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kogabun
【短編小説】振り返るとヤツがいる
かなり遠くまで来てしまった。
振り返る過程で持っていたものをかなり落としてしまったが、それでもヤツからは少し逃げられた気がした。
振り返ってみた。
誰もいない。
ほっと胸を撫で下ろした。
ここならきっと安全だろう。
そびえ立つ本棚にたくさんの本が並んでいるその場所は、ヤツから隠れるには最適な気がした。
捕まれば二度と元に戻らない事は風の噂で聞いていた。
ヤツは間違いなく悪魔だ。
絶対に捕まるもんか。
そう強く決意し、スッとほんの間に隠れた。
窓越しに雨音がする。
ここに来るまでに少し濡れていたが、必死にぎゅっと小さくなって駆け抜けたおかげで被害はさほど多くはなかった。
ぴちゃっ
ヤツだ。
緊張感が漂う。
ぴちゃっ
雫を一滴ずつ垂らしながら獲物を見つけるように歩き回る。
なぜここだと分かったんだ。
僕が隠れていた場所の前を通り過ぎる。
息を潜める。
ぴちゃっ
少しして通り過ぎたのが分かった。
ここで隠れていても見つかるのは時間の問題だ。
一刻も早くここを出なければ。
そう思い本棚から身体を滑らせて抜けると
ぴちゃっ
そんなバカな。
この巨大な図書館の奥まで行ったじゃないか、どうして。
振り返る。
ぴちゃっ
そこには真っ黒なインクがいた。
いやだ。
僕はまっさらなノートで居たい。
お願い、見逃して。
ぴしゃ
願いも虚しく、そのノートは真っ黒なインクに染まってしまった。
インクに染められたノートはもう二度と元には戻れない。
ノートはその場で泣き崩れた。
インクに染まったこの世界で、
生き残った最後のノートが染まってしまったのだった。
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