレクター》みたいなサイコ・サスペンスに対して恐怖が強い自覚があり、また "自我を剥奪される" 行為や状況に忌避感や嫌悪感を覚える性質である。ので、

        • 《妹背山婦女庭訓》お三輪と官女たち

           《妹背山…》の演目自体が歌舞伎の舞台で実見するのは初めてで、社頭の場("道行恋苧環")のとこは資料館の映像(求女が松緑丈でお三輪が先代雀右衛門丈)だったり日舞(お三輪が井上八千代氏)だったりで観たことがあるのだけど、全編通したオチまで知らなかったので、最後のほうなんか、あぁここでこうなるんですかぁ!ほへぇ! と新鮮に物語を楽しめた。  あと先月歌舞伎で観た段のさらに前の部分は、春に大阪行って文楽で(吉野川まで)観てたんで、https://x.com/sarumal/stat

        《御浜御殿綱豊卿》の感想:Y字路上に立たされた宙ぶらりんの三者について

          《文七元結物語》初日初見感想一部

          《文七元結物語》、大きく引っ掛かったことが二つある。一つは女房お兼の【女性性】で、もう一つはセリフの「神様」だ。 【女性性】  いつもの歌舞伎の《文七元結》が『ダメだけど根は善人で憎めない長兵衛さんの話』であるのに対して、今回の《文七元結物語》は『根は善人だけどダメな長兵衛さんと長兵衛さんの家族と周りの人々の話』に思われた。云い換えれば、歌舞伎版は “長兵衛に始まり長兵衛に終わる話” で、いわば長兵衛をずっと追っていく接近したカメラで、今回のは “娘お久に始まり関係者の全

          《文七元結物語》初日初見感想一部

          《新・水滸伝》南座感想

          2023年9月15日(金)。京都南座。歌舞伎座だと西にあたる、左の桟敷席のいっちばん舞台に近い枡に座らせていただきまして、《新・水滸伝》を鑑賞させていただきました。いやぁ………ありがたいことですね………。 というわけで、そこから見えた光景や体験や、さらに夜の部で座らせていただいた(!)、三階席から見えた景色や思ったことなど綴ってゆきます。 ※歌舞伎座とのバージョン違いを挙げる目的ではございません。既に多くの方が言及してくださってるので、こちらでは特に列挙はいたしません。

          《新・水滸伝》南座感想

          《君たちはどう生きるか》後日詳細感想書き用取り出しメモ

          本日TOHOシネマ日本橋にて初鑑賞。 よかったす。宮崎監督ありがとう…… “説明しきらない” 感じもすごく好きでした……《千と千尋の神隠し》の水面電車のあたりがずっと続いてる雰囲気で……。 泣いたポイント ◆主人公・眞人の造形 ・行動力があり頭が回り度胸があり優しさを持ち合わす、“次期国王” にふさわしい少年の王道主人公像と、それゆえの孤独と寂しさ ・『下の世界』での行動原理が “すべて他者のため” である強さと悲しさ ◆作品の【児童文学性】(家族/大人 の描き方) ・

          《君たちはどう生きるか》後日詳細感想書き用取り出しメモ

          新作歌舞伎《刀剣乱舞 月刀剣縁桐》感想(主に義輝と三日月宗近のこと)

          よかった。ゲーム未プレイ者ながら、しっかり楽しみました。 以下はネタバレにガンガン触れながらクライマックスまでばっちり言及しますので 構わないぜっ!て方か鑑賞済みの方だけどうぞ。 観たのは7/7(金)、12:00~の回です。 刀鍛冶から始まるの、"刀たちの物語を、順序立てて見せる" って感じで良かったなぁぁ…… 3階の下手側の脇から観てたために、双眼鏡を構えると舞台を斜めから覗き込むような角度で見えたのですが、 トンカンやってる金床は、打ち途中の刀身を置く左右に広めの円盤

          新作歌舞伎《刀剣乱舞 月刀剣縁桐》感想(主に義輝と三日月宗近のこと)

          シネマ歌舞伎《籠釣瓶花街酔醒》感想

          思ってたより厭な話じゃなかった。 悲劇だからしんどいんだけど、すごい悪意というのが無くて、そう言われたら(この性格でこういう状況なら)こうなるよな、という自然な理解のもとで少しずつ少しずつそちらへ傾いた結果というか、「崩れ」でも「歪み」でも「捩じれ」でもなくて、従って「破滅」でもなくて、ただの「辛い事態」で、だから観終わった後どんよりするものでなかった。感覚としては《鷺娘》みたいに、そうなることが決まってる流れを、どうすることも出来ずに対岸からただ見守る、という感じのものだ。

