【短編小説】宇宙グルメ【期間限定無料】
その宇宙人は宇宙一人旅が趣味だった。
とりわけ様々な惑星に旅をしてはそこでしか食べられないご当地グルメを楽しむ。
しかし惑星を渡り歩くのは中々難しく、お金と時間がいくらあっても足りなかった。
そんな宇宙人がたくさんいたからか、ある時から太陽系の端に「多惑星バー」というものができた。
そこにはたくさんの宇宙人がいて、様々な惑星のご当地グルメが楽しめる。
ネオンのような発色のそのバーは様々な色や形の生き物で賑わっていた。
お互い通じる言語はないため、メニューは必ず店主のおまかせだ。
飲み物のみか食事もしたいのかを選んで客席に座るとカウンター越しに作ってもらえるというシステム。
一人が好きな身としては最高の場所だ。
お店の丸い窓からは土星と遠くにある恒星がたくさん見えた。
自分の住むヘッペルヌップ星もうっすら見える。
店内にある星空レモネードも魅力的だったが、自分の前には青い液体の上に赤い丸が浮かべられた不安定な器が置かれた。
ミムマット星で飲めるカディスイアの上に、地球で食べられるさくらんぼが乗っている。
一口すするとそれはゲル状だった。
おいしい。昔アルブディ星で飲んだダンベルリを彷彿とさせる味だった。
さわやかで、ほんのり清涼感がある味わい。
星が弾けるような刺激がゲル状の舌触りとマッチして顎が外れた。
外で顎がはずれるなんて顔から火が出そうだった。
顔から火が出る前に慌てて顎を戻すと、カウンター越しのマスターと目があった。
「ヘッペルヌップ星?」
「あ、はい」
自分の星の言葉で尋ねられて動揺する。
「僕はガルマン星で生まれてヘッペルヌップ星に少し住んでいたことだあるんだ」
「そうなんですね!ガルマン星、一度行ったことがあります」
「楽しめたかい?」
「とっても」
嬉しかった。旅の醍醐味はこういうところにある。
顎をはめ、抑えながらさくらんぼを食べると、顎を押さえてよかったと思った。
目の前に運ばれてきた料理は太陽系の素材を組み合わせた味のマリアージュだった。
水星のミゾロ、金星のウニュラ、地球のニンゲン、火星のオリポ、木星のジュピ、土星のワッカ、ここに天王星のアヴソースをかけて、海王星のユクリの粉をかけて、お口直しに冥王星の石が添えてある。
今まで数々の星を旅してきたがこんなに惑星のご当地グルメを組み合わせたマリアージュを見たことがなかった。
「仕上げに太陽で炙りました」
幸せだった。
一口食べる前から美味しいことが分かる。
マスターに微笑み、料理を口に運んだ。
ここから味の宇宙旅行が始まる。
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