【連載小説】闇に潜む #1
あたりは静けさに包まれていた。
闇に覆われているその場所は空間も時間も存在しないような、そんな異質な空気が漂っている。
暗闇の中には少年を除いて、誰一人いなかった。
それどころか生き物の気配すら感じ取れない。
ランタンを片手に一歩一歩進むが、足を前に出すたびに進んでいるのか下がっているのか留まっているかすら判断がつかない。
「すみません、誰かいませんか?」
少年が震えた声で問いかけても静けさ以外返事がなかった。
一歩、また一歩と進む。
否、下がっているのかもしれないがなんとか足を動かして状況を脱するので精一杯だった。
己の息遣い、鼓動、衣服の擦れる音が耳に張り付く。
自分がどこを歩いているのかもわからない。
そんな気が狂いそうな状況の中、少年はとにかく足を前に出した。
歩き続けていれば不思議と恐怖心はない、しかし寂しさを感じた。
一人だからなどという理由ではなく、その空間自体が人を寂しくさせるようなそんな異質さを持っている。
額にかいた汗を感じながらも少年は足を進めた。
止まったらのまれる。彼の直感がそう訴えていた。
再びランタンを持ち上げると、しばらく先に光るものがあった。
固唾を呑んだ。人の形が見えた気がしたのだ。
それが敵か味方か、生者か死者か、人かそれ以外かもわからない。
ただ少年の希望が人の形に見せた幻かもしれない。
それでも少年はその人影に向かって歩みを進めた。
今この瞬間、彼にとってその人影だけがこの闇から脱するための希望だった。
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