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EPIC DRUMS 00s~ (part8)

2000年以降の楽曲のみを取り上げ、流行り廃りを超えた多角的なドラム/リズム分析を目指します(アーティスト名/曲名/リリース年、の順に表記)。一応ジャズ研OBという体は最低限守りつつも年代順不同、ジャンル不問。主観全開、批判は楽しく適量で。要するに単なる長文駄文。あえて音源掲載は行いません。気になったものだけコピペ方式で。

Mndsgn/Hope You're Doing Better/2021

主宰が連載当初から口うるさく書いてきた「楽曲途中で拍子感が変化する」楽曲、ついにモデルケースが登場しましたので紹介します。採用されているのは7拍子。ポピュラーな割り方は4+3あるいは3+4の非対称形、字足らず感あるいは字余り感が音楽性に絶妙なフックを加えてくれる。ところがこちらの楽曲ではこれまでの検証が通用しない部分も多い。

ドラムパターンに注目。意味の切れ目、つまりフレーズの周期が同じパート内でも不規則に変化していることがわかります。2+5と解釈することもできそうですし、さらに細かい7/16+7/16というパルスを感じられる箇所も存在しています。7拍子なのに16なんて分母が出てくるとは一体何事や。お客様非常に良い質問でございます。

16という数字はすなわち、16分音符を指しています。必ずしも7/16×2で勘定しなければいけないような決まりはありません。あくまで拍感を細分化する一手法として当楽曲に用いられているだけ。しかしこれがなかなかに効果的であることは間違いがなく、独特の浮遊感、収まりが良いようでするっと手から逃げていくような不思議な感覚を聞き手に植え付けている。

イルリメ氏に敬意を表すれば「元気でやってるかい」なんて訳語になる本曲ですが。旧友に久し振りに電話してみたのか、それともショートメールか。よそよそし過ぎずズカズカ踏み込み過ぎないそんな絶妙な距離感を表現するために、こうしたリズムの軸ずらしが用いられたのかな。というのが主宰の見立てです。相手の顔色をうかがおうとあれこれ試行錯誤しているさま。

MVも観れば観るほどなんだか意味深です。終始パンダの被り物に身を隠す相手役のモデル。例えばこれが、意中の中国人女性のモチーフかもしれないですし。最後に登場するヒヨコのモチーフが恋敵である可能性は、超高い。ヒヨコもまた大人になると羽を伸ばしてどこか別の相手の元へ飛んで行ってしまうかもしれない。考えれば考えるほど奥深い楽曲の1つではないかと。

Black Milk/Will Remain/2018

この曲もなかなか面白いですよ。Nasが主宰を務めるMass Appealレーベル発のラッパー兼プロデューサー。波形を後ろにずらしたり手打ち感を残すことでリズムにふくよかさあるいは奥行きを加える手法はヒップホップに限らず様々なジャンルに散見されますが、「リズムがどんどん突っ走る」ケースは非常に稀です。前ノリにしたってさすがに限度がある。

それでいてベースラインは徹底したレイドバックっぷり。この、目に見えて明らかなコンマ数秒単位のズレが当楽曲最大の魅力。クラブのスピーカーで聞いたら酔っ払ってしまうかもしれませんね。氏の制作風景を見たわけではないので一概に言い切れませんが恐らくDAWソフトを開き、クリックを聞きながらそれぞれの波形を一番心地良い感覚のところまで前後ろにずらした。

その結果が、このズレを生み出したのだと主宰は考えます。ドラムが前で、ベースが後ろだ。大半のトラックメイカーは逆の発想になりそうなものですけれどね。ベースを前ノリにして、ドラムをモタらせるのが常套手段では。華麗に逆択を通してみせた氏のクリエイティビティに感服です。レアケース過ぎて比較対象曲すら挙げられませんので手短に。まさしく唯一無二。

Phony Ppl/Something About Your Love/2018

フジロックのYouTube同時生中継が始まって以来、恐らく一番リピート放送を観返したであろうバンドは彼らでした。2019年レッドマーキーでの演奏は間違いなくこの年のハイライトであったと断言できます。NYブルックリン発、ネオソウル新時代を象徴する存在までのし上がってきた感のあるPhony Pplを取り上げてみようかと。

リズム構成が非常にユニーク。メロと上ネタが徹底した頭ノリで突き進む中ドラムはオンタイムながらもかなり後ろ重心のフレージング、フィルインもオフビートが中心になっています。シンプルな4つ打ちフィールの方が楽曲にマッチしているのではなんてつい考えてしまいそうですが、あえて違和感を残す選択をしたことは先のBlack Milkと通ずる文脈があるのではと。

リズムに「引っ掛かり」がなくなってしまうことを懸念したのかも。ジャムバンドとしての威厳、と言い換えてもいいかもわかりません。打ち込み色を薄めるためにあえて字余り感のあるフレーズにしている。その結果、主宰がよく言う「かえるの合唱」状態を演出できて、複層的かつ休符部分も味わい深い音楽へと仕上がった。フジロックでのパフォーマンスも見事でした。

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