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【短編小説】高速ロールキャベツ




キャベツは高速で転がった。




ひき肉を求めて爆速で転がった。




早急に巻かなければべちゃべちゃになってしまう。




キャベツは坂道を転がった。




仲間を捨て、




鍋を越え、



ざるを越え、




まな板を越え、





ボウルのひき肉に出会い、






そのまま勢い余って通り過ぎた。









しまった、このままではただのべちゃべちゃのキャベツになってしまう。







しかしキャベツはこれ以上転がれない。





破れて、ちぎれって、よれて、よろけて、




キャベツはもう満身創痍だった。





このままもう誰も包めずに一生を終えてしまう。




そんな寂しいことはあるだろうか。





キャベツは泣いた。






体から出汁がたっぷり出た。





しくしくキャベツはべちょべちょ泣いた。





誰かを包むのではなく、誰かに包んでほしかった。






するとそこにひき肉が落ちてきた。





ひき肉は自らキャベツを求めて転がり込んだ。





ひき肉はキャベツよりもジューシーで、

涙でぬれたキャベツはそのジューシーさに更に涙した。






キャベツは感謝しながらこのひき肉を大事にしようと思った。





そしてひき肉を優しく包み込んだキャベツは、




トマトスープに優しく包まれていった。

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