          シネマ歌舞伎《籠釣瓶花街酔醒》感想

          河田小龍《加賀美山旧錦絵》感想

          なんかもう、一発で好きになっちゃったんだよ河田小龍のお初。 横幟に描かれた《加賀美山旧錦絵》。絵巻物のように抜き描きされた場面が右から左へ展開してゆく。 お初は、健気で献身的な王道のヒロインて感じじゃなくて、利かん坊なんだろなっていう、イキの良すぎる様子の少女。今だったらベリーショートの髪でバスケ部かバレー部のキャプテン張ってる子。のびのびと長く育った手足もぶあつい体格も、勝気で直情径行な性格も、活劇の主人公の少年をそのまま女の子にしたような若者に見える。 実家への使いを

          河田小龍《加賀美山旧錦絵》感想

          《ラ・マンチャの男》感想② 与えられた夢とアルドンサ

          ※①はこちら ⇒ 《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ猿丸|note のヒロイン、アルドンサ。名前の意味を知りたくて検索したら、Aldonza〈アルドンサ〉「良い」と出た。良子ちゃん。 キハーナ/セルバンテスが「なりたいもの」を思い描け、ドン・キホーテが己の「人生」を武勇で華々しく彩ろうと欲するほど暮らしに余裕のある教養人であったのに対して、アルドンサは与えられた生にしがみついて日々を送るのに精いっぱいで、彼女にとって「人生」とは、ただ今日を明日まで生き

          《ラ・マンチャの男》感想② 与えられた夢とアルドンサ

          《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ

          松本白鸚丈主演ミュージカル《ラ・マンチャの男》ファイナル公演、21日金曜の回を横須賀にて観ました。 今回、幸運なことに御縁が有りまして座ったお席が、最前列の上手ブロック、半円形に出っ張った舞台の右側から少し斜めに見る角度で、わたしの大好きな歌舞伎座二階東席に似ている……と思った。見下ろすか見上げるかの違いだけ……という感じ。その特殊な角度のため、歌舞伎で云ったら後見さんにあたる役者さんの動きが、真正面からは死角になるところさえも見届けることができ、後見さん好きのわたくしにと

          《ラ・マンチャの男》感想① 大河の先とサンチョ・パンサ

          続々・《花の御所始末》感想 義嗣

          感想は義教/満家と入江/北野の二編で終わらせていっか~(男女のバランスもいいし~)と思ってたんですけどやっぱり兄者・義嗣のことも書きますねぇ!!? 三月大歌舞伎で最も初めにお客の前に姿を現す坂東亀蔵丈・足利義嗣。 も~、この最ッ初の出の幾分緊張が窺えるお顔とその後の笛を吹かれながらお出になるお顔を真向い気味に見たくて東桟敷に幾度か座りましたよ!!(逆向きの、苛つきながらハケてゆかれるお顔や土牢で義教に懇願するお顔も見たくて西桟敷にも座りましたが……!) すっきりと凛々しい

          続々・《花の御所始末》感想 義嗣

          続・《花の御所始末》感想 入江と北野

          三月大歌舞伎《花の御所始末》の感想続き、重要な二女性編です。 前回(※) 同様、皆さんご覧になった前提でネタバレ全開で参りますのでお嫌な方は今すぐ画面を閉じてください。  ※前の記事をご覧になってからのほうが、以下をお読みになるにあたって、「何云ってんだコイツ?」という戸惑いが少なくなるかと思います。⇩  三月歌舞伎座 第一部《花の御所始末》感想|猿丸|note 一人は、雀右衛門丈演じる可憐な妹、入江。 グレた長兄へ気長に優しく接し、長兄と仲が悪い母をも気遣い、父を敬

          続・《花の御所始末》感想 入江と北野

          三月歌舞伎座 第一部《花の御所始末》感想

          皆さんご覧になったテイで参りますのでネタバレされたくない方は今すぐ画面を閉じてください。 今月の歌舞伎座《花の御所始末》は、主人公義教の、アイデンティティの喪失と再獲得の物語だとわたしは思った。 義教が次第に心を病んでゆくのは、「良心」のためだと解説されるけど、“アイデンティティが揺らいでいく不安と孤独” が大きいと思われて、それが脚本から(ひいてはインスパイア元の《リチャード三世》から)そうなのか、それとも幸四郎丈の演じ方なのか、気になるところであったけれど、どうも幸

          三月歌舞伎座 第一部《花の御所始末》感想

          『きつねにょうぼう』

          長谷川摂子氏再話、片山健氏絵、福音館書店の絵本です。 長谷川氏が編集された中で(※「再話」の定義を確認すると「伝承的な昔話や伝説を、歴史的な資料として忠実に記録するのでなく、現代的な感覚や用語で文学的に表現したもの。」とコトバンクで出た。つまり再話者の意識や感性が映ずることになる)、最も物語への影響が大きく、またわたしへの衝撃が大きかったものが、「女房が己の本性を現してしまうきっかけ」だと思われる。 うっかりはうっかりなのだが、その原因が獣らしい食欲でも、生き物らしい寝ぼ

          『きつねにょうぼう』