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日本修行編 第9話

いただきます...


「絶対怖いよ...」と2人で勝手に妄想だけ膨らましドキドキしながら、藤本さんへご連絡させていただき愛媛は、 松山で落ち合うことに。

松山といえば、松山城、そして誰でも入ることができ、千と千尋の物語のモデルの1つにもなった道後温泉がある。。
松山空港へ降り立ち、約束の時間は夜20:00、時間がまだ結構あるしせっかくだからと松山城へ登り、蛇口から出てくるみかんジュースを飲むため向かいの売店でコップを買い、息を切らしながら街を少し観光。

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夜、一緒に行った鮨屋の友達の愛媛でミシュラン2星に輝くくるますしさんにて藤本さん、梶田醤油の梶田さんたちとご対面。

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緊張の中ご挨拶を交わした。自己紹介もそそこに、腹も空き東京の名店で修業をしてきたコウジくんの鮨へ全員が神経を尖らせる。
目の前でコウジくんが握る鮨に集中し、沈黙がつづく。

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食事後、藤本さんのお宅へ泊まらせていただき、翌日、早朝から漁へ連れて行っていただいた。

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海にはしゃぎ、興奮を抑えきれない中、生まれて初めて体験する超一流の方達による漁の迫力に圧倒され、思わず息を飲んだ。

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網からあげられた魚を瞬時に仕分けしていく... 
藤本さんは魚の顔を見ただけで魚の質も見抜いている。
どれも、もちろん新鮮でうまそうだが、この日はピン(超1級品)はあがらなかったという。
ピンの1匹は滅多にあがらない。
どのお店もピンのお魚を欲しいと思うだろうが、それだけのお魚は料理するのがとてつもなく難しい... ただでさえ最高にうまい魚を活かす1品をつくるのは並大抵のことじゃない。
調理法、料理人の技量、料理のスタイルと、その人にあった魚を見極めて、卸されている。それは、卸しているお店へ食事に行き、料理人のこと、客層と届けられた後のことまで把握されているからこそなせる技だ。
Lv.100のお魚をLv.20の料理人に渡してもそれは使いきれず、かわいそうなだけだ。でも、Lv.20の料理人にLv.20前後のお魚を渡せば、それ以上に仕立てる可能性もある。
何より、まずはお魚のクオリティの違いが分かる料理人として成長することが先決だ。
今の僕にピンの魚は手にあまり、扱いきれないと即座に理解した。
いつか認めてもらえるその日を目指し、いつも通り修行に励むことが僕にできることだ。
初日は、獲れたお魚を持ち帰り、藤本さん一家と料理し、美味しくいただいた。
藤本さん宅の南蛮漬けうまかった。

翌日、早朝5時から僕ら2人はタコ漁研修へと出航する。
例外なく、藤本さんの元へ訪れる料理人は、漁を共にやり釣れたお魚で藤本さんたちに料理をふるまうのだ。
呑気に船の淵に足をかけ海風を感じているのも束の間、過酷な...過酷なタコ漁が待ち受けていた。
船酔いしない僕も念のため準備していた酔い止めを飲む、すると酔い止めをもってない友達の鮨屋が速攻で船酔いし始めるという(笑)

タコはとてもキレイ好きで、他のタコの匂いがついた蛸壷に絶対に入らない。

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前もって蛸壷を仕掛けられていた漁場へ着くと、まず蛸壷を引き上げるところから始める、そして蛸壷を生簀の側へと置くと、タコ自ら壺の中から出てきて生簀へとボチャンッと落ちていく。
大変なのはここから、潔癖症のタコくんのため、船の上で蛸壷を熱湯で洗い、もう一度罠を仕掛け海へと沈める。
半端な洗い方じゃタコは入ってくれない、揺れる中しっかり力を入れ、中腰でてきぱきと引き揚げては、タコを取り出し、洗い、仕掛けをし直し、海へと沈めていく。
怪我が治っていない僕は、見ていなさいと言ってくれたが、目の前で友達も含めみんなが働いている中、そんな、見ているだけなんてできるわけないじゃないか。
不慣れで手間取りながらも、片腕がうまく使えなくても友達と協力して、やり切った。
途中、タコについているタコの卵を食べたりしていると、なんで瀬戸内海の、藤本さんのタコがこんなにもおいしいのかが見えてきた。
それは、海流や神経〆という技だけでなく、エサにあった。
蛸壷を覗いてみると、瀬戸内海では普段漁れることがめったにないアワビやシャコなんかの貝殻が転がっている。
深海のハンターとも呼ばれるタコは、こんなにもおいしいものを食べていたのか...
両手が震えるほどの、タコ漁を終え一息ついたと思ったら、本来はあと2セットもあると...
今まで、正直、営業直前にお魚やタコやイカたちが届いた時、やっつけな気持ちで下処理を行なっていた自分を恥じた。
自分はなんにもわかっちゃいなかった。
遅かったかもしれない。料理人を初めて7年もの歳月が経っている、でもこの瞬間から僕の眼に映る1つ1つの食材たちが違って見えるようになっていった。

感謝に尽くす、料理人としてこれから生きていく上で1つの答えと

食材という命だけでなく、関わる全てに感謝。

お昼は、藤本さんの同級生の食堂で獲れたタコたちを料理してもらった。

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雨の日は休業という、粋なお店だ。
生のタコの刺身の味は忘れないほどの美味しさ。
満腹になったところで、タコの神経〆のやり方を教えてもらい、夜はいよいよ僕たちが藤本さんたちに料理をふるまう時だ。
それに向け、あか吉さんという今治では知らぬものはいないお鮨屋さん(焼肉屋さん)で仕込みをさせていただく。
鮨屋の友達もタコ漁の疲れで震える手で仕込みをしていく。
僕はというと、あか吉さんのお店で働いている子に手伝ってもらいながら、仕込みに取り掛かる。
右手が使えないからといって、目の前においしいお魚たちがいるなか、我慢できなかった。僕も料理したくなってしまった。未熟だけど食べてもらいたかったんだ。

人として成長できたと実感するほど濃密な数日を過ごし、その後、愛媛のみかん農家さんうみそらの林さんのところへと連れて行っていただいた。

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海の潮風を浴びて育ったみかんたちは、ただ甘いだけのみかんと違い、みかんらしい酸味、苦味、旨味と爽やかな香りが溢れていてとてもおいしい。
林さんのみかんジュースの自然な味に惚れ、僕の料理でも使わせていただいています。

忘れもしない...
最後、藤本さんたちと一緒に写真を藤本さんのところで働かれているおじいちゃんに撮ってもらった瞬間、携帯がスルリとコンクリートへと沈み、画面は粉々に砕けた思い出を(笑

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1つも2つも皮がむけた気がした。
一時は、怪我により自暴自棄にまでなっていたが、自然の呼吸を、命の呼吸を、命をかけて仕事をされている方たちとともに汗を流し過ごし、いかに自分がちっぽけか、僕がいなくなったって世界に影響はなんもないけれど、誠実に修行を続け上を目指していけばなにか、自分にしかできない何かが開ける気が、力が漲ってきた。

To be continued...

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