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#音楽

さいきん「怒り」について考えている2つのこと

さいきん「怒り」について考えている2つのこと

(1) わたしが演じている「怒り」について

 今年はオラトリオやオペラなどの「劇音楽」を演奏する機会が多かった。そのほとんどが、音楽がまだ修辞学的に作られていた時代のものである。すなわち音楽が感情をありありと描いていた、バロック時代のものだ。わたしはヴィオローネ(コントラバス)奏者であるから、わたしがふだんの仕事ですることは、基本的には全体の響きを(誰にもわたしの音だということを気付かれないよう

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オーケストラ、給与体系の歴史

オーケストラ、給与体系の歴史

 大学を卒業してから、お仕事で「首席奏者」を弾かせていただく機会が徐々に増えてきた。「首席」で弾くと「首席手当」がもらえる。すなわち、他の人よりもギャラが少し高い。確かに管楽器の首席奏者たちはソロが多く、弦楽器の首席奏者はボウイングを決めなければならず、或いは音楽のイニシアティブを取るために曲をより理解しなくてはいけないから、他の奏者よりも準備に時間がかかる。とはいえ、例えば同じ「1番オーボエ」で

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「誤配」としてのヴォルフトーン。

 ドイツ語でヴォルフトーンWolfton、英語でウルフトーンwolf toneと呼ばれるそれは、低弦楽器を演奏した際に、その音と楽器の胴体が共振したときに発生する非自然的な倍音である。要するに「うねり」だ。狼が啼くようにウォンウォンとした音がするから、そう名付けられたそうだ。コントラバスにおいては特にG♯の音で頻出し、だいたいF♯からB♭の間で発生することが多いだろう。
 すべての音をなめらかに均

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ストリートピアノを殉職させてはならない。

鹿児島県の霧島市で、先週、ストリートピアノが壊されるという事件があった。犯行の様子は防犯カメラに記録されており、土曜日の午前6時に、男女計4人によって破壊されたそうだ。楽器は倒され、前板やふたが剥がれ、鍵盤は波打っていた。あまりに痛ましい。特に演奏家にとって、壊された楽器を見ることほど悲しいことはない。多くの演奏家にとって楽器は神聖なものであり、同時に我が子のように愛おしいものであるからだ。
一方

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