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必ず、想いは通じる

その頃、茜は離婚をした。
『この世はみんな打算でできている。自分さえ良ければそれでいいのか?』と
絶望に苛まれていた。

仕事を探さなければ生きていけない。
子どもを残して死んではいけない。
そんなプレッシャーの中、ハローワークの職業支援を目にし、勉強しながらお給料がもらえるシステムを知った。
”ヘルパー2級講座” 
茜に迷っている暇などなかった。3ヶ月間介護のことを学び、就職に繋げていくというものだった。
幸い、就職先はデイサービスに決まりホッと一安心。

デイサービスの仕事は、朝、利用者様のお宅へお向かいに行き、日中施設でお風呂と昼食、レクリエーションを楽しむところ。茜は送迎はもちろんだが、レク担当になった。
最初はおっかなびっくり・・・進行をしていた。しかし、日を追うごとにだんだんと慣れてきて自信を持って進行をしていけるようになり、おじいちゃん、おばあちゃんと親しく接せられるようにまで成長した。

そんな中、週2回通っている橋元さんとの出会いがあった。
その人はレクには参加しない人だった。無理強いをしてはいけないと思い、最初入りたての頃は、挨拶と他愛もない会話だけだった。
呼吸器系の疾患であまり声が出せず聞き取りにくい。橋元さんにあまり笑顔はない…。
茜は、どう接して良いか分からずにいた…。

ある午後のレクで、音楽の先生を招いての合唱会があった。今日の利用者様は集まると25人になる。ちょっとした合唱団だ。
茜は何とか橋元さんを元気付けたくて、となりに陣取って歌っていた。

すると、橋元さんの手が拍子をとっている。リズムにのって、か細い声で歌っているのが聞こえた。
元々、人と関わる事が好きだったり、有名歌手のコンサートに行く人だと聞いていた。
か細いながらも、一生懸命に歌っている。
その背中にトントンと手をあてリズムを取った。
込み上げてくる感情が胸を熱くした。

それからの橋元さんは体調の良い時には、
「あなたがいるから、レクにおじゃまするよ」と笑顔を見せて参加してくれるようになった。

茜は、嬉しかった。
必ず、思いは通じる。
一生懸命やっていることは、必ず良い方向へ向かう。

離婚をして人を恨むような人生を送ることなく、介護を通して
“ 人と人が触れ合う大切さ ” 
” 寄り添うことの大切さ ” を実感した。

そして、これからの人生や介護に生かしていく方向性を見つけたのだった。


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