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【短編小説】虹色カクテル





雨が上がった。





傘の縁から見上げる空は、優しい夕日に照らされていた。





傘を閉じてほとんど乾いてしまった雫を払う。






今日は金曜日。





残業もそこそこに仕事を切り上げて、東京のレンガを踏みしめた。






ヒールを鳴らす音が心地良い。





今朝雨が降っていたのが嘘かのような暖かさの中、





少し汗ばんできて薄手のカーディガンを脱いで腕にかけた。





こんな日はキンキンに冷えたお酒が飲みたい。





駅に向かう途中、建物隙間から小さな虹がかかっているのが目に入ってきた。





あ、レインボーカクテルにしよ。





今日のお酒もあっさり決まった。





せっかくなら暑くなってきたし、バニラアイスもトッピングしちゃお。








抱えきれないほどの瓶を引っさげてスーパーをあとにした。






できるかなあ。


初めてやる高難易度の挑戦に足がすくむ。





いや、ここでひよっていてはいけない。





勇ましい足取りで自宅へずんずん向かった。









棚の奥に眠らせていた背の高いグラスを取り出した。



これこれ。




今日はなんと言ってもレインボーカクテル。




虹色の乾杯をあなたに。





……ちょっとくさかったかな。



得げに持ち上げたグラスを水で洗い流した。




レインボーカクテルは注ぐ順番が命。




比重の大きい順に静かに静かに注いでいく。




少しでも失敗したらダークサイドに落ちる。





ドリンクバーで全種類混ぜて顔を曇らせる人間を何人も見てきた。





慎重に、慎重に、丁寧に色を重ねていく。





あっ。





少し枠をはみ出してしまった絵の具のようにここから脱出したがっている色がいた。





最終的に出来上がったカクテルは少し不格好だったが、初めてにしては上出来だった。





まあ、色だってお互いに混ざり合いたいだろう。




とりあえず自分をそう納得させて、

仕上げのアイスクリームを乗せた。




これこれ。





少し窓を開けて夜風に当たりながらカクテルをストローで吸う。




一気に一番下のシロップが喉に入って軽くむせた。




けほけほ。




お口直しにアイスをぱくっとした。




あ、幸せ。





何度か挑戦してみたものの上手にうまく飲めなかったので、全部かき混ぜてしまった。




……うん。




ドリンクバーで全種類混ぜた人間の顔をしてしまった。





これもまた面白い金曜日か。





週末はもう少し美味しいお酒を飲もうと心に誓った。

